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852(2008/05/06) ヨーロッパの紋章(3)

ヨーロッパの紋章は、原則として長子相続が適用されたが、個人紋章が中心であったから、これを相続する場合、同族であっても同一紋章を避け、新たな紋章を作り出す必要性が生じた。

まずその工夫として、紋章のモティーフを変形・加筆したり、色を変えたりするディファレンシングという方法がある。ふつう長男が父の紋章を相続し、次男以下は色絵お少し変えたり、付加標識(レイブル)を考案したり、さらには縁にジグザクを入れて工夫している。特にイングランドの王室紋章では、梁、月、小鳥、輪、百合、薔薇、十字、錨、二重薔薇など小さな付加標識を加えて、変化を持たせつつ継承している。

さらに線などで分割し、二種類以上の紋章を分割・合成して、新しい紋章を作り出すマーシャリングも行われている。その際、区分された部分を区分面(フィールド)といい、区分面の順序が付けられる。

特に女性の紋章継承者が結婚した場合、その位置は両家の優劣順位に関わるので重要である。原則として左側上部が優位とされるが、ただし紋章学では左右が逆で、向かって左を右、右側を左とされる。もともと盾から発達した紋章は、それを所持する側と相手側では、左右が逆になるという理由によって、このような慣行が生じた。

マーシャリングの例
「クォータリング」とは、元は4分割を指す言葉であったが、6分割でも8分割でも同様に「クォータリング」と呼ばれる。4分割の場合、左上から第1区分面、右上第2区分面、左下第3区分面、右下第4区分面となり、優先順位は第1>第2>第3>第4となる。2分割(インペイルメント、ディミディエイション)した場合、左側の領域をデキスター、右側の領域をシニスターといい、デキスター>シニスターという関係にある。
クォータリング
第1区分面:デキスター・チーフ
第2区分面:シニスター・チーフ
第3区分面:デキスター・ベース
第4区分面:シニスター・ベース

クォータリングの例(マーシャリングの一種で盾の4分割)
現在の英国王室の紋章(エリザベス2世の紋章)
第1:イングランド王、第2:スコットランド王、第3:アイルランド王、第4:イングランド王
ディファレンシングの例
これはチャールズ王太子の紋章
国王紋章に、3点の梁レイブルとプリンス・オブ・ウェールズ(ウェールズ公)の冠と紋章がインエスカッシャン(中央に配置された紋章)として付加されている。
ウェールズ公の紋章
ウェールズ独立時代最後の公ルウェリン・アプ・グリフィズ(〜1282年)の紋章に由来
ディファレンシングの例
チャールズ王太子の長子ウィリアム王子の紋章
3点の梁レイブルに母ダイアナ妃の紋章に由来するホタテ貝が付加されている。
ダイアナ妃の紋章(チャールズ王太子との婚姻中のもの)
二分割された左側(デキスター)がチャールズ王太子の紋章で、右側(シニスター)がスペンサー伯家の紋章、ベンド(斜め帯)に3つのホタテ貝が描かれている。
ディファレンシングの例
チャールズ王太子の次子ヘンリー王子の紋章
5点の梁レイブルに母ダイアナ妃の紋章に由来する3つのホタテ貝が付加されている。
マーシャリング(2分割インペイルメント)の例
ダイアナ妃の紋章
二分割された左側(デキスター)がチャールズ王太子の紋章、右側(シニスター)がスペンサー家の紋章
    
ウェールズ公の紋章 スペンサー伯の紋章
2分割ディミディエイションの例
スコットランド女王メアリーのフランス国王未亡人としての紋章
2分割したフランス王家の紋章を左のデキスターに、スコットランド王家の紋章を右のシニスターに合成したもの。デキスター側に夫であるフランス王家の紋章があり、フランス>スコットランドの優位関係が示されている。
ディミディエイションは、両家の紋章を分かりやすい方法であったが、審美的にはバランスを欠くという欠点があったので、この手法はあまり用いられていない。それに替わる方法として、盾を四分割して、1と4、2と3の区分面にそれぞれ、同一図形を配する。
クォータリングによる婚姻紋章の例
エドワード2世とイザベラ・オブ・フランス(フランス王フィリップ4世の娘)の子であるエドワード3世が、フランス王位継承権を主張したことに由来するもので、厳密には婚姻紋章ではない。フランス王家の紋章が第1区分面にあり、フランス王家がイングランド王家よりも優位になっている。この英仏婚姻紋章に2分割のインペイルメントを施したのが、一時フランス王も兼ねたヘンリー6世の紋章。
2分割のインペイルメントの例
ヘンリー6世は、ヘンリー5世とフランス王シャルル6世狂気王の娘キャサリンの子、本来であれば夫であるイングランド王家の紋章が左のデキスター側となるはずが、ここでもフランス優位になっている。
参考文献 「紋章が語るヨーロッパ史」浜本隆志著 白水uブックス
参考サイト ウィキペディア