
最近の話題 2005年8月6日
1.ASCプログラムとASC Purple
国際条約で核兵器の新規製造や地下核実験が禁止され,米国は現有の核兵器を長く保有する必要が生じました。ところが核爆弾や弾頭は,プルトニウムなどの核分裂を起こす物質と爆薬,水爆の場合は三重水素などを含んでおり,その他の部品を含めて核分裂物質の放射線に曝され,劣化を起こします。このため,設計寿命を越えて長期貯蔵した核弾頭が本当に爆発するかどうかはなんとも言えません。地下核実験ができたころは,古いものを実験的に爆発させてデータを集めて,核兵器の賞味期限を決めていたのですが,実験ができなくなると別の手段が必要です。
そこで登場したのがASCプログラムで,コンピュータシミュレーションで核兵器の賞味期限を求めようとする計画です。
ASCは常に米国最大のスパコンを調達して来ましたが,そのもっとも最新の世代がPurpleです。Purpleは実は2台の主要なスパコンからなり,その一つは現在137TFlopsで世界トップのBlueGene/Lです。但し,現在のBlueGene/Lは32ロッカーですが,最終的には更に規模を2倍にして納入されます。
Purpleのもう一つの主要スパコンは,2月12日の話題で紹介したIBMのp5-575というシングルコアのPOWER5チップを8個搭載する2Uサーバをノードとして,1280ノードをHPSインタコネクトで接続したシステムで,一般的にはこちらがASC Purpleと呼ばれます。1.9GHzで4FPopのPOWER5が計10240個使用されているので,ピーク性能は77.8TFlopsです。
2005年7月22日にIBMは,このPurpleが目標性能を10%上回り,111TFlopsを達成したと発表しました。ピーク性能を上回る性能が出る訳はないのですが,この目標はsPPM (turbulent hydrodynamics) とUMT2000 (unstructured mesh radiation transport)の2種のアプリケーションでピークの30%の23.2TFlopsを出すというもので,ピークとこられの実行性能の合計の101TFlopsを目標と呼んでいます。そして,これに対して111TFlops出たというのが,今回の発表で,これは両アプリで実効33.2TFlops,ピーク比42.7%を達成したことになり,これは驚異的な性能です。
また,フルシステムより若干小さい1185ノードで60.49TFlopsのLinpack性能を出したと発表しており,これはNASAのColumbiaを抜いて,2台のBlueGeneについで世界第3位の性能です。
2.2010年に10PFlopsを目指す日本のスパコンプロジェクト
2005年7月25日に共同通信社は,日本政府(文部科学省)が2010年を目標に,現在,世界最高性能であるBlueGene/Lの73倍の性能にあたる10Peta Flopsのスパコンを開発する計画と報じました。共同通信のニュースはこのUSA Todayのサイトなどで見られます。このシステムを作るのに必要な費用は800億円〜1000億円とのことです。
スパコンによる計算科学は,今や,理論と実験とならぶ科学研究の第三の柱と言われており,小はクオーク物理学から大は銀河や宇宙の大構造の研究まで,実験の出来ない科学分野では,理論を裏付ける唯一の手段となっています。また,産業界でも重要な役割を果たしており,シミュレーションで大部分の検討を行い,実験回数を削減して,開発期間を短縮し,競争力強化に重要な役割を果たしています。例えば自動車では,最近は衝突安全性が重要になっていますが,色々な条件で実車を衝突させてデータを集めるのは金も時間もかかります。これを衝突シミュレーションで実験回数を少なくできれば効果的です。また,薬品の開発では,多くの候補物質の有効性や毒性を試験管で調べて絞り込むのですが,これを蛋白質と薬品候補の相互作用のシミュレーションで候補を絞り込むことが出来れば,開発効率があがり,開発期間を短縮できます。
ということで,日本の科学技術や産業競争力の向上の観点からは,重要な計画だと思います。
付け加えると,トヨタのF1が今期良い成績を収めているのは,スパコンを導入してマシンの空力特性を改善し,性能を向上したからという噂もあります。
3.Webコンピュータ博物館
7月2日の話題で,IntelのマイクロプロセサのQuick Referenceの写真が,Web博物館が出来て,また,見られるようになったことを紹介しましたが,今週はコンピュータ博物館の話題です。
情報処理学会のコンピュータ博物館は,日本のコンピュータの歴史を纏めたものとしては,年表も充実しており,写真も豊富。懐かしいワープロや周辺機のページもあるという優れもので,日本のコンピュータの歴史を調べたいときには心強いWeb博物館です。 情報処理学会が,日本のコンピュータメーカ各社の委員を動員して資料を集めたので,各社の古いコンピュータの写真などが非常に充実しています。
ちなみに,このところ話題のスパコンは,この博物館の年表によると,世界的には1969年のIBMの2938アレイプロセサが最初で,わが国では1977年の富士通のFACOM230-75 APUが最初となっています。この230-75 APUは写真によると巨大なラックが並んでいますが,性能は22MFlopsで,最近の3GHzのデュアルコアのPentium 4なら12000MFlopsなので,僅か30年弱で性能は500倍以上,お値段は多分,1/1000以下でしょうね。
わが国のもう一つのWeb博物館はIBM社の博物館です。素人向けにコンピュータの仕組みとか,電子メールの仕組みとか書いたページがあって,入り口だけ見ると大したことはなさそうですが,歴史の部屋の 「年代別に見る歴史」などは充実しています。当然,IBMの機械が中心ですが,取替え型ディスクパックなどの懐かしい周辺装置の写真もあって楽しめますし,史料価値も高い博物館です。
これらは実物の展示の無いバーチャル博物館ですが,実物のある博物館として(私の知る限りでは)一番充実しているのではないかと思うのが,シリコンバレーにあるComputer History Museumです。但し,開館は水,金,土の3日間で,時間によってはガイド付きのツアーもあります。 ストアードプログラムコンピュータの祖であるJohn von Neumann博士の作ったJohnniacがあったり,最初の商用スパコンであるCRAY-1の展示もありますが,パソコン発祥の地であるシリコンバレーだけに初期のパソコン やワークステーションも揃っています。(もっともパソコンは作られた台数が多いので,Apple-1などは博物館に行かなくても,SunnyvaleのFry'sにも展示されていますが…)そしてWebのバーチャル博物館もあり,ここのWeb展示の写真も充実しています。
また,Obsolete Computer Museumというのがあります。ここはあまり大型の機械は無く,パソコンが中心ですが,NECのPC6001なども収録されています。何故か日本のメーカはNECとSanyo,EpsonでPanasonicも1機種という収録で,歴史的に言えば,NECは当然としても,当然収録されるべきと思うSHARPのMZ80とか富士通のFM-8はありません。
Intelの博物館はバーチャルだけでなく,サンタクララの本社の一角に実物の博物館があります。展示にはかなり工夫をしているのですが,マイクロプロセサは物が小さいだけに迫力に欠けます。これはComputer History Museumでも同じで,最近のパソコンやハンドヘルドの方が絶対性能は高いのですが,マザーボード1枚分の大きさでA Registerなどと書かれている真空管のマシンの方が迫力があります。
これら以外にもコンピュータのWeb博物館は多数ありますので,興味のある方は検索ページで探して見てください。