黒部丸山東壁緑ルート   藤田、吉岡エイ(こぶし)

二ピッチ目、右上に扇型

 雨にたたられぱなっしの今年の山行。今回も予報は芳しくないが、とにかく運を文字どおり天に任せて出発。さすが水曜日出発の「ちくま」はがら空き、松本駅で仮眠の後、大町、扇沢と徐々に天気は回復の様子、トロリーバスに乗る頃は久しぶりの太陽も顔を出す。そしてトンネルを抜けるとそこは「どしゃぶり」だった。何だこりや前回の甲斐駒ケ岳と同じじゃないか。情けなくなる。しかし今回は予備日もある。じっくり天気の回復を待つとしよう。鉄塔下のテン場より手前にこんな雨の日には最適な岩小屋が見つかる。ツエルトを設営後、ルートの偵察に行く。」 

 「黒部の巨人」と言われた700mの丸山、高度差400mの岩壁は圧倒させられるほど見事な花崗岩。もし明日晴れなければ、どうせ人工、小雨でも決行してやると決め、岩小屋に戻る。

 天気図をとると低気圧はもう抜けている。何でここだけ雨なのだ。しかしどうみても明日は晴れるはず。その時、空が明るくなってきた。くすんでいた気持ちのもやもやはいっぺんに吹っ飛ぶ。

 5時起床、はやる気持ちを押さえてお茶とパンの朝食を済ませ6時テン場を出発。ゆっくり歩いて一時間強で取付き。7時30分登攀開始。 

1ピッチ目:フリー混じりのA1。フェイスは濡れている。体もまだ慣れ   いないこともあり時間がかかる。一時間以上経っている。こんな調子だと残り8ピッチ。日が暮れてしまうではないか。

2ピッチ目:えいさんがリード。単調なA1で少しピッチが上がる。

3ピッチ目、俺が三日月ハング下で切り、あぶみビレー。尻が痛い。 

4ピッチ目、えいさんはハングも快調にのっこし扇形ハングの左の小さなレッジできる。

5ピッチ目、ほとんど最上段を使うこともなく、単調なあぶみの架け替えで楽立てるレッジでビレー。

6ピッチ目、フリー混じりのトラバースがいやらしい。セカンドで行った俺でさえ少々怖かった。7ピッチ目、3級程度のフリーのはずだが、それらしき所もなくコンテで中央バンドに着く。1時30分。疲れた。やっとここで水と少しの行動食。

そして、いよいよ核心の上部の大ハング。20mのA1と25mのA2で終了。最終のA2は2,3箇所は完全にルーフ状で、古いリングボルトとハーケンにそうっと体重をかける。下を見れば400mすぱっと切れ落ち高度感満点。そうだ10m落ちるのも、400m落ちて死ぬのも同じ。むしろ跡形なく諦めもつくと、自分言い聞かせて開き直りで突き進む。アドレナミンもドーパミンも出っ放し。恐怖と快感で麻薬患者のようになりながらやっと潅木でのビレー地点に到着。今回の登攀はここまで。

 それにしても上部だけで2時間半もかかってしまった。4時30分。急がねば、暗闇の懸垂下降だけはどうしても避けたい。

 休むまもなく慎重に下降の準備。あまりにの高度感の恐怖とロープが途中で縺れているようにも見えたので、念のためプルージクでバックアップを取っての安全第一の懸垂開始。しかしこれが問題の起こりだった。

 完全に岩から離れた宙ぶらりんで400m下まですっきりと眺めさせてくれる。「ガクッ!」止まってしまった。なにが起こったかとロープを見る。そんな馬鹿な。ロープの中間を示すマークテープでプルージクが完全にロックしているではないか。全体重がかかってはビクッともしない。「脱出」の要領でその上にもう一本プルージクを取り、足を乗せるがロープが伸びきっててするっと抜ける。この地点では少し岩との距離も近い。

えいさんに支点を強化してもらい、ロープをゆっくりと振り岩角に足を引っ掛けようとこころみる。ナイロンロープがこんなに伸びるのかと感心する余裕もないが、バンジージャンプのように揺れる。支点が飛びそうで怖い。なんとか足にかかり、そうっと引き寄せる。足が乗った。バラバラのフェイスだが贅沢はいっておれない。2,3ステップ上り返し、ロープからテンションが取れた。パンパンになった手でプルージクをやっと外せた。バックアップなんぞいらん。憎きプルージクを投げ捨てた。もうろうとして中央バンドに到着。おう生きている。

 ここからもう6回の懸垂下降。すっかり日も暮れた。恐れていた闇夜の懸垂下降になてしまったではないか。星はわずかにでてはいるが、恨めしくも月はまだ出でこない。ヘッドランプを頼りに下降地点を探しながらおりる。これではまるでケービングだ。

 7時30分、やっと取付地点にたどり着く。テン場に着いたのはもう9時も過ぎていたろう。熱いココアの美味いこと。ウイスキーの喉越しがたまらない。生きている実感を味わう。明日は温泉とビールとソバかな。

 「山想えば人恋し、人想えば山恋し」ってところかな?

 

行動記録  7日 大阪 21:06(ちくま)

 8日 04:00松本 06:07 JR 07:11大町 07:20 <バス>    

        08:30 扇沢 08:30 <トロリー> 08:46ダム 09:00――

    10:30 内蔵助出合 (停滞)

 9日    テント場 06:05――07:10 取付 07:30 登攀開始

    13:30 バンド 14:00 上部登攀開始 16:30 潅木レッジ

    19:30 取付地点 20:00――21:00 テント場

10日    テント場 08:30――08:45 ダム 09:35 <トロリー>

    10:00 扇沢 10:20 <バス> 大町温泉 <バス>

    12:00大町 13:06 JR 14:00 松本

    14:35 JRしなの> 19:00 大阪