2003.12.19作成

004 コミュニケーション
by ゆうこ
 

【苦い体験】

介護に限らず良い信頼関係はよい精神状態をもたらす。
信頼関係を築くための一歩は気持のよいやりとり(コミュニケーション)をすること から始まる。
それをしなかったために相手の心を傷つけてしまい、人間関係が断絶(崩壊)してしまった。
私にとって今も心の痛む忘れられない苦い経験である。

介護の仕事を始めて3年が経った。
身体介護の技術は不完全ながらも相手の状態に合わせて介助出来るようになっていた。
1人1人障害の程度によって身体の形態が違うため、基本的な技術を知ったうえで応用していかなければならない。
(そのときに覚えた技術も後から思うと、もっと合理的でどちらにも負担がかからないやり方があったのだが・・・)
身体介護は一通り出来るようになったものの、入居者とのやりとりでは何度もつまずいた。


千手観音

60歳を少し過ぎたばかりのWさんは(女性・左半身麻痺)器用な方で自立心もあり、大体のことは自分でしていた。
手伝うことは、洋服のボタンを大きなホックに付け替える時と、入浴時の右側の洗身と右手足の爪切り位であった。
性格もしっかりとしており、頭の回転も良かった。
そんなだからWさんに関しては、”見守り”ということを念頭において接していた。
担当になって3ヶ月、少しずつ良い関係が出来つつあった。

私が夜勤で忙しくしている時、彼女が
「ティッシュを持って来て」
とナースコールで言った。
何でも自分でする人が何で?
と思いながらすぐ対応出来ず、しばらくしてから持って行った。
見るとまだ箱の中に残っている。
私は思わず感情的に
「まだ、ありますよ!」
と言って箱をポンと置いて部屋を出ていった。
しばらくすると
「足の爪を切って」
とナースコールを鳴らして言った。
賢明な彼女は夜勤がどれほど大変か分っている。よく
「大変じゃなあ、私は気が短いからとっても務まらん」
と言っていたのである。
ティッシュの箱のことを意識してわざと言ったとしか思えなかった。
Wさんの態度にむっとしながら、
「足の爪切りは急を要することではないでしょう。私は千手観音ではありません」
と思わず言ってしまった。しまったと思った。
忙しさが一段落したのでWさんのところへ行き、言い過ぎたことを謝った。
「今なら爪切り出来ます」
しかし、後のまつりであった。
「いいえ、いいですよ忙しいでしょうから。ところで千手観音というのはどんな観音様ですか?」
彼女が知らないはずはない。
彼女独特の皮肉であった。
そして、翌日から私と彼女の会話はほとんどなくなった。
こちらから話しかけても彼女は2度と心を開こうとはしなかった。


言ってしまったことは 

人は1日として同じ状態ということはありえない。
気分の良いときもあればそうでない時もある。
体調についても同じである。
それに加えて病で身体が不自由になっている場合はなおさら、その波が大きいと思う。
そのことを実感したのは、自分がパーキンソン病になって数年経ったときであった。
彼女もその日は体調が悪く気分がすぐれなかったのかも知れない、と今にして思う。
考えてみると自分が忙しく心に余裕がないときに、相手の心を考えずに感情的な言葉を言っていることに気がついた。
一度言ってしまったことは取り返しがつかない。
自分自身を客観的に見つめ直さなければ、同じことを繰り返す。
よいコミュニケーションをとることは、信頼関係を確立するための第一歩であると思う。
「千手観音」の言葉は今も私の心に突き刺さっている。 






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