「相鉄・JR直通」に対する相鉄の意図は?

 

TAKA  2004年 9月19日

 

 

●神奈川新聞平成16(2004)年 9月 8日付記事より

相鉄とJR相互直通へ/西谷〜羽沢間の接続案浮上
 (前略)
 ……直通化構想では、JR東海道貨物線の鶴見〜東戸塚間で貨物ターミナルとなっている羽沢貨物駅を旅客駅化。同時に相鉄西谷駅から線路を地下化して東方へ延伸させ、旅客化した地上の「羽沢駅」につなげる。総事業費は七百億円前後とみられる。
 JR側は直通化に伴い、横須賀線上り線と大崎駅をつなぐ短絡線を整備する予定。
 (後略)

 

 

●相鉄は何故「東部方面線」を捨てたのか?

 今回の相鉄・JR直通は今まで出てこなかった話で、公的には相鉄は「東部方面線」で都心直通を図るとなっていたのに、何故今回いきなりJRとの直通を選択したのでしょうか?

 この答を考えましたが、ヒントがありました。それは1999年 7月の鉄道ピクトリアル増刊号の相鉄特集での、大東文化大の今城教授と相鉄の峰岸常務取締役運輸本部長(現専務)の対談の中にありました。

 この対談で今城教授が鉄道経営の話の中で、

「東部方面線に対し相鉄はどの様に考えていますか」

 との問いの中で、峰岸常務はコメントとして、

「7号答申当時、横浜〜二俣川間輸送力増強について、東部方面線と横浜〜二俣川間大深度地下複々線化をかなり踏み込んで検討した」
「地下複々線化と東部方面線を2者択一するのなら地下複々線が好ましいと考えた」
「当時としても東部方面線は優先順位が高くなかった」
「横浜をパスするのは旅客流動から見ても、当社の事業から見ても好ましくない」
「地下鉄建設には巨額の投資が必要でとても採算に合いません」

 とコメントしています(要旨抜粋)。

 この一連の発言から、当時相鉄は東部方面線等に関して、以下の様に考えていたと思います。

 (1)相鉄は基本的に「横浜をパスする事」は考えていない。
 (2)実を言うと相鉄は「東部方面線」に疑問だった。
 (3)どのような巨額投資をしても採算性には疑問がある。

 その様な事があり、運輸政策審議会答申で「目標年次まで開業するのが好ましい」と言う高い位置付けでも、相鉄内部では「相鉄にはメリットよりデメリットが多い」と考えていたと推察されます。

 だから今回答申が有るにも関わらず、東部方面線を簡単に捨てられたのでしょう。なんせ西谷での連絡線建設と東部方面線建設では、相鉄の負担金額に差が有ります。より低コストで有効な都心直通を考えれば、出てきても不思議ではない方策であったと考えます。

 

 

●では何故JR直通を選んだのか?

 同時のこのインタビューで峰岸常務は輸送状況について、

「正確には難しいが横浜での乗換比率は約60%」
「東急・京急が共に7〜8%で残りはJRで東京志向が強い」
「(湘南台対)川崎・東京輸送では横浜駅乗換より地下鉄で戸塚乗換を選択し、かなり逸走するだろう。横浜駅は当社線だけで48万人の利用客があり混雑するので、乗換がしやすい戸塚を選択される可能性がある」
「小田急で海老名乗換で相鉄経由JR利用が東京への通勤経路になっている」
「当社線は此処3年ほど年1〜2%減少しているが、海老名・大和利用客は零コンマ数%の微減で留まっている」
「今後ともこの様な乗換客に期待している」

 とコメントしています。

 此処から先は推測ですが「相鉄線利用客のかなりの部分はJRで東京へ向かう客」であり、相鉄は色々な場面で対JR乗換客を意識しています。だから旅客流動に合わない「東部方面線」には興味が無く、ずっと内々には旅客流動に合うJR乗入れを意識していたのではないでしょうか?

 相鉄が都心直通を目指すにはどの道横浜をパスする事は避けられない、つまり現状では横浜で東海道線・横須賀線に乗入れるのは困難であることから、横浜をパスする選択しかない。前述(1)に関しては諦めざる得ないと言う事になります。

 そうすると投資金額と旅客流動・需要から西谷での東海道貨物線直通を選択するのが、相鉄に取り「次善の選択」であったと思います(最善は横浜でのJR乗入れ)。

※JR直通での利便性向上で、いずみ野線沿線の開発促進を図りコストを回収すると言うのは、一部ありとは思いますが、それだけでコスト回収は難しいと思います。
 いずみ野線1期区間は緑園都市等を中心としてかなり開発が進んでいます。そこでの今からの不動産での回収は難しいです。

 

 又相鉄峰岸常務は上記インタビューの中で、

「第一期については土地を面的に取得し鉄道建設に合わせて開発したが、第二期・第三期は鉄道用地だけを線状に取得」
「この区間(第一期・第二期区間)は後2〜3年で成熟地帯になる沿線人口が有る」
「基本運賃・加算運賃・既存線培養効果を考慮に入れて回収していくという考え方にならざる得ない」

 とコメントしています。この地域に相鉄が不動産を多く持っているのは事実ですが、それだけでの回収は難しいでしょう。不動産開発での回収と他線からの利用客増と加算運賃の3本立てで回収を狙うのが相鉄の狙いだと思います。

 

 私も仕事でこの地域をよく利用しますし、数年前まで3年間厚木に東京都内から通勤していました(此処数ヶ月3日に1回は厚木に通っています)。新宿に行く時には当然小田急を利用していましたが、東京・新橋・品川方面へは状況に応じ横浜乗換の相鉄〜JRルートを利用していました。

 私の経験からも神奈川県央地域(厚木・海老名・大和)から東京都心東側へは相鉄経由が有効です。そう考えると、どれだけ誘導できるかは別にして旅客増の為に相鉄がJR直通を考えても別に不思議ではないと思います。

 小田急は海老名・厚木では急行は毎時4本ですし、大和・湘南台では毎時2本です。それ以外は乗換orロマンスカーですから便利なように見えて需要量から考えると不足しているともいえます。そう考えると相鉄に毎時4本程度のJR直通が走るのは、小田急にとって脅威になりますが、住民の利便性等の全体的側面から見れば、有効な方策であると思います。

 

 

●現地調査編

 洗日も厚木で仕事だったのですが、その仕事が運良く昼過ぎで終わり、次が横浜で打合せで時間が 2時間近く空いたので、時間調整方々相鉄・JR連絡線建設予想地を見てきました。

 

☆西谷駅周辺の状況

 海老名から急行に乗り二俣川で普通に乗換西谷で下車。よく知られているとおり、駅より一段上の所を新幹線が通っている。仕事で以前下車した事があるが、駅自体は2面4線橋上駅舎だが駅周辺は両側とも車が走るのも厳しい位狭小な道路しか存在しない。

   
 左:西谷駅   右:西谷駅東方

 西谷駅周辺を見た後、国道16号に沿って上星川方面に歩く。16号と相鉄は並走しているが、どちらの周辺にも住宅・ビル等が密集している。16号は片側1車線であり、この周辺で分岐するのは難しい。又この地域では16号・相鉄は帷子川の谷を走っている一方、連絡線の目的地羽沢は谷の上になる。直接結ぶ道路も無く西谷からの直接分岐は難しい。

  国道16号@西谷

 

☆西谷から上星川まで歩いて

 西谷駅周辺を観察した後、16号を上星川方面へ歩く。上星川方面へ約 1km歩いたところ、環状2号線との立体交差の直前でちょっと大きな踏切が見えたので、相鉄線側に入ってみる。其処が上星川6号踏切と新川島駅跡である。

  上星川6号踏切/新川島駅跡

 此処は西谷〜上星川間で唯一線路の周辺で空地がある場所で、この踏切の右側には16号と環状2号の立体交差がある。予想だが相鉄〜JR連絡線は、かなり急なカーブになるが新川島駅跡の周辺から地下に入り、16号〜環状2号線地下を通り羽沢に向かうルートを想定していると考えられる(環状2号は羽沢駅脇を通り新横浜へ向かっている)。

 

☆上星川駅周辺で

 新川島駅跡周辺を一通り見た後、再び16号に戻り上星川駅まで歩く。 1km位で上星川駅周辺に辿り着く。上星川駅周辺では相鉄と16号は完全に近接している。又その上を乗入れ先の東海道貨物線が一段上を通過している。

  上星川駅付近(この写真左側の街灯が国道16号)

 しかし上星川周辺で分岐線を作るのは困難である。相鉄の両脇には住宅は立て込んでいるし、帷子川の谷の崖はすぐ其処に迫っているし、東海道貨物線の脇にはマンション等が立っている。又地下にしても16号には共同溝の工事が先行しているので、連絡線を建設するにはその下を潜らなければならない。

 上星川駅周辺もかなりごみごみした下町調の駅前であり、此処に分岐線を作る事はかなりの労力を要するだろう。東海道貨物線は店舗の上を強引に通過している様な状況である。

 

☆上星川から横浜羽沢へ

 上星川から相鉄バスで羽沢へ向かう。バスは16号〜環状2号を経由し途中から旧道に入り羽沢に向かった。途中まで走った環状2号線は片側2車線+αの広さが有り、地下鉄を受け入れるには十分の広さが有る。羽沢でバスを降り、環状2号線に沿って歩き羽沢貨物駅を見た上で住宅地に入り横浜行きのバスに乗る。

 羽沢貨物駅周辺は北側は未だ開発の進んでいない地域である。しかし南側や上星川寄りには住宅地やマンションが点在し、住民はかなり居る感じであり、バスしか交通手段が無い羽沢地域としては連絡線が出来て駅が出来れば開発も促進されるだろう。

 横浜駅行きバスに乗る為に、羽沢貨物駅の跨線橋に上り周囲を見回すと、3〜4km先に新横浜プリンスの特徴的ビルが近くに見えた。羽沢と新横浜は環状2号線で結ばれていてかなり近い位置関係にある事を感じさせられた。

 

☆実際に現地を見て感じたこと

 前の投稿で、「相鉄は東部方面線の重要度が低いと考えていた」とのインタビュー内容を書いていますが、東部方面線自体、二俣川〜新横浜〜大倉山間のルートを想定していますが、実際地図と現地を見てみると、現実的ルートは環状2号線と16号の地下が使える西谷経由のルートしかないと言えます(道路下利用に固執しなければ別だが建設費は跳ね上がる)。

 又「輸送力増強の必要が無い」と言う現状では、二俣川〜西谷間で2つの路線を建設する必要は有りません。

 又相鉄線から一番近く乗入できる東京都心直通路線は東急で無くJRの貨物線でありJRに乗入れるだけであれば東部方面線の羽沢〜大倉山間も建設は不要です。

 これらから考えて、相鉄は東京都心直通のためだけに目的を限定して東部方面線の縮小版を考えたのではないでしょうか? 縮小版にすれば建設費は削減されますし、乗入先に関しては東急よりJRの方が旅客流動とも合致していますし、都心での選択肢も増えます。もし東部方面線を建設するのなら、羽沢から又環状2号線の下を新横浜〜大倉山と建設する事も可能ですから、未だ東部方面線も完全に挫折した訳ではありません(東部方面線に横浜線・相鉄線間の鉄道空白地の利便性向上を図る意図があるのなら別ですが、これは市営地下鉄中山〜二俣川間延長線も有りますから其方に任せるべきです)。

 そう考えると、未だ東部方面線も完全に消滅した訳ではありませんし(実は誰も消滅とは言っていない)、現実的な相鉄の身の丈に合った利便性向上策を考え出した方策であると言えるのではないでしょうか?

 

 

●補足

 私の書きぶりには矛盾があって、最初は「相鉄は何故東部方面線を捨てたのか?」と言っているのに、現地調査編では「誰も消滅とは言っていない」とコメントしています。

 これは私の推測に基づいたコメントですが、相鉄はJR乗入れを決断した段階で、実質的には東部方面線を捨てています。東部方面線は乗入れ先を東急を想定している以上、実質的には捨てた事になります。

 しかし実際に「消滅」とは誰も言っていないですし、何処も公式にはコメントしていません。今関係機関で交渉中でしょうが、少なくとも羽沢(環状2号線)ルートで東部方面線を建設する限り前のコメントのように羽沢から環状2号線の下を新横浜・大倉山へ延伸することは可能です。

 その点を私も羽沢貨物駅の跨線橋の上で新横浜プリンスのビルを見て気付きました。私ぐらいの人間が気付くぐらいですから、関係者は当然考えているでしょう。

 つまり相鉄は「羽沢まで連絡線建設」で実質的に東部方面線を捨てたものの、東急・横浜市に対しては「羽沢〜大倉山間を建設すれば東部方面線は達成される」と言う事になります。

 すなわち関係者みんながある程度飲める「落とし所」を上手く相鉄が作ったと言えるでしょう。その点でも正しく「妙案」と言えるのではないでしょうか? ですから発言そのものは矛盾しているものの、現実的には、その矛盾こそがみんなの「落とし所」であると言えます。

 

 

 

 

※ブラウザの「戻る」ボタンでお戻りください