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第22課

アップロード2006/05/07
"Vojaĝo en Esperanto-lando" japana reta versio.
『エスペラント国の旅』改訂第二版 第22課 [日本語訳] [第三版原文見本]
SPECIMENO DE LA ESPERANTA ORIGINALO
(el la tria eldono).

(Tria eldono) [Esperanto-USA]



 1月末にわたしたちはアメリカ(米国)(注1) の歴史についてエスペラント国クラブで話しました。しかしそれは、アメリカの今日の社会生活をイメージするには十分なものではありません。アレクサンドロ・シャルネフはかの地で数年間働いた経験から、私たちに現在のアメリカのいくつかの特徴について語ってくれます。

(LECIONO 22-1, p.224-226, 最終修正2006/05/11)
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 USONANOJ VIDATAJ DE PROKSIMO — Aleksandro Ŝalnev

アレクサンドロ・シャルネフ
近くから見たアメリカ人

 これは簡単な比較テストです。あなたは外国人旅行者を見ると、ほとんど自動的に、街頭や売店・劇場でその人が快適にすごせるように行動したがるだろうということを、わたしは確信しています。あなたは、あなたが行列に並んでいるとき親切に彼が列外でサービスを受けることを許すでしょうし、行きたい場所への道順を非常に詳しく彼に説明してあげるでしょう。わたしはまた別のケースについても確信しています。ワシントン又はニューヨークの街路では、あなたは他のどんな通行人とも同じように区別なく、全く区別なく取り扱われるでしょう。行列外サービスは? ああ、ありえないことです。公衆道徳がそれを許しません。アメリカは移民によって出来ている国です。ここでは、外国人旅行者もその土地の住人とほとんど同一視され、それゆえ旅行者を同様に取り扱います。もしくは、より悪く。
 アメリカは自分の住民たちとも儀礼的な付き合いをしません。外国人は、なおさら。しかし、常にほほ笑んでいます。絶対的に常にです。怒りで煮えくり返っている時でさえほほ笑んでいます。憤慨していようが、悩んでいようが。だから、そういう否定的な感情を覆う仮面をはぎ取ることはできません。電話にもまた、ここでは特別なエチケットがあります。怒っているとか嫌いだからといって、すぐに受話器を置かないで、声を張り上げたり皮肉や侮辱でいっぱいの会話の後でも、最後には必ず「ありがとう。今日がいい日になりますように!」と言い、ほほ笑むんです。あなたは単に電話線の向こうに微笑を耳で感じるんです。カシャッ ── にこっと。カシャッと置くと、にこっは消え、受話器は戻されます。
 なんと大声の人たちであることか! ある時、わたしの舌が「もうちょっと静かに話せないか?」と言いたくてむずむずしましたが、話せないんです。アメリカでは誰かの行為を非難する習慣がないのです。もちろんその行為が法律の許容範囲内にあったらです。もし、法律がわたしの仕事や行動を許容している場合は、他人のことに顔を突っ込まないでくれ。これはわたしのプライベートな生活だ。どうか、かかわり合わないでくれと。
 着物について若干。英語にサンデー・ベスト (注2) という表現があるけれども、それは「日曜に着る上等の晴れ着」ということです。これは、現在のアメリカ人の実際とは合致しません。なぜなら、週末に、つまり土日に、また祭日にも、アメリカ人は洋服ダンスにしまってあるもののうち、最も地味なものを選びます。楽です。しかし、その同じアメリカ人が仕事に出る時にはパレードのように着飾るのです。仲間の前で見せびらかすためではなく、より正確にはそのためだけではなく、主に彼らが働いている会社を権威づけて代表するためです。だから、きちょうめんさと気品。だぶだぶのパンツは? どんな場合もだめです! 同じシャツを2日以上着ることは? 必ず替えなければなりません。磨いていない靴は? ありえません!
 アメリカの台所で使用されているものについて話したいと思います。冷蔵庫はとても大容量で、大容量の冷凍室が付属し、言うまでもなく自動解凍システム付きです。自動食器洗い機 ── 宴会の後で汚れた食器や道具でいっぱいになった時だけではなく、家族が紅茶とわずかのサンドイッチを食べた後でさえも、それを使うのです。レンジはたいてい電気ですが、もしガスの場合はマッチなしで点火することができます。オーブンは非常に広範囲のモードで機能し、加えて、超(高)周波の (訳注1) オーブン・ロースター 付きで、その中に食品を入れると、正味三、四十秒で再加熱できるのです。自動式コーヒーメーカー ── 夕方それをプログラム・セットして置くと、翌朝自動的にスイッチが入り、お湯をわかし、内蔵されたラジオのスイッチが入り主人を起こします。
 保存食の缶詰の電気オープナー。ジューサー ── ほとんど全ての種類のジュースは豊富にあり、店で手に入るとはいえ、多くのアメリカ人は飲む直前に自分で作ったジュースを飲みたいと思います。多くの新鮮な果物が一年中豊富にあるからなおさらです。健康維持は統計上の平均的アメリカ人の優先順位リストで、お金もうけのすぐ次の第2位にランクされています。スライスし、ひき、こね、肉や野菜などを切る自動調理器、電動スライサーはどんな物をも、むだなく、とても細かに切ることができます……
 職務上の環境から離れると、アメリカ人はとても交流好きです。アメリカ人は力を使い果たした、不遇な人たちを、よろこんで助けます ── もちろん、その人たちが自分にとって潜在的な競争相手でない場合は、です。おそらく、アメリカ以外のどんな国もこれほど多くの種類の慈善や博愛や他の善行の団体を持っていないでしょう。注目すべきは税制が慈善活動を優遇していることです。慈善目的の活動への寄付や補助金への課税はできないことになっています。
 私の観察では、アメリカ人は私たちよりもより真剣に、より高い参加意欲をもってスポーツに向かっています。他のどんな国でもアメリカのように、こんなに多くのあらゆる種類の立派なスポーツ施設や運動場があるのを見たことがありません。
 ……考えるべきは、私たちが再びアメリカを発見し、もっと早くに知っているべきであったのに、私たちが無視してきたアメリカについての事実を知ることです。それは、長い間私たちの国で公的レベルででっち上げられてきた、アメリカに関しての虚像と統合できません。よろしい、私たちは今、別なやり方を試みているところです。
出典:
A. Ŝalnev.Amerikanci Vblizi.
Nedela, 1988, n-ro 38.
A.シャルネフ「近くから(見た)アメリカ人」
『ネデラ』1988年38号
P.10–11. 翻訳を短縮

 ── 私が個人的にもっとも気に入っているのは、現代アメリカの象徴であるフリーウェイ(高速道路)網です。時速100キロでパワーのあるアメリカ車に乗ってフリーウェイを飛ばすのは魅惑的な感覚です。
 ── フリーウェイは普通コンクリート道の片側3車線で、数千数百万の車輪によって滑らかになっており、両側が鉄製の低い柵(さく)で囲まれています。
 フリーウェイはアメリカ人にとっては何か完全なものであり、あたかも彼らの生活様式の一部なのです。おそらく、その優美な道路に生きた工学思想や労働能力、アメリカ人の創意工夫を体現しているからというだけではありません。道路はまるで、アメリカ人の精神、移動への全情熱、前進へのエネルギーと渇望の反映のようになりました。
 フリーウェイ以外のどんな道路が、想像を絶するほど大量で、常に増加しつつあるアメリカの車の群れを輸送する能力を持っているでしょうか? 他のどんな場所が満載のトラックを今より早く目的地に着かせられるでしょうか? しばしば、アメリカのフリーウェイは人体の動脈と同様なものと見なされています ── もし、誰かがフリーウェイを止めたとすると、アメリカの全組織は死滅してしまうでしょう。

出典
Maksim Knjazjkov. Ĥajuéj – eto obraz ĵizni.
LITERATURNAJA GAZETA, 1989, n-ro 8.
マクシム・クニャジコフ「ハイウェイ — 生活様式です」
『リテラトゥルナヤ・ガゼタ』1989年8月号
P. 14. 抜粋の翻訳を短縮


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 私たちはすでにクラブで会話表現 (注3) について話しました。しかし、文学において会話表現がいかに現れるかということは少し違うことがらです。そのことに関してスコットランド (注5) 出身の有名なエスペランティスト、詩人であり、文学者、編集者、元エスペラント・アカデミー (注6) 会長のウィリアム・オールド氏 (注4) を我がエスペラントクラブにお招きし、お話しいただきます。

(LECIONO 22-2, p.226-228, 最終修正2006/09/06)
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 KONVERSACIA LINGVAĴO EN NIA LITERATURO — William Auld

ウィリアム・オールド (注4)
我らが文学における会話表現

 とても重要なことは、エスペランティストが多少とも長い時間の会合をすることです。なぜなら、そういう会合はエスペラントの環境で生活し、継続的に会話する可能性を与えるからです。もちろん、いつでも同志たちが集まれば、彼らは進んで会話練習のチャンスとして捕らえ、未熟なエスペランティストでさえも、非常に急速に流ちょうになります。実際、より経験のあるエスペランティストは、彼らの自国語とほとんど同じようにたやすく完ぺきにエスペラントを話します。
 どの言語の作家も必ず、たとえ作中の言葉が実際にはけっしてそうではなかったとしても、「生活から得た」言葉だという幻想を読者に作り出さなければなりません。しかしながら、エスペラント作家の創作活動はこれまで、現代の自国語作家よりもより意識的より創造的でなければなりませんでした。彼らの課題は概して、何百万もの人々がエスペラントだけを毎日話すとしたら多分こうであろうという表現を示すことです。例えば:

 坂の上から木材運搬人の声が聞こえた。
 ── ハイッ (注7)、いい子だ! ハイシッ (注7)! ホレッ (注7)、すごいぞ!それ、ふんばれっ! 見ろ、小男が材木を欲しがってるんだ!
 バルトが私にほほ笑みかけた:
 ── ダンが自分の馬を追っているんだ ── 彼は言った。
 急にダンの声が変わった:
 ── コラッ、やぶにらみの子牛め! 何をやらかしてるんだ、夢でも見てるのか、昼日中に! 危ない、ホラ、馬が! 離れろ、がけから離れろ! 丸太が滑り落ちたら、馬もろとも……グズ豚野郎! お前はそれで引っ張っているというのか?? 俺はそれより重いのを、カラスが巣づくりのために爪(つめ)に引っかけて飛んでいくのを見たぞ! 泥頭(道化)野郎 ── 神様が命を吹き込んだ中に、こんな馬鹿はいなかったぞ! キリストさん、やつをかち割ってくれ!
 バルトがほほ笑んだ:
 ── 今度は、ダンは自分の息子に怒鳴っている。 (レート・ロセッティ (注8)『袖の中から』P. 89)

 引用を介して、私はおそらく問題となる三つの別な側面を説明することができます。スラング、方言(あるいはくずれた言い方)と、ある国特有のエスペラント使用法です。
 フェレンツ・シラジ (注9) は話し言葉の表現方法に現実味の幻想を創り出す特別な才能を持っています。例えば、新聞記者の間で:
── 手形支払い ── バンバンのトーマがどこに住んでいるか知らないか、今日コンサート会場で首都を悩ませていたんだが……
── 俺はコンチネンタル(電報通信社)で彼にインタビューしたよ。
── 彼は自分のことについて何か吐いたか?
── いいや、いつもの型どおりにゲロゲロ鳴いただけだったよ。しかし、彼はおもしろくて、好感の持てる人間だよ。俺が彼について書いたこと全ては、すでに皆がイギリスのイエロー・ペーパーで読むことができたことさ。 (フェレンツ・シラジ (注9)『小さな神秘』P. 57)

 ユリオ・バギイ (注10) の長編小説『流血の大地』で、ある中国人 (注11) は、とても特徴的に (注12) 話す役回りです。誰かが彼に尋ねます:「お前の犬か?」すると、彼は答えます:
「違う!……犬ほえた……隊長撃つ。リオ・フ・ペンの犬、違う。リオ・フ・ペン、父っちゃんに食べ物持てきた。隊長来て、撃つ、犬死ぬ」 (P. 9)

 最後に、チェザーロ・ロセッティ (注13) です。ご覧ください。何とうまく彼は『ザメンホフことわざ集』から採ったことわざを使って話にスパイスをきかせていることでしょう。『ザメンホフことわざ集』は絵のように美しい表現の宝庫なのに、無視されすぎているのです:
── 片づいたぞ、お前たち!── ベンゾは言った ── さて、何が? 警察の中にいる時、ちょっとばかり雷が鳴り、ひょうが降ってきたがね。それくらい俺には、がちょうに水さ。面倒はやつらが引き受けてくれた。やつらにとっちゃ、パンツの中のイラクサというわけだがね。どうすればいいんだ? やつらはサーカスの猛獣使いの助けを借りて、ライオンを引き出さなきゃならなかった。そして、やつらはライオンをサーカスに住まわせた。しかし、ライオンは俺のものだ! やつらはその事実を変えることができなかった。やつらは安寧を破壊したと、俺を非難した。俺は反対に、やつらが権利もないのに俺の物を持ち去ったと非難した。畜生 (注14)! その言葉が、やつらを黙らせた! やつらはハンマーと金床(かなとこ)の間にあるかのように、どうすればいいのか分からなくなった。やつらはかまどの焼き板の上の猫のように踊っていた。ついに俺は、やつらが動物園に子ライオンを売るという交渉に同意した。─ 本当だぜ、うまく吹っ掛けた値段でさ! ほらな、お前たち、俺に任せろってんだ。やり方を知っているからな! 俺の脳みそに雑草は生えていない。俺に触れたやつは、俺(の値打ち)がわかるのさ! (チェザーロ・ロセッティ『奥さん、信用してよ』P. 193)

 これら少数の例は、文学における会話が現実よりも、より現実味があることを示すことをねらっています。けれども、文学的な会話は活発な生きた会話にも互いに影響しあっています。我々の中のとても生き生きした話し手は、自分の話の中に、フィクションの中からくみ取った美しい文章と言い回しを巧みに織り込みながら、「日常」のエスペラントをも発展、成熟させているのです。

出典:
William AULD
PRI LINGVO KAJ ALIAJ ARTOJ
ウィリアム・オールド『言葉とその他の技術について』
(アントワープ/ラ・ラグーナ 1978年)
P.197–200. 要約


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 これまで見てきたように、生きた会話からだけではなく、また文学作品からも表現を収集する価値があります。どんな教科書も、そんなに多くの知識を与えることはできないでしょう。
 ウィリアム・オールド氏 (注4) が我がクラブにいらっしゃる機会を捕らえて、私たちはオールド氏に何か、ご自分の詩を朗読してくださるようお願いしましょう。

(LECIONO 22-3, p.228, 最終修正2006/09/06)
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 NATURA ĈIRKAŬAĴO — William Auld

ウィリアム・オールド (注4)
自然環境

丘の上に私は立ち止まり
眼下に平原を眺めた:
そこには、ハイウェイがアスファルトで覆われ、
人間の土地が密集していた。

私は告白します。
都会の文化の重要性について
知っているにもかかわらず
瞬時に、いわゆる“自然”の誘惑が私を誘ったのだと。

丘の上に羊たちは草をはみ
真昼には光が照り輝く;
山に住む人々を飲み込みはしない
車や騒音、排ガスの溶岩流は。

田舎の生活は穏やかに見える
都会のスピードに比べると、
孤立は確かに避難所のようなものである
邪魔にされ、追っ払われた都会っ子にとっては。

しかし、私は“自然”の子ではない
やがて、孤独の生活は私をうんざりさせる:
わずかの時間の後に、私は駆け下りる
刺激的な群集の方へと。
出典:
William Auld
HUMOROJ
ウィリアム・オールド『気分』
(ラ・ラグーナ 1969年)
p.59.


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 私たちは、大昔にアトランチド島でどんな大事件が起きたかすぐに知ることでしょう。なんとそれは現在の大事件を思い起こさせるのです!

(LECIONO 22-4, p.229-231, 最終修正2006/05/05)
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 LA FALSA AŬGURO — Sándor Szathmári

シャンドル・サトマリ (注15)
偽の占い

アトリア国の大王は、自分の腹心で宮廷評議会議長のセルバを呼びに人をやりました。
「さて、領民が我々の統治十周年を祝ってくれる時には、領民は我々に敬意を示し、必ず立派な贈物をしてくれるものだ。そのことはお前のほうが、良く存じておるな」と王様は言いました。
「はい、感謝の教会堂や記念碑、それに陛下の立像でございます。」
「有り難いことだが、それ以上申すな。計画はよく承知しておる。我々がお前を呼んだのは、領民の忠誠心や寄進心に報いて、親心から、何がしかの褒美をやらねばならないと感じているからだ。そうは思わぬか。」
「領民はもうすでに心から王様をお慕いしております。おお、王様、神々の息子よ。」
「そのようだ。そのことは承知しておるぞ。しかし、なおさら、我々もまた領民になにか褒美をやるのがふさわしかろう。」
「何かの記念碑や寺院をお考えですか、神よりお生まれになった王様。」
「えい、そのように多額の金が掛かるものではない。領民は既に自分の贈物で十分すぎるほど負担をしておる。なぜ領民に我々の贈物で負担を掛けさせるのだ。」
「陛下のお心の善良さは無限です、おお、神から生まれた王様。」
「我々は囚人どもへ恩赦をしたいと思ったのだ。」
「なんと! 大王陛下」セルバは心配になった。「陛下の黄金の杯を盗んだ陛下の料理人でも、その身を解放なさるおつもりですか。」
「ぬ、もちろん、その者のことは思ってもいなかった。まさにだからこそ、お前を呼びにやったのだ。我々は、国中の監獄で、誰が、どうして、どんな懲罰を受けているか調査するようにお前に任せたい。誰が恩赦を受けられ、又は、減刑を受けられるのか、お前の賢さと忠実をもって調査するよう任せるぞ。だが我々は、お前がすでに総てを承知しているものと思っておる。さ、行って、仕事をしなさい。」

* * *

「さて、我らが僕(しもべ)、看守パトラ君よ、囚人名簿を私に提出しなさい。」
 パトラは名簿を持ってきて、膝(ひざ)を曲げながら、評議会議長のセルバに差し出しました。
「では、順番に見てゆこう。それだ、“ブルト、強盗”。彼の罪状は。」
「ブルトは市のときに貧しい商人たちを殺して奪いました。」
「だだのそんなつまらない事でか。」
「そうでございます。しかし、ある時、ブルトは高貴な善行者で宮廷領の借受人でもある大領主プタルム様を襲ったのです。(ここでパトラは再度膝(ひざ)を折り曲げ、手のひらを額にあてて、高い尊敬の念を示しました。)しかし、ブルトは乗物の中に誰が座っているか分かると気が狂ったように走り去ったのです。」
「それは運が良かったな。彼に恩赦を。続けよう。次はタルメだ。彼は何の罪を犯したのだね。」
「タルメはアンチッサ国の手先になってスパイ活動をしたのです。彼は密かに貴族界深く侵入し軍事機密を盗み取り、その機密をアンチッサ国政府に引き渡したのです。」
「うむ、より大事件だな。タルメの量刑はどの位かね。」
「終身刑でございます。」
「その罰を二年に短縮させなさい。三番目はラータだ。彼は何をしたのだ。」
「多分それはお分かりになるでしょう、私どもは、その内容を伏せておかなければならなかったのですが。ラータは例の偽の占い師なのです。」
「そうだ、何か覚えがある……国の滅亡、大海への沈没……」
「はい、そうです。二か月前、地底から聞こえてきた例のうなりです。我らが占い師たちは、一致して、そのうなりは神の啓示だと表明されました:カントラ神がお怒りになり、わが国にお告げされている。神はアンチッサ国の無作法にこれ以上我慢ならぬゆえ、わが国に対しアンチッサ国民を皆殺しにせよ、と要求していると。それで、わが大王様はその時、アンチッサ国に対するため武装を命じたのです。」
「その通りだ、」セルバが言いました。「ラータには異論があるとも聞いておるが、ラータは何と申したのだ。」
「大領主閣下様、私は、あなた様が、何もかもご存じであるとはいえ、それを詳しくご存じなくても驚きません。しかしラータの危険な主張を流布させてはならないとの厳しい命令があったのです。高官閣下様たちでも、ほとんどその情報を知らされてないのです。」
「で、ラータの主張は何かね?」
「それはこうでございます。そのうなりの原因はカントラ神の怒りではなく、自然から生じる地のうなりで、我々は地の奥深くにある洞穴が落ち込む時の音を耳にしていると。ラータは恐れもなく、こうも主張しています。わが大陸が二か月後には大海に沈没するであろうと。それで武装を止め、アンチッサ国と休戦するようにと。」
「恐ろしい敗北主義よ。」
「ですが、幸いなことに、わが最高当局はすぐさま対策を取りました。聖職者たちは、ラータの主張は異教の教義であると表明し、神聖な書物により、わが国は永遠に堅固に存立しているだろうと証明したのです。なぜなら、そのようにカントラ神が命令したからです。また神の怒りは、第一番にそのような異教徒に対して呟(つぶや)かれるのです。後に、聖職者たちは、すべての表明や公開の議論は、ラータやその粗末な教義の宣伝になるだけだろうと認めました。そこでラータを捕らえ、その書き物を焼き払い、彼自身を監禁したのです。今では、あのいまいましい主張を少しでも口に出した者は投獄されるのです。ところで、閣下、この化け物を恩赦なさるのですか?」
「いや、いや、そのようなことはない。」セルバは言った。「ラータの罰はどうなっておるかね。」
「終身刑でございます。」
「いや、終身刑では不十分だ! ラータは、もしかすれば自由の身になり、さらに国民の心を損ない、愛国的で宗教的な道徳心を滅ぼすことであろう。そのため、将来への人民の信仰は打ちのめされるだろう。ラータを闘技場の野獣の中に放り込め。ラータが死ねば、円形競技場での記念競技は一層華やかになるだろう!」

* * *

 この話はアトランティス (注16) が水没するひと月前に起きたのです。


出典:
Sándor Szathmári
KAIN KAJ ABEL
シャンドル・サトマリ『カインとアベル』
(ブダペスト 1997年)
P. 35-38.


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 この小説の著者は大変賢い人でした。既知の出来事の風刺だけでなく、永久に存在すると思われた、あの超大国が近いうちに終焉(しゅうえん)することを占ったのです。彼はまた勇気ある人でした。この小説の中の占い師と同じ運命となるかもしれなかったのですから。
 次の会合では国際状況についての討論を行います。エスペラント界のニュースを聞き、今年の世界大会の写真を見ましょう。不要になったエスペラント関連グッズをぜひお持ちよりください:ベナン、エチオピア、トーゴ、ケニア、モザンビーク、マダガスカルといった、アフリカ諸国の友人に贈り物として送りましょう。




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(LECIONO 22–KOMENTARO, p.232, 最終修正2006/09/12)


[ 1 ] 「駆け足で見るアメリカの歴史」の本文(第2課)を参照
[ 2 ]【サンデー・ベスト】Sunday best
[ 3 ]「良い言語」の本文(第14課)を参照
[ 4 ]【ウィリアム・オールド】William AULD (1924–2006):1937年にエスペランティストになった。教師。現代で最も重要なエスペラント詩人。多数の本(詩歌,評論,随筆,翻訳,教材)の著者。複数の雑誌(『エスペラント』,『フォント』,『ブリータ・エスペランティスト』,『モナート』,その他),文学やエスペラント運動の著作物の編集長。元UEA副会長。エスペラントを多く教えた。主要著書:『子供種族』infanras.jpg, 『船頭なしの小船で』barksenpilot.gif, 『言葉とその他の技術について』lngvAliArt.jpg, 『藁(わら)と切り株』pajlerstopl.gif, 『完全習得への歩み』Pasxoj.jpg, 『エスペラント現象』fenomenoEsp.gif, 『エスペラント文学選集』Antologio81.jpg(編著), 『新エスペラント模範文集』novKrest.jpg(編著)。UEAの名誉会員。
[ 5 ]【スコットランド】Skotlando:ブリテン島の一部,イギリスの統治・政治区分(主都エディンバラ)。
[ 6 ] la Akademio de Esperanto については第17課の注釈11を参照
[ 7 ] hot!, ekla!, jaj! :馬を進ませる時の間投詞。
[ 8 ]【レート・ロセッティ】第24課の注釈28を参照
[ 9 ]【フェレンツ・シラジ】Ferenc SZILÁGYI (1895–1967):1924年にエスペランティストになった。 ハンガリー人,スウェーデンに居住していた。文学雑誌『ノルダ・プリスモ』編集長。著書:『鶏はもう鳴いている』kokokri.jpg,『大いなる冒険』novKrest.jpg,『お伽(とぎ)の大海を越えて』transfabel.gif,『南と北の間』intersudnord.gif,『そのように起きた、それとも小さな神秘』misterminor.gif,教科書等。
[10]【ユリオ・バギイ】第2課の注釈19を参照
[11]【中国人】ĥino:ĉinoが好ましい。
[12] 第3課の注釈8を参照
[13] 第7課の注釈1を参照
[14] 悪態は「自分の憤慨や怒り,または類似の感情を表現するため,相手に直接話しかけずに使用される言葉又は文章」(レナート・コルセッティ)です。悪態の語句は,ただ激しい感情を表現し,時にはその言葉の持つ本来の意味を完全に,または部分的に失います。幾つかの使用例:百人(千人・すべての)悪魔に!,千人の悪魔たち!,二十二人の悪魔にかけて!,七人の悪魔とひとりの女悪魔!,悪魔的!,悪魔に取られろ,悪魔に食われろ!,悪魔に値する仕業だ!,ああ神様!,我が神よ!,神悪魔的!,ちくしょう!,天国を!,雷鳴!,稲光と雷鳴!,豚の体だ!,預言者のあごひげにかけて!,千の甘いマカロニ!,脳のない小エビだ!,ああへたくそ!,へどが出そう!。冗談めいた例:盗まれた人に値引きとは!,死体の長話!,単数の複数形だ! 純粋にエスペラント的な悪態:聖ルドヴィコ様!,ほお,ザメンホフ!,私のザムチョのせいで!,夜の亡霊たちよ!(ザメンホフの詩『道』を暗示 — 第15課を参照),模範文集!(ザメンホフが当時収集した同題名の本、見習うべき好文体の作品集を暗示),アカデミーの論文集!(エスペラント・アカデミーの同題名の本、資料付き論文集を暗示),アータ・イータだ!(複合動詞形態の接尾辞 -at- と -it- の使用方法に関する文法学者たちの長年の論争を暗示)。
[15]【シャンドル・サトマリ】Sándor SZATHMÁRI(1897–1974):1911年にエスペランティストになった。ハンガリー人。技師。著作のいくつか:『カゾヒニーオへの旅』Kazohinio.jpg(ハンガリー語と英語で出版,ハンガリーではハンガリー語で劇化され,そして映画化が企画されている),『機械の世界』Masxinmond.jpg,『完全な市民』perfektCivit.jpg,『カインとアベル』Kazohinio.jpg。チェザーロ・ロセッティの小説『奥さん、信用してよ』(第7課の抜粋参照)をハンガリー語に翻訳。※訳注:第二版では「1912年」となっているが、第三版で「1911年」に改められた。※第二・三版の KAZOĤINIO (カゾヒニーオ) は誤植。正しくは KAZOHINIO。
[16]【アトランティス】Atlantido. ※訳注:アトランティス島は古代ギリシャの哲学者プラトンの著書『ティマイオス』に登場するかつて大西洋に存在し,神の怒りによって海中に沈められたという島。ここでは最初アトランチドとし,最後にアトランティスであることを明かしている。

訳注1)【超周波の】ultra-onda:mikro-onda(マイクロ波の)のほうがよいだろう。ここでは電子レンジのことを述べている。高周波の=altfrekvenca.

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(LECIONO 22–LINGVA PRAKTIKO,p.232–233, 最終修正2006/05/14)


近くから見たアメリカ人
( 1 )アメリカ旅行を終えて,帰宅したと想像しなさい。このテキストを基にして,独自の文体や独自の注釈と補足情報を使って新聞用に随筆を書きなさい。
 
我らが文学における会話表現
( 2 )引用された部分を口語体から中立的な(事務的になってもよい)文体に変換しなさい。
( 3 )どれか学習し終えた教科書から一部分を選び,それを疑問,感嘆,省略,誇張法,間投詞,擬音語等適した語いを使用して,口語体に書き直しなさい。同じことを、これから後の学習テキストにも応用してかまいません。
 
自然環境
( 4 )著者は田舎をどのように感じて,そして、それでもどうして都会から離れられないのでしょうか。
( 5 )あなたは「都会と田舎」の問題について何を考えますか。
 
偽の占い
( 6 )上役から部下への関係、またはその逆を証明する表現を見つけなさい。
( 7 )最後の文章は、小説全体の意味にどのように新しい光を投げかけていますか。
( 8 )アトリア国の裁判制度を話しなさい。その制度について,自分の意見を述べなさい。
( 9 )小説を読んで、現代のどういう国(国々),体制(複数),人物(複数),事件(複数)を思い出しますか。
(10)この小説の書評をエスペラント雑誌に書きなさい。
 

***

(11)次の単語が何を意味するか説明しなさい:
 
うんざりさせやすい,かみつき癖のある,流行好きの,見せびらかしたがりやの、冒涜(ぼうとく)的な,ほえ癖のある,突っつき癖のある,罪を犯しやすい,手のかかる,迷惑気味な,割れやすい,怒りっぽい,間違いやすい,胸を締めつけるような,仕切り癖のある、極端な,演技好きの,浸透性の,ささやき好きの,凍り震える,感じやすい.
 
(12)文章を完成させなさい。
 
「熟年は……でない。」「からの皿から……で無駄にすくう。」「長く……だったら,石でさえ緑色になる。」「その威厳あるものから笑うべきものまでただ一つの……である。」「尊厳な頭,しかし心は……」「遅いお客のためには,ただ……だけが残っている。」「もしバイオリンを取るなら,また……をも取りなさい。」「一番良い手引書は……です。」「われわれの巣にもいつか……がやってくる。」「聞くべきでないところで耳を傾ける者は,自分が……ないことが聞こえてくる。」
 
(13)次の類音語を持つ言葉つながりまたは文章を考えなさい。
 
言語 ─ 舌, 傷・かけ ─ 敗北主義, なぐさめ ─ 助言 ─ 評議会, 対・ペア ─ パレード ─ 天国, かご・ざる ─ 弦・線 ─ 中庭 ─ 身体 ─ カラス.
 
(14)エスペラントについてのクイズ
 
a) 現在最も重要なエスペラント詩人はだれですか。
b) フェレンツ・シラジはどの文学雑誌を編集しましたか。
c) シャンドル・サトマリがエスペラント語からハンガリー語に翻訳した有名な小説は何ですか。
ĉ) エスペラントに悪態はありますか? あれば,いくつかの例を文章で示しなさい。
 
(15)議論とお話のテーマ:「舌は頬(ほお)の後ろに控えていろ。」
 
(16)あなたがエスペラントの大展示会を行うとしたら,そこに何を展示しますか。詳細に書きなさい。