SKYACTIV-G エンジンとは何か
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What's all this Skyactiv, nonsense anyway?
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 混合気の圧縮自着火を専門としてきたので,火花点火機関で圧縮比 14 と聞くと,どのようなノック対策が処置されているのか知りたく思う.マツダがこのところ出している Skyactiv-G のことである.宣伝の惹句には "高圧縮燃焼","低燃費と高出力を併せて達成" というように謳われている.圧縮比 14 といえども,Miller Cycle が採用されていて,そう働いている運転領域での実圧縮比はそれより低く,14 という数字は幾何学的膨張比である.部分負荷でなら充分成立するので,部分負荷での低燃費については,冷却損失増加などの懸念を除いて,疑問を抱くことはない.もちろん,そこでは "高圧縮燃焼" はない.しかし,それを越えた,Miller Cycle から外れざるを得ない絞り弁全開 WOT ではどうなのか,そこが解らない.

 また,圧縮比を上げるとチャージに占める残留ガス割合が減る,4-2-1 排気系でさらに掃気の程度を上げて残留ガス量を減らし,新気の割合を増すという.それで チャージの温度が下がる のはもっともであるが,あわせて組成も変わっていることに言及されていないのは不可解である.新気割合を上げれば明らかに火炎伝播速度と共に燃焼の等容度が上がる.そちらの方では良いこと尽くめであるが,他方,エンドガスの自着火の方でも着火遅れは短くなって,ノック促進方向に働く.火炎伝播と自着火の競合でノック生起があるかどうか決まるので,新気割合を上げるだけで,運転領域全域でノックが抑えられるのか,そこがどう処理されているのかに興味がわく.

 余裕のないなかで,気にはしながら手をつけずに来たのであるが,低温度自着火への EGR 希釈の効果 という記事を書いたら,その関連で 火花点火機関への EGR というページを用意せざるを得なくなり,それらからの延長で Skyactiv-G のことを考えることになった.考えのもとになっているのは,記したもの*1-7 以外に,各国販売組織 Web site に出ている記事,我国で行われた研究会などで配布された資料である.表題の英語文言は下に示した *4 のものを借用した.もちろんこのページは Skyactiv-G エンジン単体について,それも,サイクル論や燃焼技術の視点だけから眺めた見解であって,エンジンの摩擦損失低減などを考えたものではないし,変速機を含めた車輌の動力性能を云々するものでもない.

 Skyactiv-G 2.0, PE-VPR, 1.997-liter, 4-cylinder, Bore×Stroke: φ83.5×91.2, 圧縮比 (実際には膨張比) 13:1, 114 kW @6,000 rpm, 196 Nm @4,100 rpm が基本となるエンジンである.吸入弁遅閉じ機構が付いていて,部分負荷時には圧縮行程の短い,いわゆる Miller Cycle で動作する.絞り弁は残されていて,チャージ量は吸入弁遅閉じ機構だけで制御されている訳ではない.吸入弁閉角可変範囲は 36 - 110o aBDC と広い.吸入弁閉 36o aBDC は通常のエンジンでも採られている吸入弁閉時期であって,そのあたりでは Miller Cycle ではない.この膨張比 13:1 の機種は 90 RON の燃料に合わせたものという.95 RON の燃料が一般となっている欧州では膨張比 14:1, 121 kW @6,000 rpm, 210 Nm @4,000 rpm *5 なる機種が販売されているという.その他,膨張比 12:1, 113 kW @6,000 rpm, 194 Nm @4,100 rpm などの派生機種もあるらしい.

 Skyactiv-G 2.0, PE-VPR 以外に,SkyActiv-G 2.5, PY-VPR: 膨張比 13:1, 138 kW @5,700 rpm, 250 Nm @3,250 rpm,SkyActiv-G 1.3, P3-VPS: 膨張比 14:1, 62 kW @5,400 rpm, 112 Nm @4,000 rpm と,排気量の異なるものもあるが,ここでは,少ないながらも,得られている資料がともかくある Skyactiv-G 2.0, PE-VPR について話を進める.

 広く流布しているのが右ならびに右下の二つの図である.95 RON の燃料となっているので欧州仕様であろう.横軸は定量性を持つが,縦軸は定性でしかない.何年も前からこういう表示法が多用されているのは感心しない.ここには他からの値を入れて,必要なところを定量化して加えてある.回転速度 1,500 rpm のところが議論の対象になる.欧州仕様エンジンの最大トルク値から 1,500 rpm での最大トルクは 179 Nm,正味平均有効圧 BMEP は 1125 kPa と出る.

 右下の図に移ると,そこに回転速度 1,500 rpm で負荷を変えたときの正味燃料消費率 BSFC が示されているが,縦軸に数値はない.


 自社の以前からあるディーゼル機関と比較されているから,そこから推定して,Skyactiv-G 2.0 の最良燃費は 750 kPa BMEP 負荷前後の 205 ないし 215 g/(kW⋅h) と考えてよかろう.これは 燃料の低位発熱量を 44 MJ/kg として正味熱効率 ηe 0.38 ないし 0.40 にあたる.火花点火機関として極めて立派な値である.Skyactiv-G が低燃費というのはここのことである.上の図の縦軸で Torque が Drive power となっていたり,右図の縦軸で kW が kw となっていたりするのは御愛敬.

 けれども,上の図で勘定したように,回転速度 1,500 rpm での最大負荷は 1125 kPa BMEP であるにもかかわらず,850 kPa BMEP より上の燃費は表示されない*8 末尾参照.冒頭に述べたごとく,どのようなノック対策が処置されているのかという点についてはここが大事である.


 話題を少し逸らせるが, Skyactiv-G の高圧縮比ゆえに,Flat-surface Piston では扁平すぎ,そこを工夫して Volcano-cavity Piston にしたと説明されている.右手前の図はその断面であり,クランク角は TDC である.これによって燃焼過程の前 1/4 くらいの期間で火炎が球形に発達し,Flat Piston に較べて,燃焼期間の短縮,等容度 向上につながったという.

 しかし,こうした凹みのなかで燃やすという場合には,点火時期はともかくも,一部であろうとも,燃焼位相を TDC 以前に振ることは難しかろう.


 上,左の図には TDC で火炎が球形に拡がっているように描かれているが,実際にはそこまで発達していない.右の図で燃焼位相が TDC を越えたところだけになっていると知られる.それにしても,熱発生速度 を比較すると,Volcano Piston では Cavity 内での火炎発達とそこから外へ出たときとのあいだに段差が見られ,前半の熱発生速度は高く,はっきりと有意差があると知られる.これも宣伝の惹句に使われている.

 さて,本題に戻って,回転速度 1,500 rpm における高負荷域,850 - 1125 kPa BMEP ではどのようになっているのであろうか.下の二枚の図にそれが示されている.市販エンジンのものではなく,開発段階で得られたものに違いない.右は p-V 線図,左は熱発生速度 (熱発生率) 経過である.絞り弁全開 WOT 条件なので,吸気弁遅閉じ Miller Cycle は適用されていない筈である.点火時期は大幅に遅れていて 8o aTDC である.混合気は A/F : 13 と量論ではなく濃いめである.圧縮比は 11.2, 13.0, 15.0 の三種であり,確かに圧縮比差による BDC の容積 V のずれが見られる.負荷は三者ともに 1000 kPa BMEP 前後にはあるのであろう.これらも "高圧縮燃焼" ではない.


 火花点火機関,Otto 機関の基本概念は "定容熱供給" であって,点火時期のページ に示したように,燃焼経緯は普通 TDC 前後に振り分け,p-V 線図でいうなら,その弓形の中程一点が TDC の縦線と接するというものである.右の図はそれを表したものであり,中負荷かつ圧縮比 10 なので,圧縮終り圧力はせいぜい十数 bar である.

 上にある Skyactiv-G 2.0,絞り弁全開 WOT の p-V 線図では,圧縮行程では圧縮のみであり,圧縮終り圧力は二十数 bar に達する.点火時期は TDC 後に大幅に遅れ,その遅延ゆえに燃焼による熱供給は Otto 定容型ではなく,Diesel 定圧型となっていて,熱発生速度ピ−クは 42o aTDC,実膨張比はわずか 4 にすぎない.本当の熱発生終了は 65o aTDC であって,そこからなら実膨張比は 2.7 である.これで燃費が良好である訳はない*8 末尾参照

 高負荷域では 圧縮比<膨張比 ですらなくなり,圧縮比>膨張比 である.ひとえに点火時期遅延でノックから逃げに逃げた結果であり,まさにノック抑制をピストン膨張による温度低下に頼っているのである.もちろん タンブル崩壊 の効果もすでに緩んでいて燃焼促進には届かない.点火時期が遅れているので,ピストンは降りていて,宣伝惹句にある Volcano Piston 特有の燃焼促進などあろうはずのないことは右上の熱発生率経過を見れば解る.先の図にあった段差も見られず,Flat Piston での熱発生経緯と同じに陥っている.このような高負荷域でノックが検出されたなら,さらに点火時期遅延で逃げればよいのであろうか.その図に書き込まれている ηgl等容度 であり,その値から見ても,与えられた燃料の 3/4 程度しかサイクルには寄与しないのと等価である.燃料消費率は 300 g/(kW⋅h) に近いのではなかろうか.上方の図で,燃料消費率の赤線が 850 kPa BMEP で途切れているのはこういう理由であろう.

 つまり,"低燃費と高出力" は "同時 Simultaneously" には達成されていない.また,"高圧縮燃焼" が行われている運転領域がどこであるかも見えてこない.惹句に技術的正当性ありや.

 圧縮比 13.0 と 15.0 では p-V 線図,熱発生速度 (熱発生率) 経過で共に低温度自着火まえ反応進行による熱発生が見られ,それが TDC 直後にあることから,仕事の増加,等容度向上に効いて,この現象が利点であるとされる.確かに p-V 線図で仕事が増えていることが知られる.圧縮比 11.2 にはそれらは明確には見られない.オクタン価の低い燃料を使った方が低温度自着火まえ反応はより進行するから,最大トルクが高まることになるが,そういう論理展開なのか.

 それが利点であるかどうかの見解をここで述べないが,こうした大幅な点火時期遅延により,高過給火花点火機関で起るような過早着火 Preignition の危険がこの無過給火花点火機関でもあったという.その説明に使われたのが右の図である.低温度自着火まえ反応が表面に出るような条件であるからこそ過早着火も出現する.すでに残留ガス温度が相当高い条件では,惹句である 4-2-1 排気系で掃気の程度を上げてもたいした意味はない.

 どのように斬新なノック対策が施されているのかと Break-through を期待したのであったが,それは徒労であった.No advance of knowledge on knocking control.だが,新気割合を上げるだけで,運転領域全域でノックが抑えられるのか という疑問については,そういうものではないことははっきりした.Cooled EGR に関して,このエンジンでは,部分負荷においても,内部 EGR を減らして外部 EGR を付与するという操作がなされていることがひとつの知見につながるものである.

 SAE の講演会で発表されている論文*1 の Abstract 最後の文は "As a result, thermal efficiency has been improved at partial load." となっている.そういうことである.Skyactiv-G では,部分負荷域と高負荷域とは連続せず,それぞれ個別の技法で処理されている.部分負荷で使う限りの低燃費である.絞り弁全開 WOT の 80% 負荷程度までのことなら,また,上のような惹句がおかれているのでなければ,このエンジンに文句をいうこともない.高い圧縮比を設定できたといえども,高負荷で等容度の高い燃焼が実現できているわけではないので,技術的優位を誇ることはできない.ADAC の記事*6 でも知られるとおり,市内走行より高速道路走行の燃費の方がかなり悪い.高速道路走行燃費は郊外走行燃費の 40% 増しである.部分負荷域燃費と高負荷域燃費との差は大きい.

 部分負荷域の対応に新規 (新奇) 性があるかというと,それはほとんどない.2ZR-FXE なるエンジン で最良燃費 220 g/(kW⋅h) が,同じような Miller Cycle,吸気弁遅閉じ,圧縮比 13 にてもうずっと以前に達成されている.Skyactiv-G 2.0, PE-VPR は一部で圧縮比 14 で出されているものの,基本は圧縮比 13 であり,Australia などでは圧縮比 12 になっている.Skyactiv-G 2.0 の方が直噴である分,本来高性能であってしかるべき.Skyactiv-G とは 2ZR-FXE を下地に,Miller Cycle 吸入弁閉角可変範囲を拡げて,それで全負荷の 80% 程度までをまかない,そこに燃費を考慮せず別途高負荷域 20% を付け加えたものである.二階建てという表現が当てはまるであろう.

 新規 (新奇) 性ならびに部分負荷域と高負荷域とをそれぞれ個別の技法で処理するという視点からは,HR12DDR なるエンジン を思い浮かべなければならない.直噴・Miller Cycle,吸気弁遅閉じ という点でも同じであり,部分負荷域では過給されないので,対等に比較できる.Micra UK 版では圧縮比 13 と,圧縮比でも Skyactiv-G に充分近い.こちらのエンジンももうずっと以前からある.別途高負荷域を Supercharger で過給することで対応するというところだけは Skyactiv-G と異なる.JC08 モード燃費などで HR12DDR と Skyactiv-G 1.3, P3-VPS とを較べてみれば,部分負荷域での燃費について優劣が明らかになるであろう.

 エンジンが有するトルクや出力という観点から Skyactiv-G 2.0 に近いエンジンを捜す.2004-2010 年式車輌に搭載されていたエンジン BMW N43B20A, 1.995-liter, 4-cylinder, Bore×Stroke: φ90.0×84.0, 圧縮比 12:1, 125 kW @6,700 rpm, 210 Nm @4,250 rpm が近い.排気量ならびに直噴という点では同じ,圧縮比は 12 でわずかに低い.これと最大トルク特性を比較したのが右図である.部分負荷域と高負荷域とのあいだの不連続性はこのエンジンにはない.この図がどういう意味をもつかの解釈は読者にお任せする.


いまどきの点火時期

 従来の考え方なら,幾何学的寸法比率としてある圧縮比を設定したとき,そこで,絞り弁全開 WOT まで運転するということは言うまでもないことで,そのとき点火時期はできる限り MBT に近づけた.つまり,そのエンジンが有する行程容積へ最大限空気を取り込み,等容度の高い燃焼を目指すことが暗黙に諒解されていた.ところが,いまや,外部 EGR が付与されているのは当然のことであるし,カム軸には VVT 機構が組み込まれ,吸気弁早閉じ/遅閉じがなされて Miller Cycle: 圧縮比<膨張比 がそれぞれの局面に適用される.高圧縮比であれば,冷却損失との兼ね合いで MBT は従来のものよりやや遅目に出るかもしれない.Skyactiv-G での点火時期は MBT の概念から乖離している.それが現今の流行なのであろうか.必ずしもそうではない.TDC 近辺で燃焼させて,ノックも過早着火も抑えようとする試み もある.2-ストロークディーゼル機関では,等容・等圧熱供給のある Sabathé 型の燃焼であって等容度は Otto 型の燃焼に劣るし,下死点 BDC 手前で排気弁が開いて,実質の膨張比が下がるにも係わらず,エンジンとして成立する のは,もともとそれなりに高い圧縮比が設定されているからである.これと同様に,火花点火機関においても,寸法比としての膨張比を高く設定しておいて,点火時期を 上死点 TDC 以降に遅らせて,等圧熱供給である Diesel 型の燃焼をさせても,燃焼終わりから下死点 BDC での排気弁開までの膨張比が従来エンジンの圧縮比,例えば 9 くらいあるならエンジンとして真っ当である.


 *1 Yamakawa, M., Youso, T., Fujikawa, T., Nishimoto, T., Wada, Y., Sato, K. and Yokohata, M.: "Combustion Technology Development for a High Compression Ratio SI Engine", SAE Technical Paper 2011-01-1871, (2011)
 *2 山川・森永・石野: 効率のカギを握る圧縮比,#20124294,自動車技術 66-04, (2012), 33-38
 *3 山川正尚: SKYACTIV-G の燃焼技術を支えた計測技術,テスティングツール最前線 2013, 自動車技術 67-04 付録,(2013), 6-11
 *4 Coleman, D.: http://altairenlighten.com/wp-content/uploads/2011/12/Mazda-Skyactive-lightweight.pdf
 *5 Technische Daten Mazda6, (2012), Mazda Motors (Deutschland) GmbH I Presse- und Öffentlichkeitsarbeit
 *6 ADAC Autotest Mazda CX-5 2.0 Skyactiv-G Center-Line, (2012), Allgemeiner Deutscher Automobil-Club e.V., Seite 10
 *7 Katalog: Mazda CX-5 2.0 Skyactiv-G AWD, Alle-Auto-In.de. ここにトルク曲線が出ている.


補遺

 一読者からのご教示により,Skyactiv-G 2.0 の燃費率曲線に関して,800 kPa BMEP/1,500 rpm 以上の負荷領域の状況が 公開されている*8 と分かった.右の図がそれである.もっとも,ここでも縦軸の絶対値は与えられていない.上で推測したとおり,750 kPa BMEP 以上の負荷域では不自然かつ急速に燃費が悪化していて,低負荷域と高負荷域とが別々の概念で作動するというこのエンジンの二極性を如実に顕現している.最大負荷の 80% といわず,その 2/3, すなわち 67% くらいから上方に向けて燃費悪化が始まり,ディーゼルの燃費から大きく離れる.火花点火機関では,できるだけ低速・高負荷で運転するのが低燃費でよいというのが一般的知見であるが,そうした常識とは異なる特性になっている.

 この図と上掲の燃費図とを較べると,上掲図では 850 kPa BMEP で表示が打ち切られているだけでなく,最低を示す 750 kPa から 850 kPa にかけて,あるいはそれより高トルク側に向けて,いかにも燃費悪化がないかのように装われていると知られる.惹句が言うところの "低燃費と高出力" は "同時 Simultaneously" には達成されていない.


 *8 人見光夫:内燃機関の将来展望,第 21 回 内燃機関シンポジウム 基調講演,2010 年 11 月 10 日,岡山大学


Still not fixed.


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