2004.07.01更新

朝顔                     by ハナミズキ

朝顔は多様で実に趣きのある花である。早起きする人には、毎朝見ていてあきない花とでも言おうか、まるで幻想的な大人の女性に出会えた気分だった。花びらの清純で繊細な面立(おもだ)ちが良い。ただ私は微かに、傷心を抱く淑女のイメージを感じていた。
夕方、つぼみは、物怖じして縮こまったのか、頑(かたく)なに閉じてしまった。その丁寧に巻れた花びらに、緩(ゆる)む気配は全く無い。それがまた、何だか初々さに見えてきて、ますます興味深い。
翌朝、つぼみは、暗いうちからやんわり綻(ほころ)ぶ。何か怖いもの見たさの衝動に駆られたかのように、注意深く、慎重に慎重に膨らんでいく。次第に、辺り一面が白白と成り出した頃、花びらは未知の世界を垣間見ながら開花の時を迎える。それらは、澄んだ空気に包まれ 端麗で、清々しく夏の風物詩そのものである。
毎朝、同じように咲いているこの花を 横目に見ながら出勤する人にとって、それはごく当たり前の様子でしかないだろう。実際、平穏で何事もない、朝の一コマなのである。でも、真夏の陽射しを肌ではっきりと感じる時刻には、不思議と花びらは貝のようにとじている。  
一度とじた花びらは、かろうじて、まだ茎に引っ付いてはいるが、二度と開く事はない。次の朝には地面に重なるように散っている。庭のフェンス越しに毎日咲いている朝顔。この花の真実は、一朝一夕。美しいがために、果敢(はか)なく、やるせなく、切なく、拠り所なく、たいそうもの悲しい。ところが、花は一日ごとに新たなものに変わっているのに、それを無常と感じながら眺めている人は、ほとんどいないだろう。
一つ一つの花びらがその晴れ姿を見せてくれるのは、ほんの数時間のこと。それゆえに、見た目の可愛さからはうかがい知れぬ、執念にも似たものを感じてしまうのである。それは、練習に練習を重ね、やっとの思いで晴れ舞台を踏む女優のようなもので、開花の重みがひしと伝わる。
そんな清楚で愛らしく、いじらしい花びらに対し、朝顔の葉っぱは、整然としながらも 見る人に好感を与える。たとえ花びらが萎んでも、一度醸し出された雰囲気を決して鎮火させはしない。透き通るように美しく細長く伸びた、5本の指のようである。
これと対照的なのが、つるだ。とにかく、やたら伸びるのが早く、絡まるものが見つかれば、となりの木であろうと、金網であろうと、見る見る陣地を広げる。貪欲で、強引で、自分勝手である。寄りかかる物が無ければ、つる同士、数本で絡みあって、綱になり、上に向かって伸びてゆく事もある。この夏、家のフェンスを 一面花盛りの、垣根のようにしたかった私は、毎日絡まりあったつるを解き、一本一本巻き直した。実に面倒で、不自然な事を繰り返したものだ。おかげで、朝顔の強情さと生命力を知ることが出来た。そして、何かに巻きつこう、寄りかかろうとする姿は、その強情さの裏返し、即ち心細さにも思えた。女性の性(さが)、妖艶で危険な匂いを感じる。ある意味、神秘的と言える。
最後は、太く柔軟に次から次へと新芽を出して行く茎。豊麗で何か母の強さを感じるのは、私だけかも知れない。実に太い茎であった。
朝顔は、今では、小学生の夏休みの宿題として、誰もが育てたことのある、馴染の深い植物である。しかし、もともとは野草で、古い文献を開いても、どちらかと言うと観賞して楽しむ対象ではなかった。江戸時代になり、品種改良により、形や色の種類が増え、一気に人気を呼んだ花である。だからと言う訳ではないが、いやらしさのない、淑やか美人と言う情感と、土と水さえあればどこででも育つ野武士のような荒荒しい印象が混在しているのだろうか。
数多くある花の中で、何故か、朝顔に興味を引かれ、毎日毎日 手を加えているうちに、今まで知らなかった生態の不思議に出会い、更に育てるおもしろ味を見つけた。例えば、人間の実像も、大抵の場合、朝顔に似たところがある。花、葉っぱ、つる、茎それに根も含めていくつかの属性が潜んでいて、複雑で奥深くなかなか説明し得ない。
だから、自分の持つ、二面、三面の顔をさらけだし、それを分かってくれる人になら、こちらも尽くそうとする。人間とは、真に弱いもので、どこかで人に寄りかかっていないと、自分を支えきれないところがある。長い付き合いの中で、良い部分より、欠点やイメージと違うところが見えて来た時から、言葉を越えた付き合いかスタートするような気がする。だからこそ、その人の真の姿を見てくれる人を大切にしなければいけないと思う。
想いが届くと言うのは容易な事ではないが、思い入れがなければ、それは、届かないのも事実だ。知らずして一概には言えないのが人間関係。でももし、人や家族の事で悩んでいるなら、それは、ごく当たり前のこととして難しく考えず、ありのままで良いのではないだろうか。その事を、この花が、ひと夏の付き合いの中で 私に語りかけていたような気がする。

2004.07.01up

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