最近の話題 2002年12月28日

1.IBMが16CPUのx440サーバを出荷開始

  2002年12月18日にIBMは,16CPUのx440システムの出荷を開始すると発表しました。4U筐体に8個のXeon MPプロセサ(1.6GHz,1.5GHzと1.4GHz)を収容し,これ高速のcNUMAインタフェースで2筐体接続して16CPUとするものです。

  3月16日版の話題で紹介したように,x440はもともと4CPUのノードを最大4個接続して16CPUを構成する筈で,当初から4U筐体に4CPUノード 2個を収容していたので新しいところがありません。4ノードを接続する16CPU構成はトラぶっているという噂もあったので,やっと問題が解決して本格的に出荷できるようになったということでしょうか?

2.IEDM その3

  その2では量産に向けたプロセスの論文を紹介しましたが,今回は先端要素技術を取り上げます。大きな話題は,歪みシリコン,High-kゲート材料,FinFETといったところでしょうか。

  FinFETでIBMがSRAMを作ったという論文が興味があり,見てみたのですが,1bitのセルを作り,全てのノードをチップ外に引き出すという全くの実験チップでした。NとPの両方のトランジスタのVthを適当な値にし,4.8um2と ベースにした180nmプロセスと同一のサイズでセルを作ったというのは評価できますが,ノイズマージンを示すバタフライパターンは殆ど目が開かないような状態で,とにかく作ってみたという感じです。TSMCのOmega FETは,9月21日版の話題で紹介したIntelのTriple Gateと近い考え方のもので,Si Finの両側だけでなく上側もチャネルとして利用し,更に下側もオキサイドを多少エッチングしてゲートを潜り込ませてΩ形のゲートを構成しています。25nm厚のFinで25nmのゲート長のトランジスタを作っています。SEM写真では多数のFinを並列接続してPとN側に接続されたゲート電極が写っており,インバータが作れそうですが,回路を作ったという報告はありません。また,Motorolaの論文ではVth調整をやっておらずDepletion型のトランジスタでインバータを作ったという報告がありますが,伝達特性はあまり綺麗ではなく,遅延時間などは公表 されていません。

  ようするにFinFETはトランジスタ単体は出来るようになり,短チャネル効果の制御は出来るようになった。Vthの調整は完全シリサイド化で作ったメタルゲートにNを打ち込むというような新しい技術も出てきたが,まだ,技術としては開発途上。回路はなんとか作ったというレベルで,DC特性も怪しい,遅延時間を計るなどは,まだまだ。と言った状況です。12月14日の話題では65nmで実用になるのではないかと書きましたが,現在進行中の65nmプロセスの開発に取り入れるのは無理と思われますので,撤回します。

  High-kゲートは,材料としてはHfO2が主流の座を占めることは確立した感じで,これにSi,N,Alなどを添加したり,多層膜にしたりして特性を改善する論文が数多く出されています。ということで着実に進歩しているが,実用化はまだまだと思っていたのですが,Samsungが90nmプロセスでHfO2-Al2O3複合ゲート絶縁膜を使う2.14um2の6T SRAMを作り,Oxinitrideのゲート絶縁膜のものと製造歩留まりは殆ど変わらないというデータの論文があり,驚きました。具体的にどの程度のSRAMを作ったのかは不明ですが,少なくとも歩留まりが提示できる数を作る必要があり,他の論文が単体トランジスタでの特性を議論しているのと較べると,大きな回路を作ったという点で注目に値します。完成度は良く分かりませんが,歪みシリコンも65nm世代かと言われていたところをIntelが90nmから使うと発表したように,High-kはSamsungが量産一番乗りというのも有り得ないことではないと思います。

  歪みシリコンは専門のセッションが設けられ多くの論文が出ていますが,Intelが来年後半から量産というのが何と言っても大ショックで,各社これを追いかける展開になると思われます。ただし,先週述べたようにIntelの歪みシリコン適用の90nmプロセスとIBMのSOIプロセスは性能レベルとしては似たようなもので,歪みシリコンを先駆けて実用化したから 性能的に断然Intelが優位というほどの状況ではありません。また,IBMも65nm世代での実用化を目指した論文を出しており,こちらも着実に進んでいる感じです。

  それから,IBMが6nmのゲート長のトランジスタを作ったという話ですが,この論文の主題はUltra Thin Body構造で短チャネル効果を制御するというのが主眼で,張り合わせのSOI基板のSiを削って4〜8nmという薄いSi層を作り,ここにプレナートランジスタを作っています。弱いHalo implantでも40nm程度まではOKで,強いHaloにすると20nmまで短チャネル効果を抑制できるというデータが報告されています。この技術で,ゲート長6nmを作ってみたというもので,DC特性は3極管みたいで,Idsも130uA/umと大して大きくないP-trですが,トランジスタとして動くものが出来たという報告です。チャネル長は6nmとITRSロードマップの2020年並みですが,ゲート酸化膜は1.2nmで全然及びません。IBMの発表資料にはトランジスタ構造の綺麗な模式図があったのですが,論文のSEM写真を見ると昔のインベーダーゲームのインベーダーのようです。

3.LucentのSmart Antenna

  プロセサとは直接は関係ない携帯電話の基地局の話題です。2002年12月18日にLucentは同社の研究所であるベル研究所が第三世代のCDMA2000携帯電話の効率を大幅に改善するチップを開発したと発表しました。

  微小なアンテナ群のそれぞれから出す電波の位相を変えると干渉パターンが変わって,電波が強くなる方向や弱くなる方向が変わります。当然コンピュータ制御ですが,この制御を更に高度にすると,何十もの狙った目標の方向に電波を強くすると言った芸当が可能になります。これが最近話題のイージス艦のレーダです。

  このLucentのSmart Antennaはこれと同じことを携帯の基地局でやろうというもので,通話している携帯電話がある方向にだけ強く電波を送り,その他の方向には出来るだけ電波を出さないというようにアンテナの放射パターンを制御するわけです。受信側も同じ位相調整を行うと狙った方向の感度があがり,それ以外の方向からの雑音を拾いにくくなります。ということで,同じ距離なら通信の状態が良くなり,状態を同じにすれば一つの基地局でカバーできる半径が大きくとれます。また,指向性の強いアンテナで干渉が減ることにより,同じ基地局のなかで同時に通信できるユーザ数も増加できます。ということで一つの基地局の容量が2倍,データ通信速度も2倍程度に改善できるということです。

  このようなアンテナ制御を行う鍵となるLSIを開発したとのことですが,具体的にどんな処理を行うチップかは発表には書かれていません。

4.Stella賞

  今年はノーベル賞ダブル受賞という素晴らしいニュースがあり,また,バウリンガルがIgノーベル賞を受賞という話題がありました。だからというわけではありませんが,Stella賞というのを紹介します。今までいくつか個人の趣味でプロセサとは関係ない話題を紹介してきましたが,これは極めつけ,プロセサとはま〜〜ったく関係ありません。

  Stella賞というのはStella Liebeckさんにちなんで設けられた賞ですが,このStellaさんが何をしたかというと,ハンバーガーのマクドナルドで買ったコーヒーを自分の膝から下半身にこぼして火傷を負い,マクドナルドを訴えて1992年に米国ニューメキシコ州の裁判で$2.9Mを勝ち取ったという人です。これにちなんで一番バカバカしい裁判での勝訴に与えられるのがStella賞です。

  以下はStella賞の選考に挙がった候補と受賞判決です。

(1) テキサス州オースチンのKatherine Robertsonさんは家具店内で走り回っていた幼児に躓いてくるぶしを骨折。店主を訴えて78万ドルの賠償を勝訴。走り回っていた悪ガキはRobertsonさんの子供だったことから,敗訴した店側には大ショックの判決。

(2) ロスアンジェルスの19歳の少年 Carl Truman君が隣人のホンダアコードに腕を轢かれ,治療費として7万4000ドルを勝訴。Truman君はアコードのハブキャップを盗もうとしていたが,運手席に人がいるのに気付かなかった模様。

(3) ペンシルバニア州ブリストルのTerrence Dickson氏は盗みに入った家からガレージを通って出ようとしたとき,ガレージの自動ドアが故障で開かず,家に戻るドアは閉めたときにロックされてしまい,家人はバケーションで留守ということで,8日間ガレージに閉じ込められる羽目に。その間,ガレージにあったペプシとドッグフードで食いつないだが,その精神的苦痛に対して裁判を起こし,50万ドルを勝訴。

(4) アーカンソー州リトルロックのJerry Williams氏は隣家のビーグル犬に尻を噛まれ治療費として1万4500ドルを勝訴。犬は囲いのある庭で鎖に繋がれていた。Williams氏はBB弾で犬を繰り返し撃っており,犬は多少気が立っていたと考えられることから,判決の賠償は訴えより減額された。

(5) フィラデルフィアのAmber Carsonさんはレストランの床にこぼれていた飲み物で滑って尾てい骨を骨折。レストランを訴え11万3500ドルを勝訴。Carsonさんはボーイフレンドと口論しており,こぼれた飲み物は30秒前に彼女がボーイフレンドに投げつけたもの。

(6) デラウェア州クレイモントのKara Waltonさんはトイレの窓から床に落ちて前歯2本を折り,ナイトクラブのオーナーを訴え1万2000ドルを勝訴。3ドル50セントのカバーチャージを誤魔化すため,トイレの窓から外へ出ようとしたもの。

栄えあるStella Award受賞は,

(7) オクラホマシティーのMerv Grazinski氏で,同氏はWinnebago Motor Home(日本の小さなキャンピングカーではなく,バスサイズで,台所,食堂,ベッドなどを備える豪華版)を買い,帰り道に高速道路に乗り,クルーズコントロールを70マイルにセットして運転席を離れ,後ろの台所に行ってコーヒーを淹れている間に車は道路を逸れ,横転して大破。そんなことをしてはいけないとハンドブックに書いてないということでWinnebago社を訴え,175万ドルと新車を勝訴。その後,また同じような馬鹿が買うといけないので,Winnegago社はハンドブックを修正。

  Stella Awardsは米国の裁判だけが対象という制限がありますが,心配しなくても,日本でこれらの事例が勝訴する時代は当分来ないと思います。

  お楽しみ戴けましたでしょうか?

  では,良い,お年を。