堺屋太一 東京一極集中

「進むべき道」PHP研究所から

「(昭和16年)9月には「帝国国策遂行要領」が決定し,国家の頭脳機能は東京一局に集める,という政策が実行されます。国家の頭脳機能とは経済の中枢管理機能,情報発信機能,文化創造機能の三つです。この三つは東京以外ではやってはならない,と明確に決めました。

 では,その三つを東京に集めるためにはどうすればいいか。
 まず第一に,経済の中枢管理機能を集めるために,あらゆる分野に,全国統一の業界団体や職能団体を作らせる。日本鉄鋼連盟,電気事業連合会,自動車工業会,弁護士会,医師会,等々ですね。そしてその全国本部事務局を東京に集中させた。業界団体の会長は本部会議や官庁の懇談会など週に4回ぐらい呼び出されるから,東京以外には住めません。そうすると全国団体の会長になるような大企業の社長は東京に集まり,やがてその企業の本社機能も東京に移ってくる,というわけです。
 中略
 第二は,情報発信機能です。まず,出版物については,書籍元売り(取次会社)を,日販(日本出版販売),東販(現トーハン)など4社に統合,その全てを東京に集めました。 中略 電波の方は,さらに徹底しています。中略 
戦後になって民間放送が生まれたときには,これがさらに強化されます。日本最初の民間放送は大阪の毎日放送(ラジオ)なので,ラジオは一極集中にはならなかった。ところが,テレビ放送の免許を与えるときには世界に類例のない「キー局システム」を作るのです。これは全国ネットのキー局を指定し,全国のテレビ局はその系列にする,という仕組みです。そしてそのキー局は東京しか認めていません。キー局の重要なところは,全国放送の番組編成権を握っていることです。
 中略
 第三は,文化創造活動を東京へ集中させたことです。その方法として,特定目的の文化施設は東京に集中,他所には造らせない,と決めたのです。例えば歌舞伎専門劇場などは東京以外に造らせない。東京には歌舞伎座,明治座に加えて,国立劇場を造ったのに,大阪では戦前(昭和初期)にできた千日前の歌舞伎座も潰させました(物販店に改築)。やっと最近,大阪の松竹座と今日との南座が歌舞伎専門劇場らしく改築されましたが,その間に関西(上方)歌舞伎は絶滅してしまいました。

 では,東京以外はどうするかというと,多目的ホールを造らせた。それしか補助金を出さないというわけです。これは,ナチスが考えたトータル・テアトール(全体劇場)の思想です。全国どこでも同じ形の劇場を造ることで,統一文化を普及しようとしたわけです。それを日本も昭和16年に受け入れ,戦後ずっと守ってきたわけです。」

 町村敬志・西澤晃彦 都市の社会学(社会がかたちをあらわすとき)

第6章に入る前に,「都市とプロ野球」における若干の言葉の整理を「都市の社会学(社会がかたちをあらわすとき)」(町村敬志・西澤晃彦著 有斐閣アルマ 2000)を使って行っておきたいと思います。

 まず,社会学における「地域」という言葉は,空間的な範域を示すのに加えて,その地域における相対的に統一され共同性を持った「地域社会」(コミュニティ)も含んで用いられています。

 次に「都市」という言葉ですが,L.ワース(1965)のアーバニズム理論によれば,都市とは「人口量が多く高密度で異質性の高い集落である」とし,都市化とは,ある集落の人口が増加し密度が高まり異質性も大きくなることをいいます。ある集落が都市化すると,そこでは分業が進み,全人格的な人間関係の比重は低下し,貨幣や利害を介した部分的で一時的な第二次的接触に置き換えられ,家族や近隣の結びつきも弱まっていきます。その結果,都市においてはリアリティ感覚が失われ,都市はばらばらな砂粒のような個人からなる大衆社会となり,都市化とは,社会の解体を帰結するということになります。当然,都市の中の「地域」(あるいは「地域」としての都市)も,この流れの中で弱体化することになります。

 一方,第二次的接触が増えると,匿名性と機会均等性が高まり,全人格的な関係から自由になり,これにより,魂の自由が生まれます。このように,このアーバニズム理論には,多くの反証があり,実際,ワース以後の「地域」をめぐる都市社会学的研究は,ワース理論を直接,間接に批判,修正しようというねらいを含んでいます。

 ところで,ワースのアーバニズム理論と並んで有名なのがF.テンニース(1957)によるゲマインシャフトとゲゼルシャフトです。ゲマインシャフトとは,そもそも人間に備わっているとされた本質意思により人々が全人格的に結びついた共同体のことで,例としては家族や村落,民族,中世的都市,教会があげられます。そこでは,個性は共同性の中に溶け込んでいます。ゲゼルシャフトとは,個々の思考を介した選択意思により人々が創りだした社会のことであり,例としては大都市や国民国家,企業があげられます。そこでの共同性は,各人の合理的な計算に基づいて選び取られるものに限定され,ゲマインシャフトに比べれば弱い結びつきになっています。そして,テンニースは,近代において現実化しつつあった人間社会の根底的な変化をゲマインシャフトからゲゼルシャフトへの転換過程として捉えています。

 このテンニースの概念を用いて,近代に対する立場を整理すると次のようになります。第1の立場は,ゲゼルシャフトへの移行を必然とみつつ,いっそうのゲゼルシャフト化を促そうとするもの。そこでは,合理的な個人と個人の間の対等な結びつきが追求される。第2の立場は,ゲゼルシャフトへと一元的に収斂していくような社会変動は現実にありえないと見て,そこに形成される「ゲマインシャフト的なもの」を再評価しようというもの。もう1つが,ゲマインシャフト回帰を説く立場もあります。これは一部の熱狂的なナショナリズムや宗教運動において疑似共同体への回帰運動として現れることがあります。

 


スポーツ産業論 スポーツイベントが地域開発に果たす機能

@社会資本蓄積機能

「社会資本蓄積機能」とは,「社会資本としてのスポーツ施設や空間,そして緑豊かな環境をストックする機能」であるとし,平たくいえば,自治体が様々な方法によって公園や緑地を含むスポーツ施設を建設し,それを住民の生活の質的向上に用いるために資本を蓄積することである。「社会資本」とは,私企業の資本設備ではなく,社会の公有となっている施設のことをいう。社会が必要とする社会資本の優先順位(プライオリティ)は,時代とともに変化する。

 かつて高度成長期には,煙突がもくもく吹き出す煙が経済発展の象徴であり,まちに住む人々の誇りとされて時代があった。今の,環境の保護や生活の質的向上が優先される価値意識とは大きな隔たりがあるが,これも必要とされる社会資本が時代によって変化する一つの例である。今必要とされるのは,人々の生活の質を高め,健康でアクティブな生活の実現を可能にするスポーツやレクリエーションのための施設や空間である。

A消費誘導機能

スポーツにはまた,市民に対して健全なレクリエーションやエンターテイメントの機会を提供し,活発な消費活動を誘導することによって経済を活性化する機能がある。「するスポーツ」の場合,スポーツに参加する人々を増やし,施設をフル活用することによって入場料や施設利用料から収益を上げ,施設経営を安定させて地域活性化を促進することが可能である。また5万人以上の参加者がある国民体育大会や全国スポーツレクリエーション祭といった参加型スポーツイベントの実施によって,開催地における経済効果を高めることが可能である。

 その一方「見るスポーツ」では,プロスポーツの興行やスポーツイベントの誘致によって入場料収入や放送権料,スポンサー料によって収益を上げ,地元経済への還元を図ることができる。ハードである観客席のあるスタジアムやアリーナの有効活用を図り,これらの施設が持つ「劇場」としての機能を最大化することがキーとなる。特にオリンピックのようなメガスポーツイベントの開催は,社会資本整備だけでなく,消費誘導による地域経済の活性化という便益(ベネフィット)を地元にもたらしてくれるが,これもイベントが世界市場において商品価値を持つからである。1998年フランス大会の2億3千万スイスフランが,2002年日本・韓国大会には13億スイスフランとわずか4年で5倍に急騰している。オリンピックの場合も,1960年ローマ大会でNBCが支払った放送権料はわずか60万ドルであったが,2000年シドニー大会では7億1500万ドルになるなど,40年間で約1200倍に膨れあがった。メガイベントの規模が巨大化するということは,大会開催にともなうリスクが大きくなるということで,開催国は採算がとれるよう十分なマーケティング活動を展開し,スポーツから生まれる権益を有効に活用しなければならない。

 しかしながら日本の場合,スポーツが持つ消費誘導機能をフルに活用し,地域活性化に役立てるという行政ビジョンを持つ都市は少ない。スポーツや健康に関する都市宣言を行っている都市や,スポーツ振興を重要な政策課題とする自治体は多いが,その計画は社会資本や生涯学習の領域にとどまり,スポーツとビジネスの関わりを積極的に利用した地域活性化や都市経営にまで視野を広げているわけではない。

B 地域連帯性向上機能

 「見るスポーツ」がスタジアムで提供してくれる,スペクタクルに満ちた劇的な体験や,他の観客との間に生じるカジュアルな社交の場は,地域の人々にとって健全な娯楽の機会となる。また,日常生活の中に頻繁に登場するスポーツは,社会階級や年齢,そして所属集団に関係なく会話を交わすことができる。時と場所を選ばない「リスク・フリー」なトピックである。それは日常生活の潤滑油となり,地域の連帯感の高揚や社会的交流に役立つ。特に都市住民は,所属意識や自分のアイデンティティを確立するために,スポーツや特定のチームと強く結びついているという指摘もある。スポーツによって地域が一体化し,共通の話題が人々のコミュニケーションを深め,社会的憂鬱の解放と社会的交流が活発になり,地域モラールの向上が図られるのである。

C 都市イメージ向上機能

 イメージとは,人が心の中につくる心象であり,信念や考え,そして印象がすべて合体することによって生まれる。メガスポーツイベントの場合,開催都市のイメージは,単なる地理的な場所のイメージではなく,スポーツが生み出した感動や興奮,スペクタクルな祝祭経験とともに人々の心の中に定着する。世界のスポーツ選手が集うまちの様子は,友好的な地元の人々の笑顔とともに,ニュース番組として世界に発信される。

 特化した商業主義や爆弾テロ事件のため,オリンピック関係者には評判の悪かったアトランタ市であったが,1996年のオリンピック開催は,犯罪率全米ワースト1という危険で,ニュージャージー州のアトランティックシティーと混同されていた「退屈なアメリカ南部の大都市」というイメージを一新した。アトランタ市商工会議所が行ったオペレーション・レガシー(遺産活用戦略)は,オリンピックによる都市イメージの刷新を契機とした企業誘致プロジェクトであるが,翌年の1997年には,当初の計画であった州外から企業誘致の目標をほぼ達成したと報告されている。