夏合宿2010

8月16日、滋賀県守山市、「京滋ピアノ調律」の上野泰永さんのおうち、「Stimmer Saal」にぞくぞくとメンバーが集まりました。
ピアニスト内藤晃さんと、作曲家・麓朝光(フモトトモミツ)さん、そして彼らの企画に興味を持って参加してくれたのは、中学3年生から社会人までの7名。
運営のお手伝いをさせていただいたわたくしニワノが、この充実の3日間をリポートします。


 ┃┃ 8月16日  合宿初日

ピアノとご対面・・

この合宿は、調律師・上野泰永さんの全面的なご協力のもとに実現しました。ホールの1階には80歳ほどの New York Steinwayがさりげなく置かれ、2階のホールには、上野さんの調律されたBö嗷黼ndorfer Imperialが。ピアノの足には、上野さんの開発されたインシュレーター「スティムフューチャー(Stimmfuture)」がセットされていて、弾かれる音が、とても気持ち良くホールに響きます。みんなその初めての音色に興奮気味でした!


ピアノの構造と奏法のレクチャー(by 上野さん)・・

ピアノのアクションの仕組みの変遷、ハーフタッチ、音の伸びをつくる(ピアノの振動を解放する)、弦振動の仕組み(衝撃波と正弦波—縄を使って実演してくださいました)、タッチと雑音成分、ピアノで音程を作る(タッチによって音程感が変わる)…などなど!
上野さんの音へのこだわりの詰まった、たいへん高度なレクチャーでした。演奏家に求められるものが、単に「ピアノが弾けること」ではなくて、いわゆる物理だったり物作りだったり、多方面の知識も含まれるのだということを痛感しました。


ワークショップ・・

♪ラヴェル:ソナチネ(by博子さん)…オーケストレーションについて(遠近法)。作曲家はどういうところでどういう楽器を使うか。オーケストラで演奏するとどうなるか?と楽器をイメージして、その音色を奏でるようにピアノに向かうこと。

【チャレンジ】皆で、フルートやクラリネットなどの名曲を聴き、それぞれの楽器の質感の模倣にピアノで挑戦!

【チャレンジ】ベートーヴェン・ピアノソナタ28番第4楽章をもちい、オーケストラで発想されているため、声部間の遠近感をつけないと混沌としてしまう例を考える。

♪シューベルト:即興曲Op.142-3(by尭くん)…和声の転回形について。フレーズと呼吸について。各変奏のキャラクターと変奏曲全体の構成についてなど。

【チャレンジ】音楽を前に進める部分と、息つぎをさせる部分を意識して指揮をしてみよう!前に進みっぱなしだとダラダラと棒読みの演奏になってしまう。指揮は、単に拍を数えるためのものではないことを強く意識出来ました。呼吸という、非常に身体的なものと結びついていることが印象的でした。


宿へ移動・・

夕食は、立て替えたばかりという綺麗な「森の未来館」にてバーベキュー(満腹〜)。蛾の命と医大生について(何のことかわからない人、ごめんなさい)。夜は皆で部屋に集まり、持ち込んだ機材を使ってビデオ観賞。
「The Art of Piano」(往年の巨匠たちの演奏記録)、キース・ジャレット「東京ソロ2002」より、ホロヴィッツのラフマニノフ・ピアノ協奏曲第3番。
ホロヴィッツの白熱のライヴに一同大興奮!これは一年に一度のごちそう、という感じで、みんなお腹いっぱい。


┃┃ 8月17日  合宿2日目

朝ご飯が・・

唯一タカシくんが生き残る(?)。思い出深い朝となりました。


ワークショップ・・

今日は一日中時間を使えるので、みんな火がついていました。参加者全員が、持ち寄った曲を発表し、内藤さん・麓さんの指導のもと、皆でその曲に向き合い、思考錯誤し「自分ならどうするか」に挑戦していました。一曲から、その作曲家やその時代の特徴へと話が進み、共通するものだけでなく異色の特徴なども皆で考察し、曲を“読解”していくようなワークショップでした。

♪ハイドン・ソナタ62番(by杏子さん)、ベートーヴェン・告別ソナタ(by寿美香さん)を用いて、ソナタ形式の構造と心理状態について学び合いました。即興的なパッセージや休符の魅せ方、展開部の高揚感の導き方、また、音楽が何小節単位で進んでいくかを意識する(また、その周期が崩れる部分の感じ方)こと、構造的な区切り(場面転換)を意識することなどを考察。

♪ショパン・ノクターン2番(by壮一郎くん)、プレリュード4番(by陽大くん)をもちい、音楽が何小節単位で進行していくか区切ってみました。揺らぎについて(伴奏と歌がぴったり合いすぎるとおかしいことや、跳躍進行は順次進行より時間がかかる点など)、フレージングに付随したテンポの揺らぎを意識することを表現できるよう参加者全員で挑戦しました。偽終止のニュアンスの表出にはみんな四苦八苦。

♪バッハ・平均律第1巻ヘ長調(by尭くん)…フレーズの連結(閉じたところから出て行くような)や、フーガの構造と心理状態、カデンツで大きな場面転換をつくることなど。

【チャレンジ】ベートーヴェン「悲愴」第2楽章を、指定された「お題」に従ったさまざまなイメージを想定して演奏しました。このお題の出しあいで、参加者の人となりがぐっと伝わったように思います。それだけ、想いを持ってイメージをもって演奏に臨むと、それが聴き手に伝わるということ!面白いほど、演奏家のもつイメージによって奏でられる音は、それぞれ趣が異なります。何かを伝えようと思って演奏することの重要性の再認識となりました。


元NHKアナウンサー・高橋清之さんのお話「音楽の言葉」・・

上野さんが私たちの滞在にあわせて素敵なゲストを呼んでくださいました。日本語と歌について。発音や、歌詞の重みについて。一文字、一音を大事にできなければ、全体を壊すことになるという点は、西洋音楽も邦楽も同じだなと思いました。


演奏録音・・

なんとStimmer Saalでレコーディングも試験的に行いました!上野さん、実験は成功でしたか?参加者の皆は緊張気味。レコーディングという特異な場面での演奏は、大変貴重な経験値になったと思います。


夜はビデオ観賞・・・

ソコロフ、ルービンシュタインのライブ映像を皆で観賞し、彼らの魅せる技を研究。粛さん加わる。なんて博識・・。こういう方も参加してくださるんだと、私は一人感動していました。勿論、鍵盤をたたく技術は必要ですが、こうした演奏にまつわるあらゆる知識もないと(技術、知識だけでも不十分だとは思いますが)、「次」に期待される“出る杭”にはなれないのだなと感じました。


┃┃ 8月18日  合宿最終日

ワークショップ・・

♪ドビュッシー・月の光(by粛さん)…ドビュッシーの新しい和声語法について。バスの重要性(安定/不安定)。
♪ショパン・マズルカOp.7-1(by壮一郎くん)…マズルカのリズムと踊りについて。
♪ショパン・幻想ポロネーズ…音楽を「動き」で感じる(前に前に動く部分とそうでない部分)。拍をカウントする意識や、小節線から解放されることなど。

【チャレンジ】それぞれの持ち曲で、拍や小節線から解放され、音楽を「動き」で感じて弾いてみました!

ゲストには、内藤さんのお知り合いで、即興演奏が大好きな5歳の少年が、両親に連れられ、Stimmer Saalに現れ、なんと私のためにも一曲奏でてくれました!一緒におやつも食べて、マズルカ(もどき)も踊って、刺激的な出会いとなりました。


演奏録音・・

昨日に引き続き、内藤さんと3名の演奏を録音していただきました。出来栄えが楽しみです!音大生や音高生の参加者は、さすがに人前で演奏するという緊張感に慣れているようでした。それでもこんな正直な音の出るピアノだと、弾いていて自分でヒヤッとすることもあったようです。
そして午後4時過ぎにワークショップ終了。現地にて解散しました。


┃┃ 合宿後記  ニワノのひとりごと

今度は、弦と歌手がほしいですね!演奏家だけで集まるのではなく、作曲家や調律師の「理想」も合わせてみると、演奏そのものに、より幅が、表現方法の選択肢が増えるように思いました。
今回は、一人の演奏家、一人の調律師、一人の作曲家によるワークショップで、彼らの理想や手段は絶対的なものではありません。幅の広いもしくは個の強い演奏家を目指すなら、色々な価値観を主張する個と出会う必要があると思います。
自力以外から引き出される(=出会ったものから触発される)、引き出されてしまうものも多々あるので、どんな個と出会い、関わっていくかで、自分の視力・視界が大きく変わる(変わってしまう)と思います。

サックスも受験勉強もいいと思います!精一杯やってみれば、その結果に腹も据わるはず!ぜひぜひそういう個が集まって、素敵な仲間が形成されたら力強いなあと思いました。人間的な魅力を養うことにつながるようなこと、つまり自分の意志と責任とで何かをしてみること、そういう挑戦を、是非続けていきたいなと思います。

「こういう演奏家もいる」「こういう作曲家もいる」「こういう調律師もいる」「こういうピアノ(楽器)もある」「こういう表現方法もある」というその選択肢を、どんどん増やしていって、そして「じゃあ私はどうしようか」という問いと向き合うのはいかがでしょうか。音楽に限らず、昨今このような「出会い」の必要性が多くの分野で叫ばれているように思います。
ぜひ来年もこのような機会が開かれることをひそかに願いつつ。その時は、時間という変化とまた別のメンバーが加わって、感じる器も変わるでしょう。「次」が見える、そんな3日間でした。

最後に:素敵な、贅沢すぎる環境をご提供くださった上野さんご家族に心から感謝いたします。上野さんの奥さま!安くておいしいパン屋さんやスーパーを教えてくださってありがとうございました。麦茶の差し入れにも、温かいお心遣いを感じました^U^

(文:ニワノ)


┃┃  参加者の声

■合宿でのまず一つの貴重な経験は、上野さんの素晴らしいピアノを弾かせていただいた事です。素晴らしい楽器なだけにコントロールするのが大変難しく、とても苦戦しましたが力を完全に抜かないと良い音が出ないという事を改めて感じられて大変勉強になりました。 音楽を学ぶ仲間とピアノを通して色々と試したり聴きあったりした事も、とても良い経験となりました。ピアノを使って色々な事を表現したりして、人それぞれ違ったニュアンスや音色が出た事がとても面白かったです。
合宿所でのDVD鑑賞会では、内藤先生がとても内容の濃い映像を見せて下さって楽しかったです。
合宿に参加して、今までと違う観点から音楽やピアノを学ぶ事が出来て自分の音楽の幅が広がった気がします。この経験を演奏にいかしていけると良いなと思います。(杏子、音楽大学ピアノ科1年)

■とても楽しく有意義な3日間でした。硬くなりすぎず、アットホームな雰囲気の中で勉強ができたことがとてもよかったです。DVD鑑賞会も、今ではなかなか見ることのできない映像や演奏が聴けてとても面白かったです。音楽世界が広がりました。
良いピアノに出会って、良い音を追究する耳を鍛え、その大切さを理解できる、濃厚な合宿でした。
また参加したいです!!(寿美香、音楽高校ピアノ科2年)

■今回のワークショップで、音に対する意識が変わった様に思います。弾けない時どうしても音のミスに意識が行きますが、それぞれの音の本質(キャラクター)を考えた上でアプローチすれば自ずと必要な事が見えてくる事が分かりました。
また内藤さんの多彩な音作りの方法を垣間見る事が出来、とても勉強になりました。また機会があれば是非とも参加したく思います。(博子、音楽大学卒)

■合宿に参加した3日間は、昼間はホールでレッスン、夜は宿舎でDVDを用いたレクチャーと、朝から晩までピアノ漬けでした。また、レッスンに使ったホールのピアノはすばらしく調律されたベーゼンドルファーで、とても贅沢で充実した3日間でした。
レッスンは、参加者の持ち曲を題材として、他の曲にも通用する応用性の高い内容を扱っていたので、自分の持ち曲のレッスン以外からも、多くのことを学びました。(陽大、大学3年)

■皆さんの演奏もお話もとても勉強になる内容で楽しかったです。ピアノは基本1人で、他の方と関わることが少ないので、こうやって色々な方と知り合えてすごくよかったと思います。今度聴いていただくときは、もっと成長した姿を聴いていただきたいです。
麓さんのお話も作曲家からの視点でとても面白かったです。特にシューベルトの全体的に見通した視点、バッハのプレリュードでのトリルの和声のことなどなど、格段に弾きやすくなったり、とてもためになりました。(尭、中学3年)

■三日間の合宿では、ひとつひとつが勉強になるものばかりで大変有意義な時間が過ごせました。また、スティマーザールという素晴らしいホールで、夢に向かって頑張っている人達と勉強できたのは、とてもいい刺激になり、自分も頑張ろうという気持ちが湧いてきました。内藤先生をはじめ、尊敬できる先生方や先輩と一緒に寝泊りできたのも大切な思い出です。またこういう機会があれば是非参加したいです。(壮一郎、中学3年)