
[ 第一部 基 礎 編 ]
[19] 硝化細菌その2−アンモニアの硝化過程
ニトロソモナス属 (Nitrosomonas) を代表とする「アンモニア酸化菌」は、呼吸によりアンモニアを酸化し (ヒドロキシルアミン NH2OH を経由して) 亜硝酸イオンを生成します。最終的に電子は遊離酸素O2により酸化されます。
NH3+ (3/2) O2 → NO2-+H2O+H+
亜硝酸イオンは自身では水素を持ちませんが、これが水素供与体となるのは、この下で水分子が分解され脱水素が行われるからです。 (従って亜硝酸イオンに結合する酸素原子は遊離酸素ではなく、この際水から脱水素された酸素が使われています。)
NO2-+H2O → NO3-+2H++2e-
亜硝酸イオンの存在下で水から脱水素が行われ、陽子と電子が生じます。電子はシトクロムから成る電子伝達系を運ばれていきますが、陽子は一旦膜外に押し出され、細胞膜を隔てた電気化学ポテンシャルの差を形成することになります。(エネルギーは電子が担っているので、電子が電子伝達鎖を流れる過程でエネルギーが取出され、そのエネルギーを使って陽子の膜外への汲出しが行なわれている。) PH勾配によって陽子が再びATPase を通過して細胞内に流入することで酵素を活性化させ、ADPからATPが合成されます。電子伝達系を経た電子は最終的に遊離酸素により酸化され水を生じます。(結局電子のエネルギーは、陽子のポテンシャルエネルギーを介して、ATPの合成に転換されたことになる。)
2H++2e-+(1/2) O2 → H2O
最初と最後の過程を表す以上の2式をまとめて結果のみを記せば、亜硝酸の酸化過程は下記のようになります。
NO2-+ (1/2) O2 → NO3-
硝化菌のバランスが取れている場合には、全てのアンモニアが硝酸イオンにまで酸化され、その場合の硝化菌の総合的な反応式は以下のように表されます。
NH3+2O2 → NO3-+H2O+H+
アンモニア酸化細菌としては、ニトロソモナス属のほか、ニトロソコッカス属(Nitrosococcus)、ニトロソスピラ属(Nitrosospira)、ニトロソロバス属(Nitrosolobus)など計8属が知られています。
一方亜硝酸酸化細菌ではニトロバクター属のほか、ニトロコッカス属(Nitrococcus)、ニトロスピラ属(Nitrospira)などが知られています。
尚自然界には従属栄養性微生物で硝化作用を行うものの存在も確認されています。これらの従属栄養性微生物の行う硝化は独立栄養性細菌のようにエネルギー獲得の為に行うものではなく、何故かアンモニアを一気に硝酸イオンにまで酸化する形態の反応を採ると言われています。 従属栄養性細菌としては Arthrobacter globiformis などの名前が見られます。アンモニアを硝酸イオンに酸化する活性は比較的強いと言われますが、土壌菌のようで水域でも生息出来るのかどうかは分かりません。
アンモニアをヒドロキシルアミンに酸化する酸化酵素はオキシゲナーゼと呼ばれるものです。オキシゲナーゼ (酸素添加酵素) は酸素分子O2のOを化合物に添加する酵素で、(還元剤の下で) もう1原子のOを水にします。アンモニア酸化酵素 (NH3 オキシゲナーゼ) の基質は NH4+ ではなくて NH3 であるとされています。
従いニトロソモナスによるアンモニアの酸化はその結果だけを記せば下記のようになります。 (水素イオンが残る為環境が酸性化されていくことに注意して下さい。)
ニトロバクター属 (Nitrobacter) を代表とする「亜硝酸酸化菌」は、亜硝酸イオンを呼吸基質として利用し酸化して硝酸イオンを生成します。最終電子は同じくO2により酸化されます。
この反応については幾らか分かりやすいので、 [11] 節で触れた酸化還元という観点から少し詳しく見てみましょう。
即ち第一段階として亜硝酸イオンから硝酸イオンが生じる反応は以下のようになります。
ニトロソモナス属の土壌菌では Nitrosomonas europaea が最も有名で、PH8程度で最も良く活動し、PH5.5位まで低下しても酸化活動はあまり影響を受けないとされます。ただし酸素の供給が十分でないと亜酸化窒素 (N2O) を生成することが知られています。
土壌菌としてはニトロバクター属の Nitrobacter winogradskyi が最も有名ですが、PH8付近では活発に亜硝酸イオンを酸化して硝酸イオンを生成するものの、PH6程度でほぼ酸化活動は止まってしまうとされています。 (PHが更に下がると酵素が逆に還元反応を触媒するおそれがあるともいわれる。)
然し、ニトロバクター属の中には酸性条件下で硝化作用を示すものもあり、例えば PH4.1〜7.2 で生息し、PH5.5で最も高い亜硝酸酸化活性を示す森林土壌菌の報告もあります。ディスカス水槽では通常PH5以下になっても、特段に亜硝酸イオンの蓄積が見られるということはなく、継続して硝酸イオンの生成蓄積が続くことから、濾過槽では Nitrobacter winogradskyi 以外のニトロバクター種、或いはニトロバクター以外の細菌が繁殖している可能性についても考えておくべきでしょう。(研究は専ら土壌菌に対してなされています。それらの結果が全て水域に対しても同じようにあてはまるという裏付けはありません。)