帝国海軍沈没記

 一時はインド洋から中部太平洋までを席巻した日本海軍ですが、昭和20年8月にはその戦力は絶望的なまでに低下していました。主だった商船と軍艦をほぼ全て失い、燃料や弾薬の枯渇も著しくなっていました。
 というわけで今回は、沈没原因から見る帝国海軍の死に様を考察していきます。


 ただ、一口に沈没原因と言っても、中にはかなり微妙なものもあります。例えば 「龍鳳」 は内地に係留中に空襲を受けて大破し、完全に発着艦は不能になったものの沈没はしていません。「龍鳳」 のみならず、主力艦の中には 「燃料不足で内地係留 → 呉大空襲で大破」 というパターンが非常に多いのです。このような場合は、復員船として利用可能なレベルの損害ならば生存、それ以上のダメージを受けていた場合は沈没扱いにしています。
 また、「最上」 のように、「水上艦隊と交戦 → 味方と衝突 → 敵機の空襲で被雷 → 味方駆逐艦の雷撃で処分」 という、これ以上ないほどの複合的要因によって沈んだものもありますが、これは沈没の最大の原因になったと思われる空襲による沈没としています。他の類似的事例も同じように、最大の要因となったものを推察して数に加えています。
戦艦
沈没原因隻数艦名比率
水上艦との砲雷戦4「比叡」 「霧島」 「扶桑」 「山城」33%
航空機による空襲5「榛名」 「伊勢」 「日向」 「大和」 「武蔵」42%
潜水艦による雷撃1「金剛」8%
事故による喪失1「陸奥」8%
機雷による喪失0 0%
終戦時に生存1「長門」8%
航空母艦
沈没原因隻数艦名比率
水上艦との砲雷戦0 0%
航空機による空襲14「赤城」 「加賀」 「蒼龍」 「飛龍」 「龍驤」 「飛鷹」 「瑞鶴」 「龍鳳」 「千代田」
「千歳」 「祥鳳」 「瑞鳳」 「海鷹」 「天城」
56%
潜水艦による雷撃9「隼鷹」 「翔鶴」 「大鳳」 「信濃」 「大鷹」 「雲鷹」 「冲鷹」 「神鷹」 「雲龍」36%
事故による喪失0 0%
機雷による喪失0 0%
終戦時に生存2「鳳翔」 「葛城」8%
重巡洋艦
沈没原因隻数艦名比率
水上艦との砲雷戦2「古鷹」 「羽黒」11%
航空機による空襲10「青葉」 「衣笠」 「那智」 「鳥海」 「最上」 「三隈」 「熊野」 「鈴谷」 「利根」
「筑摩」
56%
潜水艦による雷撃5「加古」 「足柄」 「高雄」 「愛宕」 「摩耶」28%
事故による喪失0 0%
機雷による喪失0 0%
終戦時に生存1「妙高」6%
軽巡洋艦
沈没原因隻数艦名比率
水上艦との砲雷戦2「川内」 「神通」9%
航空機による空襲10「木曽」 「北上」 「鬼怒」 「阿武隈」 「五十鈴」 「那珂」 「阿賀野」 「能代」
「矢矧」 「大淀」
45%
潜水艦による雷撃9「天龍」 「龍田」 「球磨」 「多摩」 「大井」 「長良」 「名取」 「由良」 「夕張」41%
事故による喪失0 0%
機雷による喪失0 0%
終戦時に生存1「酒匂」5%
駆逐艦
沈没原因隻数艦名比率
水上艦との砲雷戦23「卯月」 「夕立」 「江風」 「満潮」 「朝雲」 「山雲」 「峯雲」 「吹雪」 「綾波」
「夕霧」 「暁」 「初風」 「嵐」 「野分」 「萩風」 「夕雲」 「巻波」 「高波」
「大波」 「照月」 「初月」 「新月」 「桑」
13%
航空機による空襲64 「矢風」 「太刀風」 「若竹」 「栂」 「旗風」 「追風」 「睦月」 「如月」 「弥生」
「皐月」 「文月」 「長月」 「菊月」 「三日月」 「望月」 「夕月」 「初春」
「若葉」 「有明」 「夕暮」 「村雨」 「春雨」 「朝潮」 「荒潮」 「夏雲」 「霞」
「白雪」 「初雪」 「叢雲」 「東雲」 「浦波」 「朝霧」 「朧」 「曙」 「不知火」
「親潮」 「早潮」 「天津風」 「時津風」 「磯風」 「浜風」 「舞風」 「長波」
「清波」 「玉波」 「涼波」 「藤波」 「浜波」 「沖波」 「朝霜」 「早霜」 「秋霜」
「清霜」 「島風」 「若月」 「松」 「梅」 「樅」 「柳」 「椿」 「檜」 「橘」 「楡」 「梨」
36%
潜水艦による雷撃47 「峯風」 「沖風」 「島風」 「灘風」 「羽風」 「秋風」 「帆風」 「野風」 「沼風」
「野風」 「呉竹」 「早苗」 「芙蓉」 「刈萱」 「朝顔」 「春風」 「松風」 「朝凪」
「夕凪」 「水無月」 「子ノ日」 「時雨」 「五月雨」 「海風」 「山風」 「涼風」
「大潮」 「霰」 「薄雲」 「白雲」 「磯波」 「敷波」 「狭霧」 「漣」 「雷」 「電」
「夏潮」 「浦風」 「谷風」 「秋雲」 「風雲」 「早波」 「岸波」 「秋月」 「涼月」
「霜月」 「桃」
27%
事故による喪失2「疾風」 「白露」1%
機雷による喪失8「初霜」 「天霧」 「陽炎」 「黒潮」 「巻雲」 「楢」 「桜」 「榎」5%
終戦時に生存33 「栗」 「蓮」 「沢風」 「汐風」 「夕風」 「朝顔」 「神風」 「潮」 「響」 「雪風」
「冬月」 「春月」 「宵月」 「夏月」 「花月」 「竹」 「桐」 「杉」 「槙」 「樫」
「榧」 「楓」 「欅」 「柿」 「樺」 「蔦」 「萩」 「菫」 「楠」 「初桜」 「椎」 「雄竹」
「初梅」
19%
 上の内容をまとめてみましょう。艦名と隻数は省略し、艦型ごとの沈没原因と比率だけを見ています。
沈没原因戦艦空母重巡軽巡駆逐
水上艦との砲雷戦33%0%11%9%13%
航空機による空襲42%56%56%45%36%
潜水艦による雷撃8%36%28%41%27%
事故による喪失8%0%0%0%1%
機雷による喪失0%0%0%0%5%
終戦時に生存8%8%6%5%19%
 とにかく航空機による損害がひどく、全ての艦種において最大の沈没原因となっています。
 次いで強烈だったのが潜水艦。日本は商船のみならず大量の軍艦を敵潜水艦により沈められており、特に軽巡以下の艦艇は空襲に匹敵する沈没要因になっています。空母の被害も多く、沈没艦の中には 「大鳳」 「信濃」 「翔鶴」 といった大型の正規空母も含まれます。

 機雷による被害は非常に少ないことがわかると思います。これは、太平洋戦争での戦域が非常に広かったことが影響しています。局地戦の多かった日露戦争において、「初瀬」 「八島」 「ペトロパブロフスク」 といった戦艦が機雷により沈没したのと対照的になっています。

 そして何より、砲雷戦における沈没数の少なさは、日本海軍がずっと想定していた艦隊決戦が、全く生起しなかったことをよく表しています。水上艦どうしの戦闘による沈没はおおむね全体の1割程度でしかなく、日本海軍は航空機と潜水艦という予想だにしなかった兵器との戦いを強いられ、滅びていきました。

 横須賀の 「長門」、呉の 「鳳翔」 「葛城」、舞鶴の「酒匂」。この各地に散らばった四隻のみが、終戦時に戦闘可能だった日本の主力艦の全てでした。
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