あるがまま


自助サークル紹介「あるがまま」
ひきこもりや対人関係が苦手な人たちの集まり「あるがまま」を始めて、
2年半が過ぎた。当初は僕を含めて3人程度で始めた集まりだったが、
多いときには20人以上も集まる時期もあった。
最近は常連さんが調子を崩したりと、10人前後に落ち着いている。
会場は僕が運営委員を務める障害者の共同作業所。
札幌駅から歩いて15分程度の便利な場所だ。
もともとはイタリアンレストランだったので、室内は喫茶店やバーといっ
た感じ。
20人が入ればいっぱいというこじんまりとしたスペースに、テーブルや
いすが雑然と置かれ、薄暗い照明が照らす。決してきれいとはいえないが、
こうした雰囲気が「落ち着く」という人が多い。

毎月第二、第四土曜日、僕は午後7時ごろに鍵を開け、来る人を待つ。
「きょうは誰が来るかな」。そう考えているうちに、人が現れる。初めての
人には「あるがままノート」を「もしよければ、一言書いてね」と手渡す。
「ノート」は初めての参加者に自己紹介などを書いてもらう。
いきなり人前で声を出しての自己紹介だと緊張するだろうかと、ノートを用
意しているのだ。
「高校を半年で中退、以後5年間ひきこきもる…」一番目には僕の自己紹介
が書かれている。
それ以後、数えてみたら80人近くの人の名前が書かれている。
この「ノート」を見れば、どんな人が来ているのか分かる。
初参加者は、しばらく眺めてから、書き始める。

参加者は20代や30代が中心で、たまに10代、40代の人も顔を出す。
比較的、男性が多いものの、女性が半数を占める日もある。
いわゆる「社会的ひきこもり」の人だけでなく、いろいろな悩みを持った
人がやってくる。うつ、アルコール依存、アダルトチルドレン、トランス
ジェンダー、知的障害、統合失調症…。基本的には誰でも受け入れる。差別
や区別をするのがいやなので。
来る者は拒まず、去るものは追わずが「あるがまま」の基本精神。
社会にはいろんな人がいる。
自分を認めてもらいたければ、他人も認めなければならない。
それを身をもって知る場所でもあるのだ。

集まりには特に決まりごとはなく、好き勝手に来て、好き勝手に帰る。
無理にしゃべる必要もない。ただいるだけでいい。酒を飲むのも自由だから、
飲みたい人は飲む。
自己責任の原則で。
ただ、酒で問題が起きることもある。
乱闘騒ぎもあったし、トイレにひきこもって、何時間も篭城した人もいた。
そうした問題が起こると、メンバーから禁酒にすべきという声がでる。
でも、いまだに禁酒にはしていない。僕は、自分の体験上、酒を飲む練習の場
も必要だと考えているから。
僕が初めての酒を席は、大学入学して間もないクラスのコンパ。23歳の時だ。
5歳年下の同級生のほうが、酒の経験は豊富。
年上なので、飲めると思われて、ビールをすすめられ、顔が真っ赤になり恥ず
かしい思いをしたことがあるのだ。

時間は制限を設けていないので、遅いときには午前2時ごろになるときもある。
僕もそうだが、ひきこもり系の人たちは人とはすぐには打ち解けられない。
とにかく時間がかかる。
2,3時間では足りない。ゆったりとした時の流れの中で、少しずつ心が開けて
くる。
仕事やアルバイト、学校、病院のことなど、いろんな話題が出るけど、
やはり一番盛り上がるのは恋愛かな。
先日は初参加者の女性から「病気の人同士が付き合うのって難しいですか?」と
いきなり聞かれた。それぞれが自分の経験や身近なカップルの例を持ち寄って、
彼女にアドバイスした。
そして、次は音楽の話に。
「イエモンが好きなの」「えっ!私も」…。

このように「あるがまま」に時は過ぎて行く。
僕は出会い、交流の場所を設定しているだけ。
会報もないし、ホームページもない。
ただ、僕の携帯番号やメールアドレスは、原則公開している。
道立や札幌市の精神保健福祉センターに問い合わせたら、「あるがまま」を
紹介してもらえる。
そして、マスコミの取材も積極的に応じる。
それは、今現在、ひきこもっている人たちに「あるがまま」の存在を知っても
らいたいからだ。
「今は行けないけれども、いつか出られるようになったら、あそこに行こう」。
そう思ってくれる人が必ずいるはず。
そんな思いが始めた時から常に頭にある。
だから、いつまで続けられるか分からないが、たとえ僕一人だけになっても続け
るつもりでいる。
なにより僕にとっても仲間と出会える大切な場所であるから。


※この記事は2002年12月段階のものです。現在は北海道札幌市で月に1回開催。

文・高尾 晋