阪神タイガースの人気と電鉄の関係を見る

 

エル・アルコン  2005年 9月 3日

 

 

 プロ野球=スポンサー任せ、Jリーグ=地域密着と言う図式で語られることが多いわけですが、確かに後発の全国規模のプロリーグとしてJリーグが定着するにあたっては、当時のプロ野球があまり持たなかった「地域密着」をキーワードにしてきたことは確かです。

 ではプロ野球は、というわけですが、地域密着としてこれまで上がって来た3球団を見てみますと、果たして地域密着と言えるかどうかともいえるわけです。
 つまり、後述する阪神、そして旧福岡ダイエーは、フランチャイズに加えて、阪神はマスコミ、ダイエーはスーパーと言う宣伝媒体を持ち、人気を「創出」してきたわけです。
 その意味では真に地域密着と言えるのは北海道日本ハムが初めてではないかと思いますし、次いで千葉ロッテがそれに近いところに位置していますが、東京近郊ということで地域性を出しづらい点が苦しいです。
新規参入となった楽天、ソフトバンクは微妙なところですが、インターネットと言う宣伝媒体を持っていると言う意味で、地域密着+αの部分があることには留意すべきでしょう。


●阪神の「成功」とは
 では阪神タイガースの「成功」ですが、それと表裏一体の話として、なぜ関西にフランチャイズを置いた近鉄、南海、阪急の各球団は球団経営から手を引かざるを得なかったのか。
 フランチャイズ、鉄道と言う球場への集客手段の所有と言う意味では阪神と条件に差は無いですし、プロスポーツですから勝ってナンボと言う話にしても、1964年から1985年までの21年間、さらに2003年までの18年間ペナントを制することが出来ない「ダメ球団」よりはマシでしょう。(晩年の南海は阪神とイイ勝負でしたが)
 それどころか阪神は「兵庫県西宮市」に本拠がありながら、必ずしも地元に密着しているとはいえません。それは甲子園駅での輸送状況を見れば一目瞭然ですが、圧倒的に多い大阪方面への客に対し、神戸方面は1/3程度と言っても良いでしょう。もともと「大阪タイガース」を名乗る時代が長かったわけで、遠くから見れば大阪も西宮も神戸も一緒のようですが、この微妙なズレを見ますと、地域密着とは言い難い面もあるのです。

 ではなぜ、と考えた時、結局は「セリーグ」という部分に落ちつくのです。
しかしそれは人気抜群の巨人と同じリーグと言う単純な話では無いと考えます。それは結局「巨人人気」と同様、マスコミの作った「阪神人気」が源泉であり、それが成立するにはセリーグで無くてはならない、ということなのです。

 同じ銘柄のスポーツ新聞でも、東京発行と大阪発行では編集部も違うため1面から全く違います。
見ていて気がつくのは、東京発行の紙面は、巨人偏重のきらいは十分あるものの、Jリーグその他のスポーツや、他球団の選手の記録達成などが1面を飾るケースが多いです。しかし、大阪発行の場合、勝っても負けても阪神ネタ。試合が無くても阪神ネタ、シーズンオフでも阪神ネタが1面を占領しつづけます。
 そこまで阪神を持ち上げておいて、調子を落とすと叩きに回り、シーズンオフにはお家騒動を煽る、というのが大阪発行の年中行事なのです。


●マスコミが作った阪神という「神輿」
 そこまで阪神一色になれば、一種の洗脳状態ともいえるわけなんですが、ではなぜそこまでするのか。
 それは結局、これは関西、大阪の東京コンプレックスの裏返しと断じざるを得ません。
 東京が拠点の人気チームである「東京」讀賣巨人軍に立ち向かう阪神タイガース。それは「天下の台所」「上方」を自称しながら、政治、経済のあらゆる面で東京に突き放されている大阪が溜飲を下げる唯一のツールと言えます。
 それは言い過ぎ、と思うかもしれませんし、市井の住民はそこまで意識はしてないかもしれませんが、マスコミがそういう固定観念に凝り固まっています。

 スポーツに限らず文化面でも、何かにつけて「関西XX界では」と妙に「関西」に拘りますし、社会事象でも、わざわざ関西での声、評判を付け加えます。重要な功績を残した人が現れたら、小学校時代は関西に縁があり、というように何でも関連付けますし、関西発で全国に広まったものが出ようものなら「関西発のヒット」と誇らしげに報じます。東京発のマスコミが「関東」や「東京」に限定した考え方はしていないことを考えると、コンプレックスあっての持ち上げでしょう。
 そして天下のNHKですら、全国ニュースに続く大阪発のローカルニュースのコーナーで、「それでは昨日の関西2球団の試合結果です」と、さっき全国ニュースで流した阪神とオリックスの試合結果を改めて報じていますが、まさに地方新聞の「郷土力士星取表」を地で行くコーナーを見るにつれ、虚しさすら感じます。

 まあマスコミが一番コンプレックスを抱いているのも無理からぬ話でして、もともと全国紙も大阪発祥のものもあるなど、東京キーで大阪以下地方ローカルと言う構図ではなかったのです。それが戦時統合で「東京メイン」の構図になってしまったわけで、本家なのに、と言うプライドが鬱積していることは想像に難くありません。TV局にしてもNHKですら大阪放送局制作の全国放送の番組が多く、地方局というよりキー局としての誇りがあるようです。
 しかし現実は一極集中が進み、人材の流動も盛んで東西間での人事異動も普遍化しており、そして情報や流行が地域の差を越えて瞬時に伝播するため、東京とは別の大阪キーが存在することが難しくなっていますが、そうした中でかたくなに新聞とTVは、読者や視聴者のニーズとは必ずしも一致していないにもかかわらず(深夜やお昼時を中心に東京キーの番組を見たいと言う需要は根強い)、独自色を出そうとしています。
 その象徴が、阪神偏重ともいえる編集方針といえます。

 もちろんJリーグの成功の源泉となった地域密着も、突き詰めればこういう地元至上主義なくして成立しないわけで、その意味では実は日本で最も「郷土愛」が強い地方とも言えるわけです。その意味では阪神が地域密着の成功例として捉えることは必ずしも間違ってはいませんが、しかしそれだけでは阪神「だけ」が成功した理由にはなりません。
 つまり、こういうマスコミ主導の前提条件を満たすには、パリーグではダメなんです。当時の日本ハムは後楽園〜東京ドームを本拠にしてましたが「東京」のイメージがありません。逆に関西に3球団もあってしまっては、虚像ともいえるヒーローを作りづらいのです。
阪急が昭和50年代、日本シリーズで巨人を痛めつけていた頃はヒーローになり得たんでしょうが、それも秋のひと時だけ。それでは商売にならないと言うのも大きいでしょう。

 その意味では、阪神の「成功」は阪神自身のビジネスモデルと言うよりも、メディア主導で出来あがった「地域のお祭り」の「神輿」という面が大きいわけです。
 そう、もし阪神がパリーグ、阪急がセリーグだったら、西宮球場が大賑わいで、甲子園は高校野球専用球場だったかもしれません。
 もちろん阪神電車のほうも、したたかにそれを利用しているわけです。それが分かっているからこそ、「金をかけて強い選手を取りに行く」ことが少ない訳でしょう。球団が「ケチ」という面も確かにあるでしょうが、人気の源泉がどこにあるかが冷静に理解しているからこその対応とも言えるからです。
 さらに「ファン」もその「お祭り」に乗っているだけなのかもしれません。


●鉄道事業とプロスポーツ
 結局、地域密着の効果が最も発揮されるのは、郷土愛と対抗心が兼ね備わった時です。
そういう視点で見たとき、地域密着型のプロスポーツを成功させるには、皮肉な話ですが、仲が悪い隣県同士、隣りの経済圏同士を組み合せるのが一番とも言えます。
 もちろんそういう地域対立を煽るようなことを「興行」が行うのは厳に慎むべきことですし、そう言う地域対立が昂じると、韓国の全羅道のような状況にもなりかねません。

 その意味で、今のプロスポーツにおける「地域密着」は、阪神を除いて(これも東京側は対抗心を持っていないので、阪神の一人相撲の面がある)取り立てて対抗心を持たない、それどころか長渕剛の「とんぼ」の歌詞のように、東京はライバルではなく憧れであり、そういう緩やかな郷土愛に頼った地域密着型の経営だと、その成否は地域の熱意よりも経済規模に結局は収斂する感じがします。
 反面、それでも収支が均衡出来るのであれば成立するのですが、人件費、移動経費を中心とした運営費を抑えたコンパクトなリーグであることが必須です。そう考えると、Jリーグは微妙なバランスの下で成り立っていると思いますし、巨人と言う人気チーム頼みのプロ野球にしても、セリーグ6球団をすべて潤わせることも怪しいわけで、興行、さらに経営として成立する規模と言うのは実は小さいほうがいいのかもしれません。
 ちなみに「とんぼ」ですが、大阪の岸和田出身で富田林の高校を出て、埼玉の所沢の西武を経て、プロ入り前からの夢だった東京の巨人に来た清原選手の打席入りのテーマソングだったことは単なる偶然だったのか、興味深いです。

 そして、鉄道事業がプロスポーツとどう関わるべきか。ということを考えた時、沿線にある球団の輸送に徹することはあっても、自ら経営に携わって球団経営や輸送で収益をあげるということは、よほどの条件が整わない限り無理と言えるのではないでしょうか。
 輸送に徹して興行の結果に責任を負うことがなければ、興行上は大失敗と言えるレベルの不入りであっても、輸送対策に特段の投資をしていない限り、利用者数の上積みになり、収益に寄与します。こうした付き合い方に徹することがベストともいえます。
 鉄道事業がプロスポーツに手を出すとしたら、鉄道事業が「沿線」という地縁に縛られ、そして「沿線」の条件がよくて事業が成功するのと同様、プロスポーツも地縁に縛られ、そして条件が整えば成功するということを理解する必要があります。そしてその成功するエリアが上手く重なって初めて手を出せるものと言えましょう。



 

 

 

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