PLCで短波放送受信が存亡の危機に

電灯線インターネット、短波利用の危険性 (電力線搬送波通信、PLC)

高速電力線搬送通信に関する研究会(2005年)資料

2005年10月21日パブリックコメントの募集が始まりました。多くの方の意見が出されることでしょう。日本SF小説の世界で、星雲賞受賞SF作家である 野尻抱介さんが、ご自身のサイトで美しい言葉で反対を表明されています。とても感動しましたので、下記に引用させて頂きます。「夜空・電波・感動」こんな言葉でPLCに対するメッセージを出せるのは流石に・・・。

 いまPLCに反対しているのは天文学界と短波放送局、アマチュア無線家ぐらいですが、私はより一般的な社会問題と考えています。

 これは、波長の長短を除外して考えれば、夜空から星を奪う光害と同じものです。光害やデジタルノイズの氾濫を許すのは自然に対する感受性の鈍磨です。人為的な放送電波の受信においても、空電や電離層、ひいては太陽活動のありさまが反映されるので、常に自然を意識します。

 空から届くかすかな電磁波に目をこらし、耳を澄ませることで得られる感動は、かつてなら誰でも味わえました。目先の利益や利便性ばかり見ていては、その感動を子供たちから奪うことになるでしょう。


平成17年9月26日

高速電力線搬送通信に関する研究会
短波放送からの意見書

林政克(日経ラジオ社)

1、規制緩和
 電波に関する規制、中でも周波数の割り当ては、有害な混信によって公共財たる電波の有効利用が阻害されることを防止するために必要不可欠なものであって、そもそも既得権益を守るためのものではない。この規制のおかげで、テレビ、ラジオ、携帯電話などが有害な混信を受けずに快適に利用できるのであって、短波放送や短波通信もその例外ではない。この点について、総務省や電波産業会に異論があるとは思えない。

2、短波
 短波帯は、電離層反射によって日常的に見通し距離外まで伝播し、無中継で国際通信・国際放送が可能な唯一の周波数帯であり、人類共通の貴重な資源である。フェージングなどの自然現象や狭帯域性のために、安定性・高品質・高速性が重視される用途では、衛星や有線(光ファイバ通信)にシェアを譲ってきたが、無中継性・簡便性・ユビキタス性が求められる用途ではその重要性は変わっていない。その代表的な用途の一つが国際放送・全国放送である。短波でも、ディジタル化によってFM放送なみの高品位オーディオとテキスト・画像などディジタルコンテンツの放送が可能となり、既に国際的に統一された規格(DRM)で各国から放送が行われている。ディジタル化によって、短波放送が国際放送や全国放送のメディアとして再び重要な位置を占め、飛躍的発展を遂げる可能性がある。無中継で世界中に届き、乾電池ラジオ一つで世界中どこにいても受信できるという真のユビキタス性は、通信網に依存するインターネットや携帯端末では置き換えることができない唯一のものである。大規模災害や戦争・テロによって既存の通信網が破壊された場合に、長距離の情報伝達手段は短波しか残らないことを忘れてはならない。実際、ハリケーンKatrinaにより被災した米ニューオリンズの中波放送局WWLは、その制作した番組を約1000km離れたサウスカロライナ州の短波放送局WHRIから送信し、広域に避難した被災者への放送を継続している。【典拠: http://www.wwl.com/Article.asp?id=114239
 OFDMやFEC(誤り訂正)といったディジタル通信技術の進歩は、電力線搬送通信(PLC)のみに反映されているわけではなく、短波放送にも革命的進歩をもたらしつつ ある。短波放送が時代遅れのメディアであるというようなアナログ時代の古い既成観念に基づいて、短波放送帯(短波帯において無線通信規則により放送業務に分配された周波数帯をいう。以下同じ。)のPLCへの開放を求めるのは間違いである。

3、規制値と有害な混信の速やかな除去の保障
 PLCについては、漏洩電界の規制値のみに議論が集中しているが、その規制値の性格について規制緩和を求める側に大きな誤解があるのではないかと危惧する。たとえ規制値を満たしていても、ITUが短波放送に割り当てた周波数帯において、短波放送に有害な混信を与えることは許されず、規制値を満たすことが何ら有害な混信に対する免責にならないことを忘れてはならない。従って、規制値の如何に関わらず、実際に短波放送受信者がPLCからの漏洩によって有害な混信を受けた場合に、有害な混信が速やかに除去されることが技術的・法的に保障されない限り、短波放送帯をPLCが使用することはできない。
 技術的には、有害な混信の原因となっているPLCとその使用者の特定の問題が非常に大きい。特に、複数のPLCからの総体によって妨害を受けている場合、原因の特定は非常に困難であり、使用形態によっては事実上不可能となる。混信を受けた短波受信者が原因となるPLCやその使用者を特定することは技術的・経済的に困難であり、かつ、その責任を被害者である短波受信者に科すことは理不尽であるので、行政など何らかの公的機関が原因特定を行う必要がある。その社会的コストは誰が負担するのか?
 法的には、PLCが与えた有害な混信を誰が責任を持って除去するのかという問題がある。規制緩和と自己責任は対になる概念であるから、第一義的にはPLCの使用者がこの有害な混信の責任者として速やかにPLCの使用を中止しなければならない。しかし、原因特定の技術的困難のうえに、その使用者の特定がさらに困難であるために、長期にわたって有害な混信が放置される危険性がある。PLCが広く市販された場合には、モデムから使用者を特定することは事実上不可能となるだろう。(米国のBPLモデムは市販が禁止されており、プロバイダーが一元管理している。)さらに、PLC−Jが主張するように、PLCの主たる利用者がいわゆる情報弱者と呼ばれる人達であるならば、有害な混信除去のための技術的対処を責任をもって行っていただくことを期待するのは難しいのではないか。また、これらの情報弱者を含む一般消費者が、PLCを使用することによって、知らない間に加害者となる危険性について、PLCの供給者は事前に十分説明する責任がある。それでも、使用者がその自己責任を十分自覚し、有害な混信の原因と特定された場合に速やかに使用を中止するとは限らない。従って、行政が速やかに介入して強制的に使用を中止させる必要がある。行政は、無線通信規則(RR15.12)によって電力線搬送通信からの有害な混信を防止するために実行可能かつ必要なあらゆる措置を取ることが義務付けられている。
 短波放送帯をPLCが使用するための条件は、当然ながらPLCが短波放送の受信に有害な混信を与えないことである。しかし、わが国の住宅事情と屋内配線の不確定性を考え れば、最悪ケースを想定しない規制値では、短波放送への有害な混信を防止することは不可能である。従って、規制値の如何に関わらず、実際に短波受信者がPLCから有害な混 信を受けた場合に、被害者である短波受信者の負担によらずに、速やかに混信が除去されることが技術的・法的に担保されていることが最低限の条件となる。これら一連の混信除去プロセスが技術的・法的に保障され、有害な混信が放置される危険性が排除されない限り、行政はRR15.12に鑑み短波放送帯の使用をPLCに許可すべきではない。 混信除去プロセスが停滞し、有害な混信が放置された場合、被害者である短波受信者は法的手段に訴えざるを得ない。直接の加害者であるPLC使用者が特定されていれば、使用者を訴えることになるが、近隣の人間関係を破壊する恐れがあり、被害者にとっても精神的・経済的負担が大きい。利用者が特定できない場合には、そのような事態を招いた製造者や行政の責任を問わざるを得ない。原因が特定できない場合も含めて、PLCの使用者、製造者、行政の責任を明確にし、何の責任も無い被害者が泣き寝入りしなければならないような事態を絶対に避けなければならない。

4、PLCとパソコンなどの電子機器との本質的違い
 PLCの漏洩電界は、しばしば他の電子機器との比較で議論されており、現在もパソコンの雑音に準拠する議長提案が行われているところである。しかし、PLCとパソコンなどの電子機器では、実際に短波帯の通信・放送に有害な混信を与えた時の解決可能性に決定的な違いがあることを見逃すことはできない。パソコンなどの電子機器の場合には、ラインフィルターの挿入や接地の改善などによって、本質的価値を失うことなく混信の原因となっている不要輻射を抑圧し、問題を解決することが可能である。それに対してPLCは本質的に放送と同じ周波数を使用しており、PLCの使用そのものを止めることによってしか混信の原因を除去することができない。このように、有害な混信を起こした場合に、利害対立が容易に解消可能か、そうでないかは、本質的な違いであり、PLCに対しては他の電子機器よりもどうしても慎重にならざるを得ない。

5、既得権
 最初に述べたように、周波数の割り当ては既得権を守るためのものではなく、有害な混信を防止して限りある電波資源を有効利用するために必要な規制である。その意味で、無中継で遠距離・国際通信が可能な唯一の物理的資源である短波帯に、放送業務用の周波数帯が国際的に割り当てられていることは、極めて妥当な資源配分であり、既得権として批判されるべきものではない。仮にそれを批判するならば、ITUに対して正々堂々と行うべきであり、短波利用者の既得権というようなイメージだけで短絡的に批判すべきではない。 批判されるべき悪い既得権とは、本来その正当な権利を有しないにも関わらず、既成事実の積み重ねによって、なし崩し的・不法占拠的に権利を主張するものを指す。そういう意味の既得権の危険性はむしろPLCの方にある。
 PLCの使用が長期に渡る場合やPLCの使用者が多数である場合、短波放送に有害混信を与えていることが判明しても、PLC使用者が既得権を主張して速やかに使用を止めない可能性がある。PLCからの漏洩電波には、規制緩和の進んだ米国でさえ、FCC規則のPart15.5で一切の既得権を認めていない。わが国でも、PLCの漏洩電波がなし崩し的に短波帯を不法占拠し既得権が形成されないように、十分注意する必要がある。

6、無線LANの優位性とPLCのリスク
 PLC−Jは、無線LANは情報強者のためのもので、PLCは情報弱者のためのものと主張しているが、これには全く根拠がない。そもそも、ユーザにとっての使いやすさは、ユーザーインタフェースに依存するのであって、物理層には依存しない。ユーザーインタフェースの進歩を否定する議論は意味がない。ユーザーにとっての総合的な利点では、下記の点で明らかに無線LANの方に優位性がある。
(1)低コスト
(2)世界的な統一規格によるインターオペラビリティの高さ
(3)ノートパソコンなど電灯線に接続しないバッテリー駆動の機器でも使える
(4)通信・放送に有害な混信を与えて他者に迷惑をかけるリスクが小さい
(5)有害な混信を与えて使用停止に至る所有リスクが小さい
 単一の住居内で無線LANが通らない場合としては、鉄筋住宅の階間が考えられるが、踊り場付近に無線LANの中継器を置くか、階間にUTPのジャンパーを一本通せば解消されるのではないか。この程度の軽微な工事は、美観を損ねることなく可能であるし、PLCの導入コストと比較してユーザーの負担も軽く、むしろ建設業も含めた日本経済にとってプラスではないか。
  セキュリティに関しては、PLCも無線LANも信号が意図した範囲外に物理的に漏洩する可能性があるという点では同列であり、暗号化・認証の必要性に変わりはない。これもユーザーインタフェースの問題として解決されるべき問題であって、PLCの優位性を示すものではない。ユーザーにとってPLCの最大の問題点は、いつ有害な混信の加害者になって使えなくなるかもしれないという所有リスクである。
 製造者にとってのPLCの最大の問題点は、有害な混信の被害者、あるいは、有害な混信の加害者となったために使用停止に至ったユーザーからの訴訟リスクやリコールのリスク、これらに伴う企業イメージの悪化である。実際、オーストラリアで先月にあった有害な混信の申告では、サービスを提供している地元の電力会社のみならず機器を供給した日本企業の具体名も取り沙汰されているところである。【典拠: http://www.wia.org.au/news/2005/20050825-01.php
 これらのリスクをとってまで、無線LANよりもPLCを選択することは、企業経営者のリスクマネージメントの在り方として考え難い。
 短波放送受信者は少ないから規制値が高くてもPLC使用者が有害な混信の加害者になる確率は低いというのは確率統計のマジックであり、被干渉側の視点が完全に欠落している。仮に短波放送受信者が少ないとしても、PLCが一般家庭に広く普及すると、規制値が甘ければ、短波放送受信者が隣家のPLCから有害な混信の被害を受ける確率は100%に近づいてゆく。規制値が甘ければ、確実に被害者が出るし、被害が速やかに解消されなければ、訴訟リスクは避けられない。短波利用者、PLCユーザー、PLC製造者、いずれのリスクも規制値が甘ければ甘いほど高くなる。

7、最後に
 ここで指摘した問題点の多くは、既に前回の総務省研究会のヒアリングWG(主査は現在PLC−J顧問の徳田正満教授)で被干渉側から指摘されているにも関わらず、今回の研究会では、これらの多くが議論されず未解決のまま残されている。そのため、短波通信・放送への有害な混信が解決されないのではないかという被干渉側の不安は全く払拭されていない。
 PLCは短波放送受信者に絶対に迷惑をかけない、仮に迷惑をかけた場合は速やかに使用を停止するということが技術的・法的に保証されるならば、PLCに反対する理由はないので、是非とも短波放送受信者に対して説得力のある議論をしていただきたい。たった数mから数十mの家庭内の通信を、無線LANという手段があるにも関わらず、 敢えて無シールドの既設電力線を使って行ったために、数百kmから数千kmの短波通信・短波放送が妨害を受けて使えなくなるとしたら、これほど皮肉なことはない。


意見書

平成17年10月25日
BiNEWSLETTER
総務省総合通信基盤局
 電波部電波環境課 御中
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 「高速電力線搬送通信と無線利用との共存条件案に係る意見の募集」に関し、意見を提出します。

短波放送受信者の立場を脅かすことと、環境保護の観点から共存案の許容値に反対を表明します。

推進者側は、短波放送によらずともインターネット放送で代替できると言っているが、現状ではまだ一部国際放送局が実施しているのみで全体の1%にも満たない。またこのことは屋内PLCで短波放送が聴けなくなることを承知していることになる。この自家障害に対しては考慮しないとしている。簡単な手段で世界中の放送が受信できる貴重な短波放送、その既存のインフラを潰しかねないPLCを導入することには反対である。

現状でも周辺雑音はあるのだからそのレベルまでは認めてはとの意見もあるが、この考えは到底受け入れられない。これは街はすでにゴミで汚れているのだからそこまでは汚してもかまわないと言うのと同じである。現在の雑音レベルを少しでも下げるよう努力して短波放送を聴いているのに、これにPLCの雑音が加わることは耐え難いことです。自然環境を取り戻そうとしている今、電波環境だけ雑音レベルを引き上げることは許されません。

 

以上

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