企業買収時代の鉄道経営について考える



TAKA  2005年10月03日





 皆さん今晩はTAKAです。当フォーラムで「鉄道経営とプロ野球」について議論がされて、その中で先ほどセリーグのリーグ優勝した阪神タイガースと阪神電鉄の関係について色々な発言がされました。

「とも 阪神のビジネスモデルは次世代のスポーツビジネスモデルでもある
「KAZ 阪神についてちょっとだけ
「和寒 「阪神スタイル」から「野球論」を展開する
「エルアルコン 阪神タイガースの人気と電鉄の関係を見る
「TAKA 大手民鉄のプロ野球経営から「プロ野球のビジネスモデル」を考える
「TAKA 阪神タイガースから考える「鉄道企業とプロスポーツの関係」

 今回の優勝では2年前の星野監督時の優勝の時と比べて「盛り上がっていない」「経済効果は低い」等々色々と言われています。実際経済効果に関してはUFJ総研が2年前の優勝時今回の優勝時に経済効果についてのレポートを出していますが、同じ指標で全国で1455億円の経済効果が有ると試算している物の、2年前の4割強にしかならないと予測しています。
 しかし阪神電鉄にとっては、阪神タイガース優勝は関西経済全体の経済効果が低くても会社の業績には非常に影響が大きく、前回優勝時の176億円増収までは行かなくても増収は確実な情勢です。

 その様な阪神電鉄を巡る情勢の中で、有る程度織り込み済みの「阪神優勝」以上に驚きの事件が発生いたしました。M&Aコンサルティング(以下では通称の「村上ファンド」と称します)による阪神電鉄・阪神百貨店株の大量取得問題です。
 阪神電鉄・阪神百貨店株に対する村上ファンドによる大量保有報告書提出で、目的は「純投資」で保有量は「9/15段階で約15%保有・9/22段階で26.67%保有」と言うことが明らかになっています。
 村上ファンドと言えば「東京スタイル」「ニッポン放送」等の株を大量に保有し、東京スタイルに対しては、失敗した物のTOB(株式の公開買付)を仕掛け、ニッポン放送株に対しては市場で2割近い株を買い進め最終的にはニッポン放送買収に動いたライブドアに高値で売却して利益を上げている「株式運用で利益を上げるファンド」です。
 その様なファンドが阪神電鉄株の3割に迫る(阪神電鉄による阪神百貨店の100%子会社化・株式交換と転換社債の株式転換等の手法を駆使している)株を保有する、実質的な「他社による株式大量取得」は鉄道業界では近年殆ど発生していません。その様な意味でも今回の事態は「極めて異例」な事態であると言えます。
 此処で多少ですが、今回の村上ファンドによる阪神電鉄株の大量取得について考えて見たいと思います。

 (1)阪神電鉄は買収されるほど魅力的な会社なのか?

 先ずは「阪神はそれほど魅力的な会社なのか?」と言う問題です。村上ファンドは今回の株式大量取得に関する意図を「投資目的」と言う以外には明確に明らかにしていません。(只村上ファンドが簡単な「阪神電鉄株取得について」と言う発表はしていますが)もし目的が「純投資」であるならば、ファンドは利益を上げなければなりませんし、利益を上げられる投資先と言うことはそれだけの魅力がなければなりません。果たして阪神にはそれだけの魅力が有るのでしょうか?
 今まで良く「買収されやすい鉄道会社」として例が挙がるのは京成電鉄です。京成電鉄の場合は東京ディズニーランドを経営しているオリエンタルランドの株を22.88%保有しています。この株の評価額は約1486億円(今段階のオリエンタルランドの時価総額*3/31段階の京成持株比率)になり、京成の時価総額の50%の約945億円(京成の支配権を握るのに最低限必要な金額、普通此れでは買収できない)より、京成保有のオリエンタルランド株の価値が上回っている為に「オリエンタルランドの株を22.82%買うより京成の株を50%買ってオリエンタルランド株を間接支配した方が安い」と言う状況に有り、京成電鉄が「資産に対し評価が低い」と言う事になり「買収されやすい企業」と注目される事になります。
 ※オリエンタルランドもこの京成の抱える危険な状況に危機感を持っており、そのために京成の持ち株を狙った友好的TOBを実施してねじれ関係の解消を部分的に果たしています。
 同じ事が阪神電鉄に当てはまるか?と言うのは疑問です。少なくとも阪神は京成のように「買収する価値の有る大きな有価証券」は持っていません。連結決算で投資有価証券527億円と言うのは、京成のオリエンタルランド株保有に比べたら魅力的とはいえません。
 実際企業の規模・価値を阪神の営業収益2990億・時価総額(大量取得前の株価を約400円と想定)約1372億と京成の営業収益2202億円・時価総額1890億円と比べて見ても、京成のオリエンタルランド株の存在を考えれば、売上が京成の倍有るが、経常利益はそんなに変わらない(阪神162億・京成178億)阪神は極端に現在の価値として割安と言うわけでは有りません。
 ※連結の企業規模が大きくても利益が出ていないと言う事は、現在の価値として高い価値が無いと考えられる。
 その様に考えると阪神は経営上の指標を見る限り、現在においては「必ずしも短期的には投資・買収する魅力(コストパフォーマンス)の有る会社」とは言う事は厳しいと言う事が出来ます。
 ☆阪神の経営関係資料 「事業報告書」「株価・企業情報
 ☆京成の経営関係資料 「事業報告書」「株価・企業情報
 しかし阪神には「ホテルリッツカールトン・ハービスENT」等の西梅田開発や甲子園一帯の土地(阪神甲子園球場・ららぽーと甲子園)等の不動産の優良資産や阪神タイガースと言う全国区のブランドを持っています。特に阪神タイガースと言うブランドの価値については村上ファンドもプレスリリースの中で認めています。そこに価値を見出したと言うことが出来ると思います。
 同時に京成グループに比例して阪神グループは、企業グループ全体の連結売上が上がっていても経常利益が同じと言う事は、もっと改革して利益率を上げてあげれば利益が上げられ企業グループとしての価値を上げることが出来ると言えます。未だその点で潜在能力を出し切っていないと言う点で、割安感がありコストパフォーマンスが高いと考えたとも言えます。
 阪神電鉄自体は「阪神間の鉄道を主にしてコンパクトに纏められた事業」を営んでいると言う感じですが、裏返せば事業展開の成長性に乏しい企業グループとも言えます。それでも約9000万株取得すると言う事は取得単価を600円としても540億円投資しています。村上ファンドもそれだけの価値が有ると思いコストパフォーマンスが高いと考え投資したのでしょうから、その評価された価値のかなりの部分が、潜在的な価値である土地の価値と阪神タイガースの価値と企業改革による価値向上に有ると言うことになると言えます。

 (2)阪神電鉄と村上ファンドの関係はどうなるのか?

 この様な価値を認め村上ファンドは阪神電鉄株を大量に取得したと言えます。果たして阪神電鉄はこのまま村上ファンドに飲まれてしまうのでしょうか?又阪神電鉄にそれを防ぐ方策は有るのでしょうか?
 阪神電鉄自体は証券会社と財務アドバイザリー契約を結ぶ等の対応策を考えているようですし、企業防衛策として取締役数を制限する等の方策を講じています。しかし此れだけで十分とはいえません。今後本当に村上ファンドが50%以上の株所有を目指す場合、阪神電鉄としてはそれ以外の各種企業防衛策を講じなければなりません。
 その有力な方策は「ホワイトナイト」か「クラウンジュエリー」となるでしょう。しかし阪神の場合ホワイトナイトは現れるでしょうが結果的には誰かの支配下に入る事になってしまいますから、「ホワイトナイトが如何考えているか分からない」と言うことも有るので阪神電鉄本体としては好ましいことでは有りません。又クラウンジュエリーにしても阪神グループの最大のジュエリーは西梅田再開発・阪神タイガース(含む甲子園球場)です。西梅田再開発は未だ良いにしても、「企業買収に起因して阪神電鉄が阪神タイガースを売却」となると全国1000万人の阪神ファンが黙っていないでしょう。有る意味企業イメージは地に落ちます。ですから「究極の焦土作戦」と言えますが中々実施できる物では有りません。そうなると防衛策もそんなに無いと言えます。
 又村上ファンドとしても「簡単に株を買い進めない状況」に有ると言えます。利益確定売りで多少値下がりしたと言っても未だ株価は800円台で取得開始前の倍です。此処まで株価が上がってしまったらこのまま市場で買い進めるのは難しいですし、買収を進めた場合かなりの高値で買わなければなりません。又証券取引法第二十七条の二には「特定売買等による株券等の買付け等の後におけるその者の所有に係る株券等の株券等所有割合がその者の特別関係者の株券等所有割合と合計して三分の一を超えない場合における特定売買等による当該株券等の買付け」の場合公開買い付け(TOB)を義務付けていますので、今後村上ファンドが阪神電鉄株を買い進めるには「市場での高値買い」「高値での公開買付(TOB)」しか選択肢は無い事になります。
 その様な事及び「投資ファンドは投資家に対し高利回りを上げないと評価されない」と言う投資ファンドの特性を考えれば、村上ファンドは「グリーンメーラー」で有る可能性が高いと言えます。つまりライブドアのニッポン放送株買収時の解決と同じ様な結末が来ると予想されます。
 そうすると阪神電鉄は700億円近い金(村上ファンド保有株9000万株*800円で買取と仮定)を出して自社株を買い取るか、買い取ってくれるホワイトナイトを探さなければなりません。どちらにしても此れだけの株を暴落を招かずに市場で売り抜けるのは難しいと言えます。(もう数%の株は(大量保有報告書に影響しない範囲で)利益確定の為売っているかもしれないが・・・)投資ファンドで一番大切なのは「出口戦略」です。阪神株を経営権を握れない範囲で保有し続けても投資に対しての高利回りを保証し続ける事は困難です。そうなると阪神電鉄と村上ファンドの関係はおのずと限定されてくると考えます。

 (3)企業が投機の対象とされたり買収される事が好ましいのか?

 今回実質的に大手民鉄で初めて「株の買占め事件」が発生しました。戦前は株買占めによる買収は頻発していました。(東横電鉄による京浜電鉄や東京地下鉄道の買占め等)特に関東では今の大手民鉄体制は「株買占め等のM&A」により成立した体制であると言う事が出来ます。しかし戦後は今の大手民鉄体制が安定し「地方鉄道会社・地方バス会社の買収」等は多く発生しましたが、大手民鉄間での買収は発生しなく安定した時代がずっと過ぎてきました。その意味では今回の事件は「戦前の"強盗慶太"時代への逆戻り」と言うことになるのかもしれません。
 この様な「合従連衡」自体は普通の経済活動ですから、怪しい非合法的な事(インサイダー取引)等無ければ好ましい話です。逆に少子高齢化の時代を迎えた日本では幾ら関東圏・関西圏等の大都市でも需要が増えず減少する時代を迎えます。この様な時代を生き残っていく為にはスケールメリットが必要です。正しく鉄道経営にとっても和寒様が言われるように「数は力」であり、経営もその達成のために努力しなければ成りません
 そのために「合従連衡」を経営の選択肢として実行し、その手段としてTOB・持ち株会社設立等のM&A手法を行使する事は正しい事ですし、いまや積極的に行わなければ生き残れないと言えます。
 しかし鉄道会社は「公共交通機関」としての側面を持つものであり、特定少数の人間の利潤確保の為の投機の対象とされる事は、社会の利益になるのでしょうか?此れに関しては明確に「NO」と言わなければなりません。
 公共交通機関を担う鉄道会社が投資ファンドのグリーンメーラーの対象にされて、企業防衛に振り回されると言うのは公共交通機関の安全確保の側面から考えても好ましい事では有りません。買収攻勢に曝された鉄道会社が企業防衛に汲々とする状況でしっかりとした安全な鉄道運営を行う事が両立するでしょうか?企業が荒廃してしまえばそれも難しくなります。
 本来企業に取り「企業の収益確保」と「安全輸送の確保」は両立する物であり、収益が確保されるから安全輸送への投資が出来、同時に安全輸送が行われているから鉄道事業で収益を上げる事が出来るのです。しかしそれが買収攻勢に曝され企業存立がピンチに立ったらどうなるのでしょうか?企業は防衛に全力を尽くす事になりますがその手法にはクラウンジュエリーの様な「焦土作戦」も有る極めて厳しい防衛線になります。企業を焦土にしてまで守る戦いをしている状況にまで追い込まれた場合、果たしてその企業の生業の輸送事業の安全輸送が確保されるのでしょうか?此れには大きな疑問が有ると言わざる得ません。
 今回の阪神電鉄と村上ファンドの問題に関しても国土交通省鉄道局は「経営や運行に支障が出る場合には対応を考える」と、事態の行方を注視する方針との事ですが、今回も此れが(可能性は低いと言えるが)乱闘に近い企業争奪戦になってしまうような場合国交省が介入するような形での対策が必要ですし、将来的には企業経営戦略の為の友好的な「合従連衡」は積極的に進める事が出来つつ、市場の毒牙たる投機ファンドの乱暴かつ限度を超えた投機活動から最低限鉄道会社を守り、公共交通の確保と輸送の安全を確保できるような制度を考えて備えておかなければなりません。
 特に投資ファンドは「ルールの抜け穴を探す」事で、被買収企業や監督官庁を出し抜く事はお得意技です。ライブドアのニッポン放送買収時の時間外取引による大量株取得今回の村上ファンドの阪神電鉄株の転換社債の市場外取得等は証券取引法第二十七条の二の抜け道(実施時は合法)としか言い様が有りません。この様なずるがしこい人たちが相手なのですから、なるべく速めに対応策を立てておく必要が有るといえます。

 (4)企業存立の為には如何対応すれば良いのか?
   
 今回の阪神電鉄と村上ファンドの様な事件が発生し、遂に鉄道業界にもM&Aの嵐が吹き荒れる時代が来たとも言えます。未だ村上ファンドは株の大量取得をしている物の、既に阪神経営陣と接触し話し合いを持ち、その行動・要求も今の段階は特に何も無く未だ穏健で有ると言えます。(ライブドアに比べれば全然まし)
 しかし襲ってきたファンドが穏健だからと高を括っていてはいけないと言えます。役所のファンド規制策を期待する前に先ず自分たちが存立し存続できるような状況にならなければなりません。その努力は絶対に必要で有るといえます。
 その為には如何すれば良いか?この答えは株価時価総額等色々な意味での企業価値向上と言う一言に収斂されると思います。価値が高ければ買収等はしづらいのですから、有る意味当然ですが企業防衛に有効で有ると言えます。
 その方策の一つは「企業の利益向上」です。阪神は連結の利益率が高くない(実際比較のように京成より低い)と言う事から考えると、企業グループ内に「利益を上げる」と言う事に熱心でなかったと言う事が出来ます。それではこれからの世の中生き残って行く事ができません。同じ企業グループ内でも「寄りかかりあう親子関係」ではなく「強く外で一人でも生き残っていける子供の連合体」と言う体質にする事が必要で有るといえます。そうすれば連結決算で業績が反映され業績が上がれば、企業価値も上がり買収もしづらくなり結果的に企業も守る事が出来ます。鉄道企業グループにはこの様な「グループ内のもたれあい」と言う体質の強い企業グループが未だ残っているので、この様な改革は必要で有ると言えます。
 もう一つは積極的に「合従連衡」を行う事で企業自体の規模を大きくする事で買収されにくくすると同時に、地域的・企業運営的に相乗効果の望める企業グループ間で合従連衡を行えばスケールメリットや統合メリットを生かした収益拡大をする事が出来て企業価値を拡大する事が出来ます。
 以外と言えば以外ですが、民鉄協加盟の大手・中小民鉄のうち筆頭株主が他の民鉄であるという会社は意外に多く存在します。例えば小田急電鉄→相模鉄道(7.5%)・京成電鉄→新京成電鉄(34.1%)・阪神電鉄→山陽電鉄(17.3%)・阪急電鉄→神戸電鉄(27.7%)の4つの企業間関係は左の会社が右の会社の筆頭株主です。この中で阪神→山陽は神戸高速を介した直通運転で深く結ばれていますし、京成は新京成を連結に加えていますし近々に京成津田沼を介した直通運転が始まりますし、小田急と相鉄は神奈川県央地域で企業機盤が重なっていて共同事業の駅ビル等も運営している等、差は有る物のそれなりに深い関係で結ばれています。
 これらの企業グループ間が買収等の厳しい方法を取らなくても持ち株会社による統合等の方策を行い統合すれば、それなりの統合効果・買収抑止効果は望めると言う事が出来ます。
 例えば今回問題になっている阪神も山陽と企業統合していれば、単純に山陽の時価総額317億円分増えているのですからその分買収がしづらくなります。(阪神・山陽間が統合されれば阪神電鉄・阪神百貨店・山陽電鉄・山陽百貨店の上場4社が統合されればその分価値が増える事になります。しかし今回村上ファンドは阪神の百貨店上場廃止と100%子会社化を上手く利用しましたが・・・)
 この様な「関連性を持った合従連衡」が必要な事は既に時代の流れでしょう。既にのほほんとして現状維持で生きていける時代では有りません。既に黒船が到来しているのです。今回の阪神電鉄は有る意味象徴でしか有りません。村上ファンドは既に西武鉄道に触手を伸ばしていますし、西武鉄道は増資に際して海外を含めたファンドからの増資受け入れも検討しているとのことです。もしこの西武鉄道増資が成立すれば大手民鉄初の海外ファンドが大株主の会社が登場する事になります。
 西武鉄道の場合未だ今は「自分たちの判断」でファンドを選択し「友好的な関係」で行われていますが、他の鉄道会社では何時此れが敵対的な侵略になるか分かりません。この様な事が起きた時に後悔しても始まりません。今自主的に動けば未だ間に合います。今後50年生き残れる鉄道経営を目指し大胆な方策を打つべき時期に来ていると言えます。今やらねば鉄道会社に残された時間はそう多くないかもしれません・・・。





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