身体表現性自律神経機能不全(いわゆる自律神経失調症)

自律神経失調症という診断名は、とてもよく知られた呼び名ですが、正式なものではありません。国際疾病分類(ICD−10)では、身体表現性障害の下位項目にあたる身体表現性自律神経機能不全が最も近似した診断名になると思われます。名前はどちらでも良いのでしょうが、うつ病も頭痛も時には原発性の不眠症でさえも自律神経失調症と診断され、患者さんも「なんやようわからんけど、自律神経がおかしいみたいや」と考えている場合が多いように思えます。「体の症状があって、原因がわからない時には自律神経失調症という言葉でお茶を濁す」といった状況は、説明する側も、される側もなんとなく安心できていいのかもしれませんが...。原因がわからないことに苦しんでおられる方も数多くいるわけですから、やはり少し問題ではないかと思っています。

ただ、どこまでが自律神経の問題で、どこからがその他の問題であるのかを正確に捉えることも容易ではありません。
自律神経は体中に分布した神経ネットワークであり、その機能不全により出現する症状は様々であるからです。
一般的な見解としては、/慣豐彪蓮↓⊂嘆輯鏃蓮↓8撞朶鏃廊と臟∪舷4鏃廊イ修梁召隆鏨鰻蓮△吠類し症状を捉えていくことになります。
下に各部位ごとの代表的な症状をあげておきます。

/慣豐彪
動悸・発汗過多・紅潮などがおもな症状ですが、緊張したときにみられる手の振るえ・しびれや過緊張の後にみられる迷走神経反射(突然の血圧低下・循環虚脱による、めまい・ふらつき・激しい倦怠感)なども含まれます。

⊂嘆輯鏃
消化管の運動や消化酵素の分泌調整は、主に自律神経によって行なわれています。
したがって、器質因のない慢性的な下痢や便秘、胃部不快・嘔気などの症状があげられます。

8撞朶鏃
過呼吸(過換気症候群)や原因不明の咳嗽などがあげられます。

と臟∪舷4鏃
尿意頻回や排尿困難など。

イ修梁召隆鏨鰻
唾液腺からの分泌低下(口渇)など。

いずれも症状のある器官系に明らかな異常をみとめないことが、診断の前提となります。

このようにして、一応の診断はつくのですが、その成因を探っていくことはとても困難であります。
ある程度は体質という漠然とした表現を使わざるを得ませんし、日々の生活における「酷使による自律神経系の疲弊」という説明も成り立つように思われます。他ページにも書きましたが、自律神経は緊張方向への交感神経と弛緩方向への副交感神経によって成り立ち、生体のバランスをとる働きをしています。これが過剰な緊張と弛緩を繰り返すことで、生体のバランスが失われ、様々な症状が出現してくるのではないかと考えられます。



では治療はどのように行なうのでしょうか?

1.対照療法
それぞれの症状に対してのお薬を使うことで、症状の軽減をはかります。例えば便秘には緩下剤を、胃部不快には胃薬を、動悸には(実際に心拍数が上ってしまうような場合)β−blockerという交感神経の働きを抑える薬を使ったりします。
漢方薬の中にも効果を発揮するものがあります。

2.自律神経への負担を軽減させるための治療(薬物治療)
自律神経の中枢は脳の中の視床下部というところにあり、この場所は不安や怒りといった情動の中枢である辺縁系と相互連絡しています。つまり、不安やイライラを鎮めることで、自律神経の興奮も抑えられると考えられます。ですから、抗不安薬を飲むことで、様々な身体症状が軽減もしくは消失することが多々あります。
また辺縁系と大脳皮質との連絡もあるわけですから、意欲を高めるお薬(抗うつ薬)が有効となる場合もあります。
「体の症状を訴えて受診したのに何で不安やうつの薬を飲まないといけないのか」と納得がいかない方もいるのではないでしょうか?不信に思いながら薬を飲むのは良いことではありませんし、十分な説明を受けてから内服を開始してください。

3.自律神経への負担を軽減させるための治療(薬物治療以外)
十分な睡眠や適切な食事、これはとても大切なことです。自律神経とは別名植物神経ともいわれます。植物は日の光や栄養を取り込むことで成長しますし、自律神経にとっても同じことがいえるのです。
また、不安を抱えた生活、緊張感の続く生活は自律神経への負担が大きいものです。生活環境を見直すことも重要なことになります。

4.自律神経の中枢に直接働く薬
tofisopam,γ−oxyzanolといった薬は視床下部に直接作用し、自律神経の働きを調節するといわれています。
実際には、劇的な効果がでることは少ないように思いますが、作用機序としては期待できる薬です。

5.自律神経の耐性を高める治療
代表的なものは自律訓練法ですが、これは別ページで紹介したいと思います。
また2や3の内容をみれば、認知療法行動療法が有効な場合があります。
自律神経は自律して働く神経であり、基本的には意志によりコントロールすることができない神経です。
しかし、ヨガの行者が思うがままに心拍数をコントロールできるという話をきいたこともあります。(私にはできませんが...)ある程度は随意的な調整ができるのかもしれません。
また様々なリラクゼーション法も有効であると考えられます。


自律神経の機能評価
心拍数の変化・血圧の変化・末梢血管の状態についての観察・発汗量の変化などにより、自律神経の機能評価は可能ですが、経時的な変化をみていくことが大切であり、臨床症状との関連をどう考えるかが重要となります。