埼玉高速鉄道の経営に対する一考察

 

TAKA  2004年12月23日

 

 

 11月30日にテレビ東京で“日経スペシャル「ガイアの夜明け」”で〜赤字第三セクター再建への道〜と言う題で埼玉高速鉄道の事を放送しました。皆様見られましたでしょうか?
  『テレビ東京〜ガイアの夜明け〜11月30日放送内容』

 私は見ましたが、皆様は如何感じられたでしょうか? 1時間の番組でしかも一般の人(番組のメインターゲットはサラリーマンの向学心の高い層と思われます)が見る番組であるので、問題の内容をかなり深く知っている人たちには物足りない内容であったかもしれません。

 しかし“第三セクター企業の抱えている問題”については、この番組は一面の真理を衝いていると思います。埼玉高速鉄道は、第三セクター企業のかなりが普遍的に抱えている問題、つまり「官の資本と民のノウハウを有効に活用」と言う本来の意義とかけ離れた第三セクター経営の状況に着目した点では意義が有ると思います。

 埼玉高速鉄道に関しては、“ガイアの夜明け”でも触れていましたが、「需要予測の誤りによる収支の悪化」等の問題も「経営体質の問題」以外有るのもまた事実です。ただし需要予測問題に関しては資料が少ないですし、正直分からない点も多々有ります。

 そういう訳で、今回は「需要予測」に関する問題ではなく“ガイアの夜明け”を叩き台にして第三セクター鉄道の経営に対する問題について、埼玉高速鉄道の経営と第三セクターの経営のあり方について考えたいと思います。経営問題について取り上げるのに、民間から社長を呼んで改革中の埼玉高速鉄道は、ある意味で絶好の検討対象であると思います。

 

 

□埼玉高速鉄道の概要と状況

 先ずは色々な検討をする前に埼玉高速鉄道についてその概要と状況について見てみたいと思います。やはり埼玉高速鉄道のHPを見る事が概要を知るには一番早いと思います。
  『埼玉高速鉄道HPトップページ』

 表紙から「事業紹介」をクリックすると「ご挨拶・建設の歩み・事業紹介」にクリックできて内容は探せますが、正直言って会社の概要を見るには、多摩都市モノレール・千葉都市モノレールと比べると内容はいまひとつです。

 しかし全体のサイト的には訪問販売法に基づく通信販売やパスネットの販売や見学・撮影の案内等が前面に出ており、「なんとしても少しでも売上を上げる」と言う意気込みは他の第三セクター鉄道に比べて感じられるのは間違い有りません。

 次に埼玉高速鉄道の経営状況についてのホームページ等に載っている資料です。
  『平成14年度決算報告書』
  『平成15年度事業計画』
  『平成15年度決算概要』

 経営の数値的には非常に厳しい数字です。14年度に比べると15年度は改善されてきて15年度では「基礎的収支では黒字化を達成」と言う状況まで来ては居ます。しかし根本的に減価償却費と利払いまで負担するほど稼ぎ出せる状況にはありません。

 此れが問題です。平成15年度の鉄道事業営業収入が62.1億円に対して営業費が54.3億円ですが、減価償却費が56.6億円・営業外費用(主に利払い費)が35億円です。これらについては後ほど話をする事になりますが、此れでは経営は成り立ちません。

 又この様な状況から埼玉高速鉄道内でも「中期経営計画・経営改革プラン」というような経営改善について計画が作られていますし、埼玉県でも「埼玉高速鉄道検討委員会」を作って経営内容の改善について検討しています。
  『埼玉高速鉄道検討委員会HP』
  『検討委員会経営部会中間答申』
  『埼玉高速鉄道中期経営計画』
  『埼玉高速鉄道経営改革プラン』

 埼玉県では先回の知事選挙で上田知事がマニュフェストで掲げた7つのプロジェクトに対する再検討で作っていますが、検討委員会を作り経営の検討を進めると同時に第三セクター経営改革で名を上げた社長を埼玉高速鉄道の社長に呼ぶ等、埼玉高速の経営問題に真剣に取り組もうとしています。未だ成果が上がっているとはいえませんが、その方向性としては現状打破の一つの方策であると言えます。

 その第三セクターの経営についての問題については又後述致しますが、方向性に関しては置いておいても少なくともテレビで取り上げられるほど積極的改革である事は間違いありません。埼玉高速鉄道の現況を考える段階で経営状況と経営改革についても考える必要はあるといえます。

 

 

□実際に埼玉高速鉄道に試乗して見て(平成16年11月26日)

 テレビ東京の“ガイアの夜明け”の埼玉高速鉄道に関する予告を見た後、「そういえば埼玉高速鉄道って乗ったこと無いな……」という事に気付き、偶々11月26日千代田線沿線で夕方仕事がありその後フリーだったので、埼玉高速鉄道線の試乗に行ってきました。

 本来なら平日・土曜・休日の朝・昼・夜について見て見ないと正しい事は見えてこないのでしょうが、流石に其処まで時間は取れません。なので取りあえず時間が取れた平日の夕方だけですが現地を見てきました。その様な状況についてはご了承頂ければと思います。(誰か詳しい方がフォローして頂ければ幸いです)

(訪問経路)11月26日(金) 18:15頃溜池山王から1両目最前部に乗車→19:00頃浦和美園まで乗車→駅周辺を20分程度観察→東川口に移動し20分程度観察→19:40頃の列車に東川口〜駒込間乗車

※今回の訪問ではデジカメが無かったので、携帯電話のカメラで撮影をしました。そのため画像の質が何時もより悪い状況です。その点は予めご了承下さい。
※写真に一部第三者の顔がはっきり映っている物があるので、プライバシー保護の観点で修正しました。御見苦しい点が有るかと思いますが御了承下さい。

 

「1」18:15溜池山王→19:00頃浦和美園間

 先ず試乗するために仕事先(最寄駅は東京メトロ千駄木)から移動することにしました。さて、埼玉高速鉄道線に乗車しようとする場合、鉄道利用の場合は武蔵野線で東川口で乗換か南北線から直通して入るしかない、さて如何するか?と悩んだ上下記の4つのルートを考ました。
  (1)千駄木から徒歩10分強本駒込まで歩く
  (2)千駄木から千代田線で溜池山王で南北線に乗換
  (3)千駄木から千代田線で西日暮里へ出て山手線で駒込で南北線に乗換
  (4)(3)ルートで西日暮里から京浜東北線で王子で南北線に乗換
 の4ルートです。どれも一長一短なので悩んだ末「乗換が少なく楽」「南北線区間もより多く見れる」という点から遠回りですが(2)のルートを選択しました。

 ルート選択が出来た段階で早速千代田線に乗り溜池山王へ移動します。溜池山王は約1年半前までよく利用していました。南北線が全線開通後は銀座・南北・千代田各線がそんなに苦労無く乗り換えられる環境と、山王パークタワー等の開業で拠点駅と化しておりかなりの利用客が有ります。昔の地下鉄駅開業前の何処の駅からも約10分歩く「都心の交通の谷間」時代から考えると雲泥の差の状況です。南北線も市ヶ谷〜溜池山王間でよく利用しましたがこの区間は前からそれなりの利用が有る状況でした。

 この日も18時過ぎに溜池山王に到着し千代田線から南北線へ連絡通路を通り乗り換えます。18時という夕方のラッシュが始まった時間でもありかなりの利用客があり、溜池山王の南北線ホームもかなりに利用客が有ります。

 『溜池山王駅ホーム状況(18:15頃)』
 

 1〜2分したら浦和美園行きの列車が到着しました。車両は埼玉高速の車両です。個人的には南北線で運行している車両の中で一番座席がソフトで座りやすく(メトロ・東急車は硬い)好きですが、この日はそんな状況ではありません。列車は溜池山王到着時点で座席はすでに埋まり立ち客も居る状況です。溜池山王でホームに待っている乗客が乗ると吊革の3分の1が埋まるぐらいの混雑になります。

 その後永田町・四ツ谷・市ヶ谷・飯田橋と南北線の都心各駅に停車するたびに乗客は増えていきます。飯田橋発車時点では吊革のかなりが埋まる状況まで混雑しました(後ろの方は良く見渡せない位です)。後楽園・東大前・本駒込では多少降車があり、山手線乗換駅の駒込では降車・乗車とも有り最終的には飯田橋発車時点よりほんの少し空くような状況になります。その様な状況からこの列車(1両目最前部)の最混雑区間は飯田橋〜後楽園間になりました。

 『永田町発車時点車内(18:17頃)』『飯田橋発車時点車内(18:20頃)』『駒込発車時点車内(18:25頃)』
     

 駒込で多少乗客が増えたものの、山手線接続駅の割には乗降客とも意外に多くありませんでした。これは「駒込自体に地域としてのポテンシャルが低く利用客が少ない」「駒込は池袋・新宿への乗換駅としては距離があり不便」「南北線北部地域・埼玉高速線区間〜池袋・新宿方面は埼京線経由で京浜東北線や武蔵野線からバス利用」という状況を示しているのかもしれません。その後王子につくと「あれれ?」半分に近い乗客が下車してしまいます。乗客もあるものの、全体としては吊革が多少埋まる程度まで乗客が減ってしまいます。埼玉高速線に入る前に都心より最後の乗換駅の王子で状況はいきなり暗くなってきました。

 『王子発車時点車内(18:30頃)』『赤羽岩淵発車時点車内(18:35頃)』
   

 王子でがくんと乗客は減り、王子神谷・志茂・赤羽岩淵での降車もそんなに多くはありません。この地域は北本通り(荒川を越えれば国道 122号)の下を走る区間ですが、京浜東北線と隅田川・荒川に挟まれた狭い地域しか駅勢圏が存在しません。バスも王子・赤羽を基点に北本通り上を走っているのでバスに流れている乗客も多いのかもしれません。埼玉高速鉄道の接続駅の赤羽岩淵、王子時点よりやや少ない程度の乗客が乗車して埼玉高速鉄道線に入ります。

 赤羽岩淵から埼玉高速線に入るものの、全列車が赤羽岩淵をまたいで直通運転する為に、乗務員は交代する以外に何かが特段に変わるわけではありません。赤羽岩淵の先は埼玉県に入りますが、此処から先は東川口での武蔵野線接続を除いて他線接続が無い為もあり、降車ばかりの状況です。そのためどんどん車内が寂しくなっていき、空席も目立っていきます。

 『鳩ヶ谷発車時点車内(18:45頃)』『東川口到着時点車内(18:55頃)』『東川口駅降車状況(18:55頃)』
     

 埼玉高速鉄道線各駅共、降車が乗車より遥かに多いのですが、強いて言えば鳩ヶ谷・東川口が比較的利用客が多く、新井宿・戸塚安行が比較的利用客が少ないという状況です。乗客の大部分は東川口までに降りてしまい、東川口〜浦和美園間では乗客が殆ど居ない“空車”状況(1両当たり数名の利用客)になってしまいます。

 此れはある意味で当然かもしれません。東川口発車後地上に出て浦和美園駅に到着したのですが、実を言うと周りを見ていても地上に出た事に気付きません。夜だからという事も有るのですが、周りに民家も無く真っ暗でトンネルと地上で明るさが変わらないのです……。こんな状況では1両数名の乗降客になるのも当然でしょう。

 

「2」浦和美園駅見学→東川口駅見学→19:40頃東川口〜駒込間乗車

 浦和美園駅到着後、改札口で折り返しても仕方ないのでタバコを一服しながら駅の周りを見てみようと思い一度降りて見ました。車窓からある程度は想像していましたが、実際降りて見たら正直言って「駅は野中の一軒屋」状況で、駅とロータリーと国道 463号バイパス等の道路以外何もありませんし、遠くに照明のついていない埼玉スタジアムが暗い中ぼんやり見えるだけですし、僅かな降車客が西側に降りて行った以外誰も居ません。

 私は東口に下りて見てロータリーを一周してみましたが、タクシーもバスも乗用車も居ません。バスは浦和・岩槻方面等に走っていますが1時間に1本程度の本数です。ロータリーには都市基盤整備公団のウイングシティの宣伝用の施設らしきものが有りますが、それも「いかにも寂れている」と言う寂しい状況です。駅前にコンビニ一件無い所も久しぶりに見ました。12月11日に開業した小田急多摩線の「はるひ野駅」といい勝負です。住宅は「はるひ野駅」のほうが全然有りますが……。
  『彩の国ウイングシティ(浦和東部・岩槻南部地域)HP』>

 コンビニ一件も無い状況なので、浦和美園駅見学を早々に諦め(周りが暗すぎてストロボの無い携帯電話カメラでは写真が撮れなかったのも有るが)、取りあえず武蔵野線の乗換駅の東川口に一駅乗車して移動しました。

 流石に東川口は武蔵野線との乗換駅で武蔵野線の駅がその前から出来ていた事もあり、利用客や人出も多く居酒屋等の店もあり浦和美園とは天と地の差です。ホームから1フロア上のコンコースに上がり改札を出た後、エスカレーターで地上を目指します。地上に出るとすぐ其処が武蔵野線東川口駅の改札口であり、駅前ロータリーも埼玉高速鉄道の入口の反対側にあり浦和学院のスクールバスや路線バスが入ってきており、東京近郊の郊外駅の標準的な賑わいと駅前整備はされている感じです。

 喉も渇いたので武蔵野線コンコース前のコンビニでジュースを買い、飲みながら武蔵野線改札口と埼玉高速鉄道の地下出入口が見渡せる場所で状況を見て見ました。

 『浦和美園駅改札口(19:00頃)』『東川口駅出口状況(19:20頃)』『上り東川口駅発車時点車内(19:40頃)』
     

 東川口では、多少は武蔵野線〜埼玉高速鉄道間の乗換が存在します。メインの流れは埼玉高速鉄道→武蔵野線の流れで、5〜8分おき位に数名〜20名程度の流れがやってきます。

 前述の状況から推測しつつ単純計算してみると、東川口で1両20名降車として1本当たり 120名前後の客が降車することになりますが、その5〜15%程度の客が埼玉高速鉄道→武蔵野線に乗り換えています。運賃が安い京浜東北線南浦和乗換でなく運賃が高い埼玉高速線を利用して武蔵野線に乗り換える人がそれなりに存在するということを把握できたのは収穫でした。

 それだけの乗換客が居ると言うことは多分埼玉高速線沿線から武蔵野線への乗換客だけとは思えません。となるとその乗換客の幾ばくかは南北線王子以南から来ている事になります。その乗客が王子・南浦和乗換でなく何故埼玉高速線経由東川口乗換を選択したのか興味が有ります。只乗換の回数が少ないからでしょうか?

 さて、家に帰るのに、東川口から駒込まで埼玉高速線〜南北線を利用しました。こちらはラッシュの逆方向だけあり、致し方無いとは言えますが東川口時点でも1両10名程度の閑古鳥状況でした。

 埼玉高速線から南北線に入ってもどの駅も1両当たり数名の乗降が有るだけです(王子だけは多少乗車が多かったですが)。そのような状況でラッシュの逆方向は完全に空気輸送の状況で駒込に達し、駒込で山手線に乗換て池袋へ向かい家に帰りました。

 しかしその時感じましたが、東川口周辺から考えると埼玉高速線〜南北線で駒込乗換で池袋・新宿はかなり遠回りであるという事です。今回は「埼玉高速鉄道に乗ること」に意義が有るので選択したルートですが、此れが仕事等で来ていればこのルートは選択せず、武蔵浦和乗換埼京線を選んでいたでしょう。この様な南北線の都心アクセスの悪さも埼玉高速線苦戦の原因であるのではないかとは感じました。

 

 

□埼玉高速鉄道の現状を基に現状と改善策を分析する(ミクロ面の経営問題)

 実際に埼玉高速鉄道に乗車してきて、その上“ガイアの夜明け”を見て「何故埼玉高速鉄道の経営は苦しいか?」という問題の一端は見えたような気がします。一言でいえば「乗客が少ない」で終わってしまいますが、確かに此れが大きなウエイトを占めている事も間違いありません。実際平日夕方ラッシュ時に埼玉高速鉄道線を試乗して来ましたが、南北線・埼玉高速鉄道線は輸送力的には1編成当たり20m6両編成であり、東京の地下鉄や民鉄の中では比較的小さい輸送力しか保有していません。

 それなのに南北線王子以北は利用客減少が顕著であり、上記試乗記の写真を見れば明らかですが埼玉高速鉄道線内では赤羽岩淵でも立客がチラホラの状況です(一両目最前部という事もありますが)。此れでは大量輸送機関たる地下鉄の経営が成り立たないのもある意味当然です。しかし何も出来ないのでしょうか? その点に関して多少考えて見たいと思います。

 実を言えば今正しく「埼玉高速鉄道検討委員会経営部会」でこれらが検討されていますし、中間報告でもこれらの内容に関してかなり詳しく触れられています。これらと重複する点も多々出て来るとは思いますが、あくまで私見として述べたいと思います(先に中間報告の方に目を通して頂ければより分かりやすいと思います)。

 

☆何故埼玉高速鉄道の利用客は少ないのであろうか?

 需要予測との誤差等の問題は今回は取りあえず措いておき、先ずは経営が苦しい事象の根本でも有る“何故埼玉高速鉄道の利用客が少ないのか?”という問題について考えたいと思います。私は下記の3点が問題として取り上げられると思います。

  ・沿線の開発・人口集積が進んでいない。→ その象徴が浦和美園の駅前である。
  ・対都心とアクセスが南北線では不便である。→ 大手町・新宿等に行くのに王子・駒込乗換は不便でマイナスである。
  ・関東圏の鉄道で有数の高運賃である。→ その上赤羽岩淵を境に初乗りが2回掛かる現行運賃では、バス+京浜東北線に勝てない?

 上記の3点ですが、埼玉高速鉄道にとって「外部的要素」が強い側面もありますが、大きく外れていないと考えます。実際に私のイメージ的にも川口東部・浦和南東部地域等は人口集積が低く空き地の多い地域と言うイメージが強いですし、国道 122号や首都高川口線をよく通りますが、鳩ヶ谷より先は武蔵野線沿線の東浦和・東川口周辺を除き畑・空き地が増え人口が少ないイメージが強いですし、それは新井宿・戸塚安行の利用客が少ない事からも明らかで有ると思います。

 対都心アクセスに関していえば、私も上記試乗時に浦和美園〜池袋間の経路に迷いました。確かに駒込乗換では遠回りです。

 私の知り合いで川口市東部地域(国道 122号より東側で最寄駅は川口元郷)〜成城学園前を通勤している人が居ます。その人の通勤経路が自宅(バス)→川口駅(京浜東北線)→赤羽(埼京線)→新宿(小田急線)成城学園前となっています。ある時
「何で自宅から最寄の川口元郷利用でなく川口までバスで出るの? だから飲む度に何時も終バスに乗り遅れてタクシー利用になるのでは?」
 と聞いて見ましたが、
「バスの定期を持っていれば買物で川口に出るのも便利だし、川口元郷まで歩くよりバスで川口駅に出る方が早い。そのうえ駒込乗換より埼京線利用の方が混むけれども早いし定期代も安い。家の周りでは当然の選択だよ。」
 と言っていました。此れは都心アクセスの軸線がずれているというだけでなく、運賃問題を含め埼玉高速線が利用されないかを端的に示しています。

 それに運賃比較に関しては、中間報告でも鳩ヶ谷市内〜東京都内南北線沿線(報告内では東十条と四ツ谷)の移動につきバス+JRと埼玉高速鉄道+メトロ南北線の比較が出ていますが、バスの方が運賃が安く徒歩区間が短いという状況を示しています。この様な状況はもっとたくさんあるでしょうし、都心目的地が南北線沿線から外れたら(この地域は非常に多い)、埼玉高速鉄道+南北線の劣勢はより明らかになるでしょう。

 此れではもし開発が進んでいて沿線人口が多くても住民にそっぽを向かれて利用客が増えないのは明らかです。ましてバスの接続先が都心東部直結の京浜東北線ですし、赤羽乗換埼京線で副都心にも早く便利に出れます。この様な状況では埼玉高速鉄道の劣勢は当然です。

 

☆埼玉高速鉄道の利用客拡大策は有るのか?

 上記のような原因から埼玉高速鉄道の利用客は当初より伸びてはいるものの、未だ約60,000人/日の利用客しかありません。此れは免許申請時の需要予測の約4分の1、運賃申請時の2分の1の利用客です。此れでは有る意味赤字になっても致し方有りません。経営努力で改善するには大きすぎる予測と実績の乖離数値です。

 具体的にいえば、運賃認可時の利用客数まで増やすには、利用客が倍増近くならなければなりません。収入的に見れば、4,226百万円の経常赤字を消す為には、単純に考えて今のままの営業費用で毎日1,158万円(大体1日当たりの経常赤字額)の増収を図らなければなりません。一人平均300円の運賃を落としてくれるとして(赤羽岩淵〜鳩ヶ谷間の運賃に当たる)、38,600人の利用客増が達成されなければなりません。此れは今の利用客から約65%の乗客増を達成しなければ実現できません。

 現実的に平成13年度から平成15年度に掛けて利用客では47,000人→59,200人(約25%増)と増えていますが、其処からまた大幅に乗客を増やさなければならないというのはかなり困難を伴うと思います。乗客増による収入増だけで経営改善を図るのは非常に困難で有ると思います。

 その様な状況から考えて、今の増加ペースに加えて革命的な利用客増を図るのは非常に困難でしょう。対都心アクセスの立地という構造的な問題から、国際興業バスで西川口・川口経由京浜東北線で荒川を渡っている乗客を国道 122号のラインで埼玉高速に乗り換えさせて荒川を渡らせるという事は困難です。簡単に転移する人たちはすでに転移しているでしょう。

 上記中間報告14〜15ページに「埼玉高速鉄道沿線の人々の各地域への移動時に埼玉高速鉄道を利用するかその他の交通機関を利用するか」の調査が出ていますが、埼玉高速鉄道利用客の比率が50%を超えるのは南北線沿線に向かう乗客だけです。それ以外の人々は国際興業バス→京浜東北線・武蔵野線→京浜東北線・武蔵野線→埼京線を利用していると推測されます。

 これらの人々を埼玉高速鉄道線に移らせるのは非常に難しいといえます。その理由は前に指摘の通り都心アクセスポイントが南北線・王子・駒込というあまり便利でない点にあるということです。このデメリットの強さを超えるメリットを示すには非常に難しいでしょう。国際興業バスの埼玉高速鉄道各駅への連絡強化等の方策も限定的効果を示すでしょうが、抜本的効果は期待できません。

 確かに高運賃ですが、運賃の値下げも「値下げ減収額≦利用増による増収額」にならないと、単純に利用客が増えても経営的には全く意味がありません。減収になる分逆効果です。実際上記中間報告でも20ページに“サービス水準の感度分析”が出ていますが、其処での結論は「10%値下げして増える乗客は 4.5%」と出ています。此れでは意味がありません。

 このように埼玉高速鉄道の利用客拡大に関して、一筋縄ではいかないことは間違いありません。今や埼玉高速鉄道も杉野社長の下経営改革の一環で色々な方策を行っているみたいですが、企画切符等の小手先策でもその努力は評価しますが現実的には限界がありますし、抜本的方策はなかなかないのが実情であるといえます。

 あとは浦和美園駅前のような開発余地のある所の開発促進を行い、地道に沿線人口を増やして利用客を増やす方策や、埼玉サッカースタジアムという集客力の有る施設を活性化させ乗客を増やす方策を打つしかないといえます。此れは中間報告でも示しているようにある程度限定的であれども有効な方策であるといえます。

 そういう点ではウイングシティの開発促進が一番有効かもしれません。今の現況は野原という状況ですが道路環境で言えば埼玉県を東西につなぐ国道 463号バイパスに隣接していますし、東北道浦和ICが近接しています。そのうえ南に少し下れば首都高速と外環の川口ジャンクションに行けますので道路環境という面で見れば最高の立地であるといえます。それに東京都内へは埼玉高速鉄道で連絡しています。そういう意味では浦和御園は北関東地域を背景に抱えた交通拠点として魅力のsる地域です。今の空き地沢山の状況と交通の便の良い状況を逆に使い、対都心のP&R・K&Rの拠点として使う方策もあるといえます。ただし、埼玉スタジアムの利用客が車で来てしまうと道路も混雑しますし、埼玉高速鉄道も乗客減になるので、それは防止する用にするべきですが。

 浦和美園(ウイングシティ)は開発の余地は十分にあると思います。まして埼玉スタジアム2002という核も存在していますので、住宅地だけでなく、ショッピングセンター等もっと集客性の高い地域活性を強められる開発をすることも十分可能であると考えます。そうなれば埼玉高速鉄道にとっても大きなプラスです。しかし今の野原の現況では即効性のある方策ではありません。埼玉高速鉄道改善の中長期的方策ということになります。

 また上記のP&R・K&Rの方策も効果は限定的の可能性は高いです。根本的にはより集客性の多い方策としての開発が必要であることは間違いありません。

 

 

☆ではどの様にして埼玉高速鉄道の経営を改善すべきなのか?

 埼玉高速鉄道の経営に関しては当然今のままでいい筈がありません。何とか改善策を取らなければなりません。しかし乗客増で収入増を図り収支を改善するのは上記のように非常に難しいといえます。では如何するべきなのか? 此れには経営改善に対して「収入増」と車の両輪になる「原価低減」に努力しなければなりません。

 これも又非常に困難が伴うことは又事実です。“ガイアの夜明け”でも出ていますが、埼玉高速鉄道への東京メトロからの転籍者に対する給与引き下げは挫折しました。此れに関しては色々な意見も有りますが、色々な利害が絡み合った中で原価低減は上手く行かないという事です。

 運行本数にも無駄が多いのもまた事実です。試乗記でも書いたとおり、南北線王子以北では定員の半分強しか利用客が居ません。それもどんどん漸減的に減っていき最後には空気輸送の状況です。

 概要のところで示した「埼玉高速鉄道改革プラン」でも7ページに「効率的なダイヤに改正」と言う題目で書かれていますが、利用率から見て朝ラッシュ時上り89%・夕ラッシュ時下り27.4%以外は1.0〜6.8%の利用率しかありません。それに対して運行本数が多すぎます。
  『南北線・埼玉高速線朝ダイヤ』
  『南北線・埼玉高速線昼間ダイヤ』
  『南北線・埼玉高速線夕ダイヤ』
  『南北線・埼玉高速線配線図』
 ※上記・下記のダイヤ・配線資料に関して「大都市圏鉄道ダイヤ研究室」からリンクしました。このデータを基に議論致します。

 このダイヤグラムを見れば明らかですが、全時間共運行本数が多すぎると言えます。朝ラッシュ時は未だ良いものの、それ以外の時間は本数が多すぎます。一部は折り返し線の有る鳩ヶ谷で折り返しているものの、鳩ヶ谷まで昼間で10本/時夕ラッシュ時に12本/時の列車を運行するだけの需要が有るとは思えません。せめてその半分で十分でしょう。

 現実的に考えれば埼玉高速線内で、朝ラッシュ時こそ今のままで良いでしょうが昼間は半分の12分毎夕方も半分の10分毎で十分に思います。埼玉高速鉄道にとって多すぎる分は営団線内で利用客数に段差の出来る王子以北で折返しが配線的に可能な王子神谷・赤羽岩淵で折り返してもらいましょう。今のままではあまりに多すぎます。

 同じような境遇(東京メトロに直通・東京メトロが大株主)に有る東葉高速鉄道でも、はるかに輸送量は多い(年間4,169万人・1日当たり約114千人)ものの、運転本数的には朝ラッシュは12本/時と同等ですが、昼間 4本/時・夕ラッシュ 8本/時とそれ以外の時間はずっと少ない本数です。

  『東西線・東葉高速線朝ダイヤ』
  『東西線・東葉高速線昼間ダイヤ』
  『東西線・東葉高速線夕ダイヤ』
  『東葉高速鉄道ホームページ(決算内容等も出ています)』

 このような比較をすれば、明らかに埼玉高速鉄道の運行本数の過剰ぶりは明らかです。西船橋で大きく利用客の段差が出来る東西線・東葉高速線と、利用客の段差ポイントでの分断ではなく、単純に県境の赤羽岩淵(会社境でもある)で分断した南北線・埼玉高速鉄道線との運転技術上の設定可能条件の差が有ることは明らかですが、それでも東京メトロが埼玉高速鉄道に送り込む本数が多すぎます。

 埼玉高速鉄道の場合先ずは減便でコストを落とす事が必然であると考えます。興味深い事に前述の中間報告の18ページに「埼玉高速鉄道のサービス水準に対する認識」と言う調査で 4分毎運転の朝ラッシュ時に利用者の“運転間隔に対する認識”は利用客であっても“運転間隔は10分”と認識している人が2割以上居ます。また殆どの人が運転間隔は 5〜10分と認識しています。このような状況は昼間・夕方にも当てはまる可能性は高いといえます。そうであるならば、半減まではかなりショッキングですが、減便をしても影響は少ないといえます。

 かなり厳しい話ですが、先ず東京メトロに協力を頂き社員の給与水準の改定・中期的には若返りを図る事でコストダウンを図り、同時に減便での列車本数の適正化を図り運行経費を減少させ総合的な営業経費を減らし、同時に少しずつでも増収を図り増収と経費削減を車の両輪にして経営改善を図る必要が有ると感じます。

 

 

□"第三セクター経営の甘さ"埼玉高速鉄道経営困難の原因の一つでは無いか?(マクロ面の経営問題)

 確かに前述のように埼玉高速鉄道の経営問題に関しては、「現実的に利用客が少ない」「沿線開発が進んでいない」「需要予測が現実と乖離している」等の問題もあり、それが原因で経営不振に陥っているのも事実です。これらは北総・東葉・多摩モノ・千葉モノ等の第三セクター新規開業鉄道の総じて同じように抱えている問題です。此れに関して埼玉高速鉄道も例外ではありません。

 しかし問題は此れだけなのでしょうか? 私は此れだけではないと思います。それは“第三セクター経営”そのものに関する姿勢の問題です。

今回の番組を見て一番感じたのは“第三セクターは民間に比べて甘い”という一点だと思います。此れは埼玉高速鉄道に限らず他の第三セクターでもいえることです。シビアな側面が無いからこそ上手く東京メトロに利益を吸い上げられてしまう現況が引き起こしているとも言えます。

 これは今まで取り上げてきた多摩モノレール・千葉モノレールや今回の埼玉高速鉄道だけの問題ではなく、日本に存在している第三セクターの多くが抱えている問題だと思います。

 上記3社は典型例ですが、幾ら「基礎収支が黒字でも金利と減価償却に金が持って行かれ赤字になる」という状況でも、経常損失が続いていると言う現実では普通の民間企業では大改革しないと生きていけません。それこそ出血多量で死亡寸前の末期患者という状況です。

 営利追求の事業ではなく、公益性も尊重しなければならないという第三セクターであれども、最低限その運営費ぐらいは稼げるようでなければなりませんし、運営に関しては民間会社と同じようなシビアさがなければなりません。

 確かに“ガイアの夜明け”の中で埼玉高速鉄道の杉野社長の改革プラン発表時の社員を前にして「 100円稼ぐのに 221円も掛かるのではやめた方がいい」というコメントがありましたが、民間企業であれば当然の話です。ただし、社会資本として存在しインフラとしての公共性も考えなければならない「鉄道」と言う特殊条件から、簡単にやめるわけにはいきません。

 民間企業なら当然「倒産か?」という危機感を大きく抱く状況にありつつ、実際に危機感が薄く赤字が増えていくという経営のあり方が問題で、このような状況を現出させたのではないか?と感じます。

 そのような点から考えて、埼玉高速鉄道には第三セクターにありがちな経営の甘さは十二分にあり、それが経営の悪化に拍車を掛けているといえます。特に色々な事情があったにしても、転籍組の極めて優遇された状況(転籍組の平均給与が 700万円で定年が63歳)というのは、幾ら会社運営の根幹の技術を持つ人々であっても相場から高すぎます。

 第三セクターの“親方日の丸”的経営の実情が丸出しだと思います。第三セクターは経営不振に対する出資者責任が問われた段階で、その処理に血税が投入されるという現実がある以上、民間会社のように出資者の自己責任で失敗の責任を取る訳でなく、それが国民の血税にも降りかかってくる分、第三セクターには甘えがあるべきではありませんし許されるものでもありません。

 需要予測と実需の乖離と言う根本の傷が深いのでその影に隠れてしまいますが、鉄道に限らず第三セクター問題の根本には、“第三セクターの経営の甘さ”というものが存在すると思います。此処を改革しないと上手くは行かないでしょう。

 良く考えれば、十分儲かる事業であれば公益性が高くても第三セクターにする必要はないのです。儲かる事業ならば民間がすぐ進出してきます。その場合、官は“著しく公共性が損なわれないようにコントロール”すれば良いのです。

 しかし採算的に問題があるからこそ、官が金を出して運営するが民のノウハウも導入して効率運営する事で税金投入を減らすと言う第三セクターのスキームを使うのでしょう。そのような厳しい状況で、ぬるま湯経営で無駄の多い経営を行っていれば破綻するのは当然です。それを公共事業体が真剣に考えていないという事が第、三セクター経営破たんの現況でしょう。

 埼玉高速鉄道もそのような状況下で今まで運営が続いており、此れだけ経営状況が悪化したのでしょう。タラ・レバですがもう少し低コストで経営できていれば状況は此処まで悪くなっていなかったと思います。

 その点は杉野社長の経営改革は正しいと思います。言い方は激しくても内容は特に極端な事を言っている訳ではありません。ぬるま湯の改革にはショック療法が有効です。

 私は個人的には東京メトロ(当時は営団地下鉄)に上手く利用されて高コスト・高給を押し付けられたと言えます。元々営団から転籍してきたと言う“半官半民”という「ぬるま湯」に浸かっていたよころで、第三セクターへ移ってきたのでは甘いままで居ると感じます。

 番組内で転籍組社員のインタビューも出ていましたが、正直「甘い。民間では通じない」という感じは抱きました。杉野社長の“檄”とSR転籍社員や自治体関係者のコメントを比較すると、民間の目で見れば杉野社長のコメントの方が「社会一般に則している」と言う感じはしました。

 ただし、結果論ですが杉野社長は先ず最初に、もう少し埼玉高速から搾取していく東京メトロが埼玉高速の運営のどれだけ影響を与えているかを慎重に測るべきだったかもしれません。しなの鉄道の時のようにキヨスクの自販機契約を破棄して増収を図るという方策を、運転業務に深く関与している東京メトロに同じく使おうとした点に無理があったと考えます。埼玉高速は東京メトロに運転業務の依存度が高いのですからそれは考えるべきだったと思います。しかし上述のように東京メトロとの関係が埼玉高速鉄道の収支改善には重要になってきます。そのバランスを上手く図りつつ経営改革を行う必要が有ると考えます。

 埼玉高速の場合、辣腕の杉野社長がショック療法で改革を進めている分、特に社員の意識改革は進んでいると感じます。その点は「メトロ出向社員の意識改革が難しい」「リストラは一歩後退」「遅きに失した」「まだ直接結果は出ていない」という事もあり、徐々にというスピードも有りますが、この改革・意識が継続するのならば今後の埼玉高速鉄道の経営にとり大きいと思います。

 実際千葉モノ・多摩モノ・SRの3社に乗りましたが、自動改札普及の中で駅員が居る有人改札で利用客に駅員が挨拶していたのは埼玉高速鉄道だけでした。此れは民間私鉄でもなかなか見られません。

 このようなことは極めて微細なものですが、杉野社長の意識改革に“効果有り”と評価する事はできると思います。杉野社長が編み出した埼玉スタジアムイベント時のSR屋台村等の発想もユニークですし、増収と意識改革の両面に有効でしょう。若手がバスツアー等を企画する等の積極性が出てきてそれが増収に結びつくというのは正しく改革の成果です。

 テレビカメラの前での世辞かもしれませんが、SR若手社員が「現場には株式会社だから第三セクターという意識は無い」という発言がありました。当然ですがこの感覚は必要であると思います。逆にいえば、このような感覚が無かったことが第三セクター経営悪化の要因の一つであると考えます。

 

 

□しかし第三セクター経営に大切なのは“真の市民の公益性”を考えることでは?

 “ガイアの夜明け”のエンディングで「半官半民の第三セクター。公共性の有る事業で利益を上げる。その為に官の信用と民のノウハウを利用する発想で作られました。ところが第三セクターは市民の暮らしが便利になると言う公共性を盾に税金をジャブジャブと注ぎ込んできました。幾ら便利になると言っても税金を3兆円(この数字の出所は番組では明らかにされず)も使われては逆に市民の公益性が損なわれているのではないでしょうか? 市民にとっての本当の公益性とは何か? そのことを真剣に考え少しでも利益を出していく事が本当の第三セクターの役割」ということを言っています(長いですが引用しました。ビデオから聞きながら書いたので多少の書き間違い等はあるかもしれません)。

 このエンディングで「3兆円」と言う数字は何処から出てきたのかはわかりません。しかし第三セクターの意味を考えたときこの命題は重要な意味を持つと思います。

 何故公営や民営でなく第三セクターを作ったか?という事を考えると「公共性の有る事業で利益を上げつつ公共性を担保する」という事の重さを考えるべきであると思います。

 第三セクター鉄道に限らず、日本の第三セクターはその大部分がこの命題を問い返す必要があると思います。実際第三セクター事業を作り出すときにこの様な「公共性と採算性のバランス」を真剣に考えたのでしょうか?

 私は極めて疑問に思う事があります。“民業圧迫”ということもありますが、それ以上に官の予算の限界を曖昧な立場の第三セクターに転与する、微妙な事業の飛ばしがあったのではないか、と。

 民力を有効に活用する事は素晴らしい事です。公共性の高いものであっても上手く民間を活用して、最低限の公共投資しかせず公共性を担保する事ができるのであれば、それは素晴らしいことです。しかし一歩間違うと管と民の狭間に成立性の危ない事業が封じ込まれてしまうこともありえます。そのようなことはあるべきではありませんが、現実としては存在します。それが問題なのです。

 実際的には「公共性と採算性のバランス」というのはなかなか難しいものがあるといえます。公共性と採算性は“やじろべい”のようなものです。どちらかに傾いてもバランスを失い無理が出てきます。公共性を優先すれば運営主体の採算が悪化する(高運賃には出来ないから)事が多分にありますし、採算性を重視すれば高運賃を設定し利用客に負担を掛け最終的に公共性を損ねる事になりかねません。言うは易しですが実際にスキームを組むときにはこのバランスを取ることが非常に難しいと思います。

 鉄道系の第三セクターの場合、残念ながら現実にそのような事例が存在します。私が今まで“交通総合フォーラム”で取り上げた埼玉高速鉄道・多摩都市モノレール・千葉都市モノレールの3社も、残念ながらその象徴的な例と言えるでしょう。

 埼玉高速鉄道は川口東部・鳩ヶ谷等の国道 122号沿いの鉄道空白地帯に高速交通機関をもたらしたという公共性は否定できません。多摩モノレールも多摩地域南北交通の改善に大きな公共性を発揮しています。しかし運営は半官半民の再三セクターに委ねられています。そういう意味では「公共性は高いが少しでも利益を出していく事で社会の投資負担を減らす」事で効率的な公共性と採算性の両立が社会的に求められています(千葉モノの場合は特に千葉〜県庁前間の公共性があるかどうか疑問ですが)。

 しかしこれらの例はどれもが事業会社の経営不振に悩まされています。つまりこれらの鉄道の開業で公共性は充実されたものの採算性は確保されていない状況にあります。この原因は「採算性確保に程遠い利用客しかいない」「非効率的経営をしている」等の理由はあるにしても、結果を見る限り、第三セクターにして採算性を追求できるようにした意味はなくなります。

 初期投資は補助を減らして運営会社に投資の一部を肩代わりさせたという点では第三セクター化の意味は有りますが、現実として運営が成立せず税金が投入されていることを考えると、グロスでは官設官営と変わらない状況になっています。此れで第三セクターで運営する事での「真の公共性の担保」は達成されたのでしょうか? 私は大いに疑問に思います。

 この様に“公益性と収益性のバランス”は極めて難しい問題です。真に考えるべきはこのバランスに基づいたトータルの投資計画です。それが無ければ正しく“税金の無駄”になってしまいます。今まではこの補助等を含めたトータルの投資と収支と便益のバランスに関しての概念が薄かったのではないかと感じます。

 いまや民鉄が新線を引いて交通不便地域を改善するのは、その投資額の大きさから非常に困難になっています。しかし交通不便だが人口の多い地域を改善する事は公益性の側面から見れば意味のあることです。そういう意味では第三セクタ−で新線建設ということは必要です。しかし収益性を追求する民鉄でも、公益性を充分に発揮できます。“頑張って金を稼ぐ事”は原則として良いことなのです。

 ですから新線建設に公共性を考慮して税金を投入することは否定できませんし、その経営主体が第三セクターであることは悪いことではありません。しかし“少しでも税金負担を減らす”為に利益を上げて収益性を追求するということが第三セクターに求められ、それが真の市民の公益性を向上させることになるのではないでしょうか?

 税金を投入するに際して、実需を想定した中で第三セクターの経営が成り立つ程度の運営主体の投資負担に抑えその分補助を増やす事は悪い事ではありません。インフラに不十分な補助しか出さず、運営主体に実力以上の投資負担を負わせても運営主体が第三セクターであれば経営が破綻的危機を迎えればその補助を行わなければなりません。傷口が大きくなってから補助を加えた場合、そのグロスの補助額が膨らむことは十二分に考えられます。

 ですから真に必要なことは「トータルのスキームを考え出すときに現実的に実需に基づき経営が成立する運営が可能で、その中で補助を最低限に出来るスキームを確立する事」です。それを確立する事が「公共性と採算性のバランス」の取れた“真の市民の公益性”の追求になると思います。

 

 

 

 

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