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バナナ的エッセイ

沖縄の島バナナ 〜在来品種の産業化
みなさんは日本で生産されている「島バナナ」を口にしたことがあるでしょうか?同じバナナでも、輸入物とはひと味違うこのバナナ。今回はこの「島バナナ」の生産をめぐる問題をテーマにしたエッセイです。(文・小松かおり)

島バナナの謎

 沖縄には、島バナナと呼ばれるちょっと不思議なバナナが栽培されています。まず、島バナナは、沖縄のどこに行っても、家の周りや畑の横などに普通に見られます。沖縄には他に、三尺バナナと呼ばれる矮小生のキャベンディッシュや台湾バナナも栽培されていますが、島バナナは仮茎と葉が細いことで見分けられます。実は小振りで熟すと皮がとても薄くなり、皮がはじけることもあります。島バナナが実をつけると、まずは家族が食べ、ご近所や親戚にお裾分けします。お盆のお供えは、輸入バナナや三尺バナナより島バナナであるべきだ、と考える人も多く、お盆近くに自分の家でならないと、店で探す人もいます。どこにでも見られるこのバナナは、しかし、めったに店にありません。たまに店に出ると、輸入バナナの数倍から10倍の値段がつきます。沖縄では多くの人が、輸入バナナより島バナナの方が甘みも酸味も強くておいしい、といいます。おいしくて、値段がこれだけ高ければ、もっと市場に出てもよいようなものですが、市場に出る量はやはり少ないのです。「島バナナ」はもともと小笠原諸島から沖縄に移入されたと考えられています。いつ入ってきたかはよくわからないのですが、1870年くらいではないかという推定もあります(中村1991(→「バナナという作物」参照)。  
 島バナナの値段がどうして高いのか、ということを不思議に思った琉球大学法文学部の産業社会学の野入ゼミの学生たちが、1997年にその理由について調べました。その結果、島バナナは、その生産がほとんど産業化されておらず、流通ルートが確立していないために、流通の過程で非常に高いコストがかかり、高値になることがわかりました。この状態は、10年近く経った今でもほとんど変わっていません。ではなぜ、島バナナは産業化されないのでしょうか。

大里村の島バナナ(全房)
島バナナは小振りで酸味のある果実が特徴。

大里村のバナナ畑
大里村のバナナ畑。

島バナナの出荷-全房で出荷する
全房で出荷される島バナナ。

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リスクの多いバナナ栽培

  島バナナは輸入バナナや他の沖縄産バナナに比べて非常に高価です。沖縄産の三尺バナナは、県内に売ったら高くてもキロあたり100円程度、本土のデパートに直接出荷してもキロあたり300-400円にしかならなりませんが、島バナナなら質が悪くて500円、質がよければ1200円、質がよくてよく売れる旧盆前なら2000円まで上がるといいます。ちなみに、盆のお供えには、全房の状態であることが望ましいといわれ、1バンチ(全房)が10000円程度で取引されることもあります。

  農産物の産業化に必要なのは、品質の均一性と、流通コストを下げられるだけのまとまった出荷ができる量の確保、シーズン中は確実に出荷できる生産の安定性でしょう。

  島バナナが大規模生産されない理由は、第一に、生産の不安定さによります。島バナナにはいくつか敵があります。まず、台風。台風は沖縄農業全体の天敵ですが、仮茎も根も弱く、風が吹かなくても実の重みで倒れかねないバナナは、台風ではいちころです。特に、三尺バナナより背の高い島バナナは台風によって倒れる可能性がより高いのです。植え付けてから最低13-14ヶ月はかかるので、台風シーズンをすべて避けるわけにはいきません。バナナを産業化しようとしているある農協でも、4年に一度は全滅するという試算をしているほどです。しかも、沖縄のバナナの結実には、熱帯よりも季節性があって、ピークは7月から8月で、ちょうど、最も需要がある旧盆前に生産量もピークを迎えるはずなのですが、台風もまさしく結実してから熟すまでのその時期に最も多いのです。台風が来る前に葉を切り落とせば倒れる確率は低くなりますが、実が大きくなりきっていないうちに葉を切ると、実も小さくなります。

  流通コストの高さには、バナナの結実期を揃えるのが難しいという事情もあります。バナナは、株を植えたものだとほぼ同じ時期に実がなりますが、側芽をそのまま育てるとだんだん結実期がずれます。バナナを主食にするところでは、一年中端境期なく食料を供給することになってむしろありがたいのですが、小規模栽培では、その時期のずれによってまとまった出荷ができず流通コストが高くなります

  台風以外のバナナの大敵は、ゾウムシと土壌で伝染するイチョウ(萎凋)病などによる立ち枯れです。バナナは品種によって病気に対する耐性が異なるのですが、島バナナはイチョウ病に弱いのです。ゾウムシには、バナナツヤオサゾウムシ(バナナクキゾウムシ)とバショウオサゾウムシ(バショウゾウムシ)の2種類がいます。ゾウムシは、地面に接した仮茎に卵を産み、幼虫が中から根茎や仮茎を食い荒らします。ここ数年、ゾウムシもイチョウ病も拡がっていると感じる農家の人は多いようです。両方とも、一部のバナナがやられると、畑全体に拡がりやすく止めにくい、という問題があり、イチョウ病で一区画全部をつぶした、という話もよく聞きます。

  これらの問題点を克服して、バナナを安定した産業にしようと、さまざまな試みがありました。沖縄県もバナナ栽培を志す農協に営農指導員を送って、防虫や病気予防の対策を指導しています。

  平成の始め頃には、熱帯果樹の生産ブームに乗って、第三セクターの沖縄県種苗センターなどでバナナのバイオ苗(組織培養苗)の生産を始めました。これは、メルクロン栽培といい、親株となるバナナの地下茎の側芽をカットして、培地で培養し、それをさらに分割して培養する、という方法です。最盛期には、この方法で島バナナと三尺バナナ合わせて4000株程度を生産しましたが、現在は、2000株程度だそうです。この株を1株350円で販売します。バイオ苗のよいところは、病害虫のない個体を培養するため、病害虫を受ける可能性を減らせること、クローン株を植えることで、結実期を揃えられることです。特に、ゾウムシの被害を減らせることは、安定した栽培にとって非常に重要なことでした。しかし、バイオバナナの評価に関しては、そもそも、島バナナのクローンをつかっているのだから、育ったバナナは島バナナだ、という人と、バイオバナナの形質は島バナナとは違う、という人がいて、農家のあいだでも評価は一定していないようです。

  虫を防ぎ、風を弱めるために、みかんの栽培用のネット状の平張り施設をつかうという手もありますが、島バナナは背が高く、みかん用の施設では高さがたりないので、三尺バナナが試されています。

バナナのバイオ栽培
沖縄で研究されているバイオ苗

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牧師さんのバナナ塾

  島バナナを安定して生産することは難しいのですが、これらの問題を克服しつつある人もいます。名護市真喜屋で牧師をしていらっしゃる知念金徳さんは、バナナ栽培を工夫しているうちに、独自の島バナナ栽培法を確立し、それが新聞やテレビで取り上げられて、近隣をはじめ、沖縄各地から見学に来る農家の人たちに、島バナナ栽培を伝授しています。

  知念さんの考え方はとてもユニークです。バナナゾウムシの予防には、ケロシンと木酢液と海水を使います。生き物は、臭いものや焼ける匂いがきらいなのではないか、とケロシンを含ませた布を葉に引っかけ、希釈した木酢液を全体に噴霧します。また、昔、川に電気を流してウナギを捕ったことを思い出し、バナナは水分が多いから、電気を流せば中の虫が死ぬのではないか、とゾウムシが入った兆候のあるバナナにバッテリーで電流を流し、ゾウムシを殺します。また、台風対策には、廃品のビニールハウスのビニールを取った枠組みを使います。これまでは、台風から防ぐにはバナナを囲うか風の抵抗が少ないように縛る、という発想だったのですが、知念さんの発想は、バナナが勝手にもたれる場所をつくっておく、という方法です。島バナナは背が高いので、枠から頭を出し、風が強く吹くとちぎれた葉が枠に巻き付くことで倒伏が防げるといいます。また、実がなって傾いても枠にもたれかかって耐えることができます。ここ数年、台風による被害は出ていないといいます。知念さんは観察と実験をモットーとしていて、苞をいつ切ると汁が出にくいのか(月の満ち引きに影響される)など、研究をおこたりません。今は、畑に水を張ってバナナを数日水に浸け、虫を駆除する方法や照明で虫を除ける方法を実験してみたいと考えているそうです。資金と体力のいらない知念さん発明の方法は、高齢者の多い沖縄農業で大きな役割を果たすと知念さんは考え、50代のセーネン(青年)たちにこの方法を伝授すると同時に、「わたしの島バナナ栽培」の本を執筆中です。

廃ハウス利用のバナナ畑
知念さんの廃ハウス利用のバナナ畑 。

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島バナナの行方

  現在、沖縄の農産物の多くは、「沖縄産」であるという付加価値によって、本土向けに商品化されています。島バナナの商品化、または産業化には、前に述べたような、生産の不安定さなどのネックの他に、いくつかの課題があります。

  ひとつは、島バナナってなんだ?という問題です。島バナナはもともとは台湾バナナや三尺バナナに対して小笠原種のバナナを指しますが、在来品種の特性で、大きさ、形質などの品質は均一ではありません。島バナナを親株としたクローンを島バナナと認めない人たちがいるように、遺伝的形質以外の「島バナナ」観がある可能性もあります。また、反対に、「島でつくれば島バナナ」という理屈もあります。ある農協では、地産地消や食育のために、「もうひとつの島バナナ」として三尺バナナを地元で消費してもらおうと活動しています。「島バナナ」にネームバリューを与えるためには、島バナナとはそもそも何か、という説明をある程度統一しないと、混乱する可能性があります。しかし、これらのバナナのどれが「本物」でどれが「偽もの」であるか、ということを誰がどう決めるのか、というのは難しい問題です。そもそも在来品種には変異が大きく、均一化に向かって管理しないので、変異も蓄積されやすい、という問題も関わってきます。

  病気も虫もつきやすい亜熱帯の作物を単作で栽培するには、農薬をゼロにすることは非常に難しいことです。そもそも側芽で栽培できるはずのバナナをバイオ株に頼らなくてはならないのも、この虫と病気のせいです。台風対策はかなり成功したという知念さんも、虫と病気の対策はまだ不完全だといいます。しかし、これから、島バナナブランドを育てたり、県内での食育などに用いるとすれば、減農薬は必須となるでしょう。

  卸売り市場を通した、大規模な流通が難しいことに対して、生産農家からの直販や、株のときにオーナーとして買ってもらい結実したら果実を郵送するオーナー制度のような試みもあります。

  バナナ栽培には、他の地域で見るように、粗放から集約までさまざまな方法があります。沖縄のバナナ栽培が他の地域と異なる点は、台風対策が必須だということです。台風対策のために、高いところで果実を縛ったり葉をおとすなどの作業が必要なければ、果実の傷みを減らす袋がけと収穫のときの人手があれば、バナナ栽培は集約的な人出もいらないし、危険な作業もなく、重いサトウキビを手作業でまとめる必要のあるサトウキビ栽培などと比べて高齢者向けの農業であるといえるでしょう。

  島バナナは商品化、産業化が遅れたおかげで、昔ながらの株と栽培方法が残っているともいえます。これまで、産業化が進んだ地域では、例えばフィリピンの輸出用キャベンディッシュのように、大量の農薬と集約的な労働が必要であったために、健康、環境などに大きな問題を抱えています。琉球大学の学生たちは、産業化によって島バナナが地元の生産者や消費者の手を離れた存在にならないような方法が必要だとまとめていて、「一周おくれのトップランナー」となれるでしょうか。  

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