vol.10 | 2008年3月15日 土曜日 更新 | 今日の天気 |  Newsletter配信サービス | new Firefox 2.0以上でご覧ください。  

ひろがる空間−栗本百合子と伊藤千帆−

マルチプルチョイス 2008年3月1日〜3月30日
馬場暁子

約一年半ぶりに足を踏み入れようとしたそのとき、男の子のげんきな声が聞こえてきた。ここ「マルチプルチョイス」がお休みをしていた間に生まれたあたらしいいのちに出迎えられたのが、「ひろがる空間−栗本百合子と伊藤千帆−」展を最後に取り壊される場所と入れ違うことにも感じて、なんだかしっくりきた。

栗本百合子
《SHOP“the multiple”》2008年  撮影/山田 亘

ちいさな「マルチプルチョイス」がぎっしりと並んだ一階では、うつわやはがきといったわたしたちの生活のそばにある小物たちが並んだショップだった頃と、時間や空間がふっと重ね合わさるような感覚がおとずれた。まるで棚に並んだカラフルなオーガンジーを通した世界のように、こちら側からあちら側が透けて見えていまにも行き来できそうな感覚だった。

栗本百合子
《SHOP“the multiple”》2008年
撮影/山田 亘

「マルチプルチョイス」が入れ子になっているような栗本百合子によるこの空間は、《SHOP“the multiple”》と題されている。さらに一軒家の写真やポストカードで埋めつくされた壁を見わたすと、スペースの名前の通り「マルチプルチョイス」をどれでもあなたが「multiple-choice(多肢選択)」して、 持ち帰ったり心の中にのこしたりできることをそこに並んだものたちが教えてくれているようだった。

伊藤千帆の《ひかり、現われる》
《ひかり、現われる》2008年 撮影/山田 亘

これまでギャラリーだった二階へ上がると目の前に広がった伊藤千帆の《ひかり、現われる》は、一階から二階へ顔を出していま現在もぐんぐんと成長を続けるまるでおおきないきもののようなインスタレーション。ラテックスがはられたちいさなフレームとフレームが重なる部分は黄色や橙色が濃くなり、ひとつひとつが独立しつつも全体としてすくすくと育っているようだった。それらはこれまでここでおこなわれた展覧会や訪れた人たち、「マルチプルチョイス」となるまでにこの一軒家で営まれた生活、建物がなくなった後に流れるときをも含んで、これからもただただ上へ上へと伸びていくように感じた。

空間をつかったこれらの作品へ足を踏み入れたら、一年半ほど前のことなのに空間の記憶がおぼろげになっていることにおどろいた。ここに窓や柱があったかどうか、どんな床だったか、棚はどこにあったか、何度も足を運んだ場所であったにもかかわらず、自分の記憶のあいまいさを知った。代わりにわたしの心の中に「マルチプルチョイス」の輪郭をつくっていたのは、その存在が持つ目には見えない空気のようなものであることに気がついた。これまでそしてこれから流れる時間を含んで「ひろがる空間」はできていて、それはどこまでもひろがりそしてずっとのこっていくのだろう。

馬場暁子 『artravel』(http://www.m-choice.com/artravel/)編集スタッフ
 
マルチプルチョイス
マルチプルチョイス外観 撮影/山田 亘

multiple choice(マルチプルチョイス)

13:00〜18:00 会期中の金・土・日のみ開廊 
※営業は3月30日まで 最終日(30日)17:00〜クロージングパーティー
〒464-0037 名古屋市千種区楠元町2-12 TEL 052-751-2050
multi@m-choice.com(開廊時以外はメールでのお問い合わせのみと なります)

URL http//:www.m-choice.com