都市観光周遊券の「性格」「目的」「ターゲット」



とも  2008年 6月 5日





 都市観光周遊チケットは、ヨーロッパというより海外の観光地では極々一般的なものではありますが、古くからあるでもないですし、普及はしてますが「広く利用されている」というほどでもないです。

 日本ではLRT論などで必ずヨーロッパを例に出す傾向からか、ヨーロッパの例が盛んに取り上げられますが、日本人に最も馴染みがある同種のチケットはハワイやグアムのツアーに付いてくる「パス」でしょう。観光施設の割引&バス乗り放題といったものです。

 さて、これらのチケットですが、その問題点の一つに「割安感」というものが挙げられますが、それは要素としては大きな意味があるとはいえないと考えられます。無論、利用者からすれば「得か損か」ということは重要なのですが、それ以前の別次元で「便利」という要素を考えなくてはならないからです。

 例えばヨーロッパの場合、バルセロナカードやロンドンパスを見ると価格は比較的割高であり、見たい施設が絞られ、かつ効率的に回る交通手段が明確であればパスを買うことはむしろ「損」です。神戸も同様で、観光施設の割引分は得ですが、交通機関としては余り「お得感」がある料金設定とはいえません。神戸空港からハーバーランド往復を例にすると、神戸に飛行機で来て日帰りで帰る観光客など常識的に考えて希でしょうから割安といえるかは微妙としかいえません。ではなぜか。

 理由は簡単なのです。これらの多くのパスは、

   (発行者)「公共交通を使うハードルを下げる」=(利用者)「公共交通が利用しやすくなる」
   (発行者)「観光施設への立ち寄りを増やす」=(利用者)「新たな観光施設・資源を見つける」
   (発行者)「観光客の行動を誘発する(回遊性の拡大)」=(利用者)「食事や買い物・まち歩きなどが便利になる」

 これを目的としているからです。一見すると?ですが、深い意味を持ってます。



「公共交通を使うハードルを下げる」

 札幌の場合、地下鉄とバスがあります。このフォーラムをご覧の方なら「解りやすくて乗りやすい」となると思いますが、世間一般でそれが当てはまるとはいえません。地下鉄も南北線と東西線と東豊線があり、これらが何処でどう交わり、どの路線にどうのるか、そこまで理解できている観光客の方が現実的には珍しいです。

 例えば、大通−すすきの間で地下鉄に乗るのは一見非合理的に思われますが、この二駅が歩いていけるほど近いこともよくわからない方は現実にいます。隣とも思わないかも知れません。

 そもそも札幌駅と道庁と札幌ドームと千歳空港の位置関係を解る観光客はどれほどいるでしょうか。そこから考えなくてはならないのです。

 地理が解らない、つまり運賃表から行きたい駅を探してチケットを買うのもハードルなのです。真駒内を探すのに新札幌あたりを探して「駅がない」となってしまうことは否定できないのです。電車に乗れてもその前がよくわからないというのは意外と知られていないハードルです。また、バスもそもそも「料金の支払い方法がよくわからない」という定番の問題があります。

 つまり、公共交通というのは「一定の知識がないと乗りにくい」システムなのです。サインがあっても、説明があっても「解りにくい」以上は「乗りにくい」のです。

 札幌は近年の日本ブームもあって台湾や香港、オーストラリアなどからの外国人観光客も多いです。彼らには券売機でチケットを買うことそのものが「ハードル」なのですからこれは重要な要素です。

 しかし、「乗り放題1日券」なら抵抗は極端に下がります。「のりかえ」さえ理解すれば問題なく利用できるのです。バスも行き先とルートさえ解れば問題なしなのです。大通−すすきの間といえども使って損はしませんし、方向など案内も容易ですからチケットと比較して格段に簡単に誘導できるのです。

 ですから、多少割高でも、一々チケットを買う手間を省くことに一定の価値は見いだされます。もちろん、通常の一日券より遙かに高ければそれは問題ですが。



「観光施設への立ち寄りを増やす」

 観光施設をどうやって知るか。一般的にはガイドブックや観光案内所のパンフレットで知ることになります。

 ところが、観光客の行動というのは不思議なもので、「この町にはなにがあるんだろう」で何の事前知識もなく施設を選ぶ人は少なく、むしろ「○○を見たい」といったことで最初にある程度の目星をつけています。ですからガイドブックにしろパンフレットにしろ対象施設しか目に入らないのです。興味がなければ情報は耳に入りません。

 これに対する立ち寄り増加のアプローチ手法が「割引」です。割引券・お試し券などを添付することで施設を知ってもらい立ち寄ってもらう。しかし、ただ配るだけでは使ってもらえません。見てもらうことすら難しいかも知れないのです。

 それに対する施策として、「交通チケットにつける」があります。交通チケットに「割引券」があれば、目的施設で使えるかを誰もが確認します。そのほかにも使えると知ってもらえれば「こんな施設があるんだ!」と立ち寄りの増加が期待できる。つまり、割引で得をするという印象を与えるというのは立ち寄りを増やす一つの方策なのです。



「観光客の行動を誘発する(回遊性の拡大)」

 上記と関連しますが、たとえば夜、食事や買物などに出かけようという場合、一日券があれば「バスや電車にこれで乗れるから」と外出時の行動が広がることが考えられます。この仕掛をメインに据えているのがハワイやグアムのトロリー(型のバス)であり、そのパスが回遊性拡大の施策です。

 所謂「回遊性拡大」と呼ばれる仕掛けで、観光客の回遊行動を増やすことで商業の活性化を図るというものです。







 これら3つの目的を達することで、発行母体にも企業にも行政にも利用者にもプラスになるチケットといえます。よって割引率よりも「使い勝手」であり、割引料金よりも「対象施設」が重要なのです。ですから札幌のチケットには問題がないとは言いませんが、一定の評価は与えられるチケットです。

 このように書くと「大阪はどうなる」となるでしょう。

 大阪は非常に明快なのです。大阪は京阪神都市圏に位置してますから周辺に行楽客の発生源があります。大阪のチケットは近隣から割安料金を設定していることからも解るようにいわゆる「お出かけ需要」をターゲットにしています。これらの方々の多くは通常は大阪などに買物や通勤で出ている人々です。当然、大阪の地理ぐらいは概ね頭に入っています。天王寺と梅田を取り違えるなんてことはないのです。

 これらの方々を主ターゲットとする場合、利便性よりも価格が重要です。地理も乗り方もある程度解ってますから。ですから値段が安くなきゃならないのです。札幌のような主に遠隔地からの観光客をターゲットにしたチケットではないのです。

 遠隔地からの観光客でもこれらのチケットは使えます。ただし、安いとされる大阪でも、札幌同様たとえば首都圏の方が大阪の観光地を回るには少々割高なチケットと言えますし、市営交通だけで回るのは意外と非効率ですから。

 極端なことを言えば、札幌でもある程度知識があり「損」と感じる方は使う必要はないし、安い方法を使えば良いのです。しかし、一方で数百円のために一々チケットを買ったりするのは面倒という方もいます。そういう方は「元を取る」「得」という意識は強くなく、多少割高でも「乗り放題」という使い勝手を選んでいるのです。ですから、これらのチケットの評価は多面的に考えないとならないのです。





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