荒れ野からの出発
トランスロール実験線訪問記



エル・アルコン  2005年 6月27日





●ゴムタイヤトラム見参
 ゴムタイヤ式軌道と言うと、パリの地下鉄、そして札幌の地下鉄あたりの大量輸送機関を除けば、新交通システムのイメージが強いですが、LRTの世界でも軌道系交通とバスの良いところを併せ持つと言う振れ込みで登場してきています。
 フランス、ナンシー市での運行が始まったボンバルディア社のTVRに続き、営業運行はまだですが、フランスおよびイタリアの4都市で導入が決まっているロール社により開発されたトランスロールが続く格好ですが、フランスが先行しているというのはパリの地下鉄という偉大な先例があるせいでしょうか、「ゴムタイヤ式」への抵抗感が無いのか親しみがあるのか、興味深いところです。

 さて、その「トランスロール」ですが、日本では三井物産交通システムがロール社と技術提携して導入を図っており、このほど大阪・堺市に試験線が建設されたとの報道があり、その試験線を先日見てきました。

●試験線へのアプローチ
 現場は新日鉄堺製鉄所の遊休地部分で、いわゆる堺浜のエリア。市販の地図は製鉄所の構内道路しか書いていないのでわかりづらいのですが、大阪市内からだと新なにわ筋を南下し、地下鉄住之江公園の先、阪堺大橋で大和川を越えてすぐの松屋町交差点を右折、阪高湾岸線をくぐる松屋大和川通から新日鉄堺製鉄所を取り巻くように進みます。(阪高湾岸線を大阪市内方面からだと、三宝ランプで降りてUターンして松屋大和川通に至る)

大和川阪堺大橋
側道に出て高架下分岐を右へ
松屋大和川通
そのまま直進する


 いったん堺製鉄所の西門と酸素工場の前でUターンすると言うわかりづらい構造ですが、6月30日から単純に右折する新道が出来ると言う案内がありました。
 堺浜の突端にある「海とのふれあい広場」のアプローチ道路となっており、「海とのふれあい広場」「広場」の表示に従って進みますが、広場の閉鎖時間となる17時で、途中の小さなロータリーから先の道路自体の通行が出来なくなります。試験線はその先にあるので、ご注意の程。

正面が酸素工場
すぐ先の右折レーンが6/30からの通路
両側がフェンスの通路


 道路の左右が新日鉄の所有地ということでフェンスに囲まれた道をしばし進むと、荒れ地の中に車庫のような建物と架線柱や架線が見えてきます。
 ここがトランスロールの試験線で、建屋にはトランスロールのイラストと、試験運転にかかわる三井物産、三井物産交通システム、東芝、東急車両製造、日本電設工業、東鉄工業、大鉄工業の7社のネームが並んでいます。
 その前のフェンスには6月10日から走行試験開始と言う張り紙がありますが、休日ゆえ運転の気配どころか人っ子一人いません。

 左右をフェンスに囲まれているため、駐車スペースなどはないわけですが、幸い目の前に岸壁に入る通用門があり、そこへの通路に停めることが出来ました。ただ、試験線を見ていると程なく来ないと思っていた業務用車がやってきており、職員の方から停めていても良いというご好意を頂きましたが、基本的には駐車禁止ゆえご注意の程。

車庫らしき建物 試験開始を告げる張り紙


●試験線を見る
 荒れ地に立つまだ新しい車庫風の建屋。そしてその左手には何に使うのかコンテナ改造の建屋があります。
 車庫から白亜の軌道敷が真っ直ぐ右手(西向き)に伸び、数百メートル先に急勾配区間を設けたその先が終点です。車庫から2/3程度の地点で左手に直角に曲がる分岐がありますが、分岐したら100メートルあるかどうかという距離でおしまい。車庫を出たところにホームらしき盛り上がりがあり、これが総てです。報道等では500メートルということですが、分岐や車庫内を含めての数字でしょうか、もう少し短いイメージです。

建屋前から西方向
先端に急勾配部が見える
分岐前から東方向
建屋が見える


 架線はシンプルカテナリー。架空線式なので路面の軌道は帰線ということです。
路面中央がやや窪んでおり、そこに1本だけの軌道が通っています。見た感じは路面とツライチですが、ちょっと距離があるので実際にどの程度の段差を感じるかは不明です。

分岐部全景 分岐部拡大(デジタルズーム)


 感想として、ゴムタイヤ式の走行と、急勾配での走行、また分岐およびカーブでの追随性などの基本をテストする感じで、最小限の試験線という感じですが、周囲の土地は十二分にあるので、試験の状況や営業の手応え次第では試験線を拡大して実戦的な試験を行う可能性もあります。

●試験線実見を踏まえたシステムへの感想
 カタログスペックや特徴は三井物産交通システムのサイトで確認出来ますが、現地を見てを踏まえて感想を述べてみましょう。

 中央の1本の軌道を掴むと言うことですが、レールの高さが浅く、一見すぐ外れそうなイメージです。
 しかし、左右から斜め45度程度の車輪で挟みこむ構造となっており、滑車のように簡単に乗っただけのTVRと違い容易に外れないことが売り物でもあるわけです。
しかし、ガッチリ挟みこむと言うことは逆に中央一番下の軌道を軸に左右方向の揺れが心配になりますが、どうなんでしょうか。ゴムタイヤですから揺れへの「遊び」は大きそうですし。

 また、左右から車輪で挟みこむため、分岐機の構造は通常の軌道系とは異なります。強いて言えばケーブルカーのそれに近いのですが、ケーブルカーは片側の線路は左右にフランジのある車輪が通りますが、反対側はフランジが無い構造のため、分岐部の構造はそこまで難しくありません。(ケーブルの通過スペースは確保しているが)
 トランスロールの場合はただ一つの軌道を挟み込むため、分岐機の構造は通常の軌道と違い、線路の左右を車輪とフランジが通過するスペースが必要になるため、跨座式のモノレールと同じ原理で設計する必要があります。
 分岐部の構造は、直線と分岐側の線路が入った箱が、地面に対して平行な回転軸での移動を基本とし、垂直な回転軸での移動も開発中とありますが、どういう構造でしょうか。

 いずれにしても、軌道系と言うより中央に案内軌条がついた新交通システムの廉価版と言う印象です。
 AGTのように大掛かりにならないことと、道路交通の支障にならない形での敷設が可能ということ、さらに急勾配に強いと言うこともメリットです。
 既存の鉄軌道システムとの互換性はまったくありませんが、逆に道路交通、バス交通との互換性、親和性は高そうで、「道路に自動車交通と共存する形で中量交通機関を導入したい」というようなニーズにはちょうど良いかと思われます。

 見物後、いったん海とのふれあい広場まで行き、潮風に吹かれながら大和川河口部の堺泉北港ごしに南港を見通してきました。
 見物中もクルマが多く行き交ったように、広場利用者は意外と多いのですが、彼等が関心も寄せない荒れ地から、本邦初のゴムタイヤトラムが産声を上げ、育っていくのです。

海とのふれあい広場から見た南港 堺浜略図(松屋大和川通にて)






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