栗東新駅と企業誘致



エル・アルコン  2006年 9月17日





 9月17日付の大阪朝日は、「企業誘致 補助金バトル」と題して、近畿の自治体が企業の工場、研究所誘致を巡って多額の補助金を目玉に誘致合戦を繰り返していると言う記事を掲載しています。特に亀山にシャープ、尼崎に松下を持っていかれた大阪の攻勢を柱に、各府県の取り組みを書いていますが、そのなかで滋賀県は、既存の工場の引き抜きを警戒する防戦型と説明されています。

 これを見ると、栗東新駅をてこに企業誘致を図ると言う考えは理に叶っているように見えますが、足元のトレンドとは実は大きな乖離があります。つまり、今のトレンドは、大企業の設備投資計画を一本釣りするピンポイント型の誘致です。自治体が日参するのは設備投資計画がある企業であり、成功すれば補助金などの投資に見合うリターンが取り敢えずは確実になるのです。

 一方で栗東新駅の場合は、その前段階。企業が来やすい条件を整えて、かつそういった大規模投資を一本釣りしていく「営業活動」の段階が残っています。新幹線新駅の誘致により、周辺自治体と競争して勝算があるのか。やらないよりはマシとはいえ、誘致される側のニーズに果たして応えられるのか。そこが曖昧です。

 さて記事ではシャープの亀山工場を例示して地元への経済効果を示しています。確かにシャープの亀山は、地方への工場誘致としては近年まれに見る成功例です。しかし、そこに落とし穴は無いのか。

 税収面のメリットについては、少なくとも底地については公有地や無主地でない限り、税額に格段の際はありますが原状でも税収があるわけです。完全にプラスになるのは建物などの償却資産であり、それは年を追うごとに評価額と連動して減っていきます。また、法人地方税にしても、その工場は盛況でも他部門どころか連結子会社までを通算した損益ベースでの課税になりますから、課税標準額が実はゼロで、外形標準である均等割以外の税収は水物と言うリスクもあります。誘致にあたって税率などで優遇を行っていると言うことも考慮する必要があります。

 雇用についても、地元で正規雇用が増えるかと言うとさにあらずですし、上記の松下の尼崎工場でも、雇用関係の補助金を兵庫県から取得しながら、いわゆる「偽装請負」の疑惑が持ち上がるなどの問題がでてきています。地元が失対事業を考えているようなエリアであれば非正規雇用でもありがたいですし、下請けや孫請けなど関連会社での雇用を含めると馬鹿にならないので、一概に否定は出来ませんが、労働集約型からの転換が図られつつあるなかで、過度に期待することは危険です。

 よしんば雇用が伸びたとしても、その従業員が地元に住むかというと、近隣のもっと条件がいい自治体に住居を構えるケースも多々あります。地方の工業団地では、工場は順調に誘致できているが従業員は隣町から通うだけで地元はさっぱりと言うケースもあるわけです。特に都市圏の場合、交通機関が四通八達していればいるほど市町村どころか都道府県境もまたいでしまうわけで、企業の事業所立地によっては近隣自治体の寮や社宅からの通勤と言うケースもあります。それを地元の居住に結びつけるとなると、上下水道や都市ガス、道路、学校教育や福祉などあらゆる面でのインフラ整備により特色を打ち出す必要もあるわけで、こうした間接的なコストも馬鹿になりません。

 今回の栗東新駅、そこまで読んでの行動なのか。そして新駅と言うインフラ整備の次にある、具体的な企業誘致のめどはあるのか。そうでないにしても「滋賀県百年の計」を考えると、今は無駄に見えてもやらねばならないのか。そこまで説明し、考えての決断が望まれます。





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