女性専用車が鳴らす警鐘

 

エル・アルコン  2005年 2月 8日

 

 

 近年の犯罪検挙率の低下、凶悪犯罪の増加は社会不安を増幅させています。こうした流れは、公共交通の利用を促進する側から見ると大きな逆風となっていることは確かです。幸い、我が国では公共交通の利用に危険を感じるまでには至っていませんし、公共交通利用時に凶悪犯罪に巻き込まれるというのは無いに等しい状態です。

 ただし、昨今多発する路上強盗や通り魔的な凶悪犯罪を見る限り、公共交通に限って治安が維持される保障はないわけで、そういう意味では危険な分水界に立っているのかもしれません。

 さて、先日、都営大江戸線に乗車した時のことです。とある駅で2人連れの黒人男性が乗ってきました。いわゆるヒップホップ系というかストリート系のファッションに身をかためており、車内を睥睨するように移動して空席を見つけると座りました。

 そのとき、別に人種差別的な発想云々では決して無いのですが、「危険」を察知しました。というのも、以前ニューヨークに住んでいた時、地下鉄にこの手の乗客が乗って来た時のセオリーとして、「隣りの車両に逃げる」というものがあったからです。まさにその風体は久々に危険察知のアンテナを働かせるものでしたが、もちろんその2人連れに罪は無く、大人しく乗って、そして何駅か先で降りて行きました。

 もちろん私の独り合点と言うか早とちりなんですが、「世界基準」で考えれば、ああいう風体で公共交通に乗ってきたら警戒するのが当たり前なんです。決してそんなことは無いのが日本の良い所でもあるんですが、昨今の動向を見ると、その油断が落とし穴になる日が来ないとはいいきれません。もちろん、そうした事象が発生したら、「世界基準」で警戒するようになるんでしょうが、誰かがババを引くのです。

 

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 私がそういう対応を「身に付けた」ニューヨークの場合、徹底した犯罪封じ込めにより市街や公共交通での治安は劇的に改善したと聞いています。そのためには相当手荒な、人権問題と非難されても仕方がないような対応もあったやに聞いていますが、そこまで徹底して初めて実効性のある効果が生まれます。その担い手となるのは警察であり、制服警官の警乗、巡邏の徹底に、小さな違法行為の厳しい摘発(ex:「割れ窓理論」)と、目に見える対応で臨んだ結果です。

 そういう「結果」を出した事例に比べると、日本の対応の生ぬるさは、治安の急激な悪化もさもありなんというものでしょう。

 治安の悪化、特に警察の治安維持機能の低下ということを考えた時、都内の鉄道における痴漢が過去最悪という先日の報道も見方が変わってきます。痴漢犯罪の増加に対して警視庁と所管する東京都が取った対応は、鉄道事業者に対する女性専用車の拡大要請でした。多くの社局で、線区によっては終日導入されている関西に比べ、導入こそ早かったが深夜帯のみに限定するなどあとが続かない首都圏を批判した格好ですが、男女差別という問題以前の問題として、混雑が激しく、乗車率の不均衡を招き輸送力を必要以上に逼迫させるという首都圏ならではの事情もあって、事業者が及び腰なため、都と警視庁が尻を叩いています。

 しかし、「痴漢は犯罪です」とデカデカと訴えるのであれば、犯罪対策の基本である「摘発」がまずありきではないでしょうか。これは昨今多発する小児対象の性犯罪と同じカテゴリーの犯罪であり、凶悪化する性犯罪に対し、性犯罪者の情報公開など今までになく踏みこんだ対応が取られようとしているのに比べると、「被害に遭いそうな女性を分離すれば良い」という発想は非常に後ろ向きです。小学校の周辺で不審者情報が寄せられた時、「では皆さんで集団登下校してください」と言うだけで終わらせるようなものです。

 「痴漢は犯罪」というのであれば、まず警視庁がすべきことは「犯罪の摘発」「予防」です。それは女性を隔離しておけばいいと言うような単純なものではなく、もっと地道に、かつ目に見える形で行うべきものです。そうした犯罪への対応の基本すら出来ていない状態に鑑みると、今後、性犯罪ではなく凶悪犯罪が現実のものになった時に対応出来るのか、非常に心許ないとも言えます。

 三度言いますが、痴漢は「犯罪」です。その犯罪に対して積極的な対応を取らない、取れない状況がやがては破滅的な治安の悪化につながる。これは何も不安を煽る脅しや妄想ではありません。ニューヨークの市当局、交通局、警察が「割れ窓理論」で犯罪を一掃してきましたが、日本の警察は「割れ窓理論」をまったく逆の意味で実践しているように見えるのです。

 

 

 

 

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