これに対して,体外受精は強力な排卵誘発で多数の卵子を採取し体外で精子と受精させ,細胞分裂をはじめた受精卵を子宮内に移植する方法で,こうして生まれた赤ちゃんがいわゆる試験管ベビーです.
体外受精以外では妊娠が望めない場合というのは,卵管が完全につまっている時,子宮外妊娠などで卵管を取られている時,などの特殊な場合です.
いずれも保険で認められていない治療なので,自費となります.人工授精は数千円程度ですが,体外受精は20-30万円くらいかかります.成功率はいずれも20-30%くらいで通常,数回は試みられます.
基礎体温と超音波診断で排卵がないか,またはたまにしかない場合は排卵がおこりやすくなるような薬をつかいます.漢方薬が有効な場合もありますが,一般的には排卵誘発剤とよばれる薬が効果が確実です.
排卵誘発剤にはのむ薬と注射剤があり,注射剤のほうが強力ですが,副作用も問題になります.のむ薬では双子の確率が高くなり,注射剤では三つ子以上の多胎妊娠になることと卵巣が過剰に刺激され全身状態が悪くなることが稀におこります.
子宮内膜症は生理痛とセックス時の下腹部痛が特徴的な症状である病気ですが,卵管が癒着したり排卵障害となったりして不妊の原因になります.生理痛は子宮内膜症がなくてもひどい人もいますし,子宮内膜症による卵管癒着(閉塞)があっても痛みがない人もいます.超音波と血液検査が診断の参考となりますが,腹腔鏡(ふっくうきょう)でしか診断がつかないケースもあります.
原因不明の不妊や,子宮内膜症,子宮筋腫,卵巣のうしゅが不妊原因と考えられる場合はその確認と治療のために腹腔鏡を行います.腹腔鏡は内視鏡の一種ですが,全身麻酔で行い入院が必要です.おなかのなかの状態をテレビカメラで映し,モニターを見ながらおなかの外から特殊な器械をいれて手術します.
また,免疫を担う細胞であるリンパ球を夫より採取して注射する夫リンパ球輸血という方法があります.有効な場合がありますが,理論的には輸血の一種ですのでそれなりのリスクが指摘されています.保険で認められた治療ではありません.
「赤ちゃんがほしい!」と思って避妊をしないで1年以上たっても妊娠しなければ不妊症といいます.男性側に原因がある場合と,女性側に原因がある場合と,精子と女性側の相性が悪い場合があります.
男性側の原因としては,性交不能,精子の数と運動性の問題,などがあり,精子の検査とその治療は多くの場合産婦人科でできます.
女性の側に原因があることのほうが多く,その原因と治療は単純ではありません.排卵があること,精子の通り道であり卵子との出逢いの場である卵管が通っていること,受精卵が発育できる子宮環境,ホルモン環境が整っていることが必要なので,これらに問題がないかをみていくことになります.
妊娠のためには排卵があることが必要ですが,生理があっても排卵していない場合もあります.朝,目覚めてすぐに体温を測ることを毎日つづけると,排卵後に体温が上がり生理がはじまると下がることがわかります.これを基礎体温といいますが,この体温の変化がなければ排卵していないと考えます.血液検査で排卵に関連するホルモンを測定し,問題があれば,ホルモンを調整する働きのある薬を使ったり,ホルモン補充を行います.
妊娠しやすい時期は排卵日を含めた排卵前の3日間くらいです.基礎体温では高温期に変わる前日つまり低温最終日が排卵日であることが60%くらいといわれています.しかし,実際には基礎体温をつけていても明日から体温が上がるかどうかはわかりません.
排卵日のより正確な予測は,尿中のホルモンの変化を測定する方法と超音波により卵巣の変化をみる方法でおこないます.
卵子は卵巣のなかの液体のたまった袋の中で,受精可能な状態に成熟していきます.この袋を卵胞(らんぽう)とよび,排卵直前には2cmくらいになるので超音波でみることができます.排卵すると卵胞が破裂し,卵子が卵管に取り込まれ精子と出逢うことになります.卵胞が破裂すると卵胞の周囲の組織が厚く黄色くなるので,これを黄体とよびます.黄体は黄体ホルモン(プロゲステロン)を分泌し,このホルモンのせいで基礎体温があがります.
排卵のころ子宮の内側の子宮内膜とよばれる部分が厚くなります.これは受精卵がくっついて育つこと(着床)の準備ができたことを意味します.着床がおこらなければ,厚くなった内膜は剥離して更新され,出血します.受精卵のために毎回,ベッドメイキングしているわけです.そして,これが生理です.
子宮筋腫,子宮内膜症が不妊原因となることがあります(筋腫は流産の原因となることもあります).内膜症は安易に診断される傾向がありますが,確定診断は開腹術または腹腔鏡によらないとできません.実際,内膜症と診断された人でも腹腔鏡でみると違っている場合もあれば,内膜症を疑われていなかった人に見つかる場合もあります.
最近は妊婦健診に超音波はかかせませんが,この検査により妊娠中に筋腫が見つかる人がめずらしくありません.かなり大きな筋腫でもたいていの場合ふつうの出産が可能です.このことから,不妊症のひとに筋腫がみつかっても手術が必要というわけではなく,手術したほうがよいともいちがいには言えません..
内膜症は排卵を抑制する治療が選択された場合,その間の妊娠はできません.筋腫も手術した場合は数か月間は妊娠を控えなければなりません.このため,不妊症の患者さんでは筋腫,内膜症の診断はとても重要で,治療の選択も慎重に行われなければなりません.
筋腫も内膜症も漢方薬をうまく使えば症状は改善しますし,排卵を抑制しないという大きなメリットがあります.
卵管の通過性を確認するためにを行います.レントゲンに写る無害の薬(造影剤)を子宮に注入し卵管から流れ出ることを確認します.卵管の軽い詰まりなら,この検査により通りがよくなり妊娠しやすくなります.
精子が卵子にたどりつくことが難しいと考えられる場合におこなわれます.特に原因がないのになかなか妊娠しない場合に試みられることもあります.
性交で射精された精液は腟内で液化し,精子が運動を開始し子宮を経由して卵管まで泳いでいきますが,精子の数と運動能力に問題があったり子宮環境との相性が悪いと子宮内へ進入できない場合があります.このような場合に排卵日に精子を人工的に子宮内に注入することで妊娠しやすくしようという方法が人工授精です.
精液をそのまま子宮内に注入すると感染,腹痛,卵管の炎症,癒着,などの原因となる可能性があるため,元気な精子を選別する処理をした洗浄精子浮遊液を使います.
連続して3回以上の流産があると習慣性流産と呼びます.流産は全妊娠の10-15%くらい起こるといわれ,多くは染色体異常などの受精卵-胎児側の原因によるとされています.母体側の原因ではないので,これは予防法も治療法もなく,だれにでも起こりうることと考えられています.しかし,習慣性流産はいくつかの母体側の原因で起こると考えられ,これには予防と治療があります.
自己以外の細胞や微生物を排除するためのシステム(免疫系)の異常による流産が知られています.胎児の遺伝情報は半分は父方に由来するので母体にとって自己ではないのですが,排除されてしまっては妊娠が成り立たないのでうまく折り合いをつけているわけです.これがうまくいかないと流産します.このようなタイプの流産では胎盤の血管内で血液がつまってしまいます.そこで,免疫系の調整に働くステロイドホルモンや漢方薬を用いたり,血液が異常にかたまるのを防ぐアスピリンや漢方薬をのんでもらいます.
排卵ころの子宮内膜
矢印-矢印 0.8cm 経腟エコー |
子宮 |
左右の卵管 |
造影剤の流れたところが白く写る.
この写真は左右とも通過性は良好. |
| 排卵誘発剤による三つ子と双子 いずれも妊娠11週 約4cmの胎児 |
これらの一連の現象が超音波で観察できますが,経腹エコーでは卵胞の誤判定や見落としがあるので,不妊治療では観察精度の高い経腟エコーによる判定がなされます.
妊娠しやすい時期がわかれば,それにあわせてセックスの機会をもってもらいます(タイミング法).精子と卵管に問題がなければ,ふつうはこれでほとんどのカップルが妊娠します.
モニターをみながら行う腹腔鏡手術
子宮内膜症による卵管癒着剥離 |