ツァータン  トナカイと生きる―サヤン山脈のタイガでの生活―
(千里文化財団「季刊民族学87号」に掲載のものに加筆しました)


モンゴル最北部、ロシア連邦のトゥバ共和国との国境近く、トナカイを飼って生活する人々がいる。古くは唐代に資料に
「都波・都播」として登場するほか、清朝からはタンヌ・ウリヤンハイ(清朝時代の漢字表記、唐努烏梁海)と呼ばれていた
地域である。

しかし、1911年の辛亥革命と第1次大戦の混乱でロシアによって支配されるが、1921年にドンドゥクを初代首相
として独立した。だが、モンゴルとともにソ連との関係は強く、1944年には独立を取り下げられ自治州になってしまう。
その後、1961年に自治共和国になり、91年のソ連の解体によってトゥヴァ共和国となる。


タイガでトナカイを飼い、モンゴル側のダルハト族との交易をする生活をしていたツァータンは1950年、夏の突然の国境
封鎖によって家族、親戚が会うことができなくなってしまう。
オンボさん、センデリさんは、ソ連の圧制を逃れる親に連れられ秋の落ち葉が多く、足音が響かない時期を選び、
モンゴルに来たというが、トゥバの首都クズルにはお姉さんがいるという。
(右)クズルにいるというセンデリさんのお姉さんの写真である。大切にしまってあった。
推定だが現在65歳前後(1998年)と考えられる

(左)モンゴルとの国境地帯。記載は各宿営地
  

(左)トナカイの主食であるコケ。1年に数センチしか生長しないため、遊牧範囲はほかの家畜と比較してひろくなる
(右)放牧をおえてトナカイがもどってきた。夕陽をあびて輝く毛並みが美しい

(左)燃料である薪をトナカイに積む。生活に必要なだけしか切らない
(右)遊牧生活にストーブは欠かせない。暖房のだけではなく調理にもつかう

(下)モンゴル最北の地域である。千里文化財団「季刊民族学87号」より

ツァガンノール湖は、点在する湖沼群の総称だ。そのなかで最大のドンド・ツァガンノール湖の湖畔に漁業組合と
ソム(行政区画のひとつ)の中心となる村がある。

タイガ(針葉樹林帯)の生活はトゥバ共和国に流れこむシシグト川を境にズーンタイガ、バローンタイガにわかれている。
ズーンタイガでは、家長同士の話し合いで移動を決定するので、比較的まとまって移動している。
地図の番号は1998年の移動状況の順をしめしたものである。

.悒屮謄襯謄(97年12月〜97年3月)
▲Ε献絅(4月〜5月)
トゥレグダグ(6月〜9月)
ぅ献磧璽瀬哀イ(9月中旬)
ゥ献腑轡
Ε轡礇襯献礇(9月下旬)
ДΕ献絅(10月〜11月)ここから.悒屮謄襯謄い砲發匹

バローンタイガでは、夏はおもにメンケボラグに集中するが、通年各世帯の家長の判断で、ばらばらに移動する
傾向がある




モンゴル人はおもにモンゴル国、中華人民共和国の内モンゴル自治区、ロシア連邦のブリヤート共和国に居住し、
トゥバ人はロシア連邦のトゥバ共和国、ブリヤート共和国西部とモンゴル国北西部に居住している。
ツァータンは、モンゴル国フブスグル県の最北端にモンゴル人のダルハト族と混在するトゥバ人の少数派だ



(上)モンゴルの北部、タイガは豪雪地帯でもある。サラサラの新雪を蹴って進む

(下)タイガの森をおりると寒風吹きすさぶ、凍てついたツァガンノール湖畔に出る。麓のツァガンノール村で
小麦粉やお茶などを買い、またタイガの森に帰る



(上左)トナカイの解体がおわった。8歳になる子どもも手順は心得ている。毛皮を干すために抱えてきた。
1家族で年間、2〜3頭の去勢オスを屠る。肉は食用に、毛皮は敷ものや靴に利用される

(上右)11月の気温は氷点下30度。解体されたトナカイの肉は瞬く間に凍結する

(上左)解体され、肉と内臓は塩ゆでにする。肉は癖もなくおいしい。スープは絶品である。残りは干して保存する
(上右)4歳の子どももトナカイの肉が大好きだ。ナイフ捌きも上手に、肉を食する

(下右)慣れた手つきでトナカイの皮を剥ぐ
(下右)狩りには長いあいだ、火打ち石銃が使われていたが、最近ではロシア製のライフルが使われる

(上左)狩猟はむかしからつづく生業である。針葉樹アルツを燻らせて、ミルクを天に振り撒き、猟の成果を祈る
(上右)狩りに行く。森のなかでは簡素な装備だけで何日も過ごす。狩った獲物を積むためのトナカイといっしょだ

(下)夏は川のそばに幕営し水を確保するが、冬期は雪に頼る。ストーブで溶かし食事や生活用水すべてに使う


(下)フングンといわれるパン。
ドーナツ状にしてストーブの灰のなかでじっくり焼いたパンは自然の甘みとほどよい堅さでたいへんおいしい

シラカバの樹皮でつくった容器はむかしから使われている。
トナカイのミルクを入れるのにも最近ではアルミ製がおおくなったが、ときおりまだみられる
トナカイのミルクは脂肪分がおおくたいへんおいしい。乳茶のほかチーズやヨーグルトなど乳製品に加工される





トナカイの搾乳は寒くなる9月までおこなわれる。
夏は日が長いため夜11時を過ぎてもあかるく
早朝の撮影もあって寝不足になり、つらくなる

(下)12家族が暮らしていたヘブテルテイでは、別れの日に再会を約束し、記念撮影をした





(上)90歳を越えるというシャーマンのソビヤンさん(右)。60歳を越える娘のツェンドさん(左)もシャーマンである。
孫のムンフツェツェグさんは26歳。やはりシャーマンになるのだろうか

(下)テントのなか、ストーブと支柱の北西側に結ばれたエーレンといわれる神棚。祖先霊とつながっている




旧正月の2月。満月の夜におこなわれた、シャーマンの儀礼。ひとりひとり占ってもらうのである

ツァータンをたずねて、麓のツァガンノール村からタイガの山深く進んだ。ウマに乗って2日目
峠には風化したトナカイの角のオボーがあった。石積みのオボーには土地の神が宿るとされる




(上)ウランバートルから約700キロある、フブスグル県の県庁所在地ムルンの手前、凍てついた大地に大鹿の像がたっている