政策学と政策評価

 T 政策とはなにか

 政策とは何か、定義するのは難しい。いろいろな議論があるが、いくつか代表的と思われるものを紹介する。

 1.行政学者の分類

 @政治的スローガンとしての政策
 具体的な問題が政治的手続きを経て政策課題、すなわちアジェンダとして認知され時、政府がその問題をどのように認識し、どのような方向に向かって解決しようとしているのか、どのように対応しようと考えているのか、という政府行動のアウトラインについての「イメージ」が存在している。この例としてあげられるのは第一に「公式に示されたスローガン」、第二に「問題に関して表明された閣僚や市長などのトップの発言」、第三に2002年の統一地方選挙(とくに知事選挙や市長選挙)、2003年の衆議院選挙で盛んに用いられ始めた「マニフェスト」である。
 A問題の解決「策」(プログラム)としての政策
 「政党に政策論争がない」という場合の政策。問題がアジェンダとして特定された後、政府の具体的な活動案、すなわち「プログラム」を作成することが必要である。このプログラムが完成して問題の解決案が具体化する。その際欠かせないのは、
  ・分野によっては高度な専門能力(expertise)

  ・他の多くのプログラムとの整合性を持たせること、
  ・プログラムの実施によって影響を受ける人びとの利害関係の調節
 B制度(法律・予算)としての政策
 最も一般的な意味での政策のイメージ。先のAのプログラムが一定の公式の手続きを経て、政府活動及び関係者を拘束する法律ないし予算などの公示形式で制定された場合、それは公式の「政策」となる。この立法、予算決定行為によって「政策」は現実化され、それ以後はこの法律に定められた義務に関係者は拘束されるとともに、ここに示された権利や利益は保障される。そしてこの「政策」に関わる人びとの行動基準、判断基準が形成されるのである。
 C行政機関の行動基準としての政策
 「制度としての政策」は行動基準、判断基準ではあるが内容は抽象的で、現実にはそのまま適用できない。基準をより具体化した執行機関の基準を設定する作業が必要になる。また与えられた予算の範囲内で人員、機材、資源などを適切に配分し、組織目的を有効に達成していかなければならない。Bの政策を実施する過程においてこの政策を担当する機関の活動を統制し、資源の管理を行うための基準や指針がここでいう「行政機関の行動基準」としての政策である。これは政策を実施する機関の管理者の立場からみた政策であり、多くの場合、法律や予算が抽象的な内容であるため、この政策が実質的に政府活動の内容を決定する。日本の国レベルの行政では、本省から発せられる無数の「通達」や「訓令」から成り立っている。この政策に欠陥が在れば政策は期待した結果、効果を生み出せない。
 D実施活動としての政策
  上のBがCに具体化され、多くの「第一線のストリートレベルの行政官」は実際の行政活動を遂行するが、それによってはじめて社会に現実的な変化がもたらされる。これこそ「政策アウトプット」であり、実施活動としての政策である。この政策は現実の具体的状況においては異なるクライアントを対象として行われるため、その活動の相手側や実施環境内の諸要因によって多様かつ流動的になる。
 E政府サービスとしての政策
 政府の行動がインフレなどの望ましくないインパクトを持ったとき「政府の失敗」というが、この表現がここでの政策のイメージ。また、政策のクライアントが政府活動の結果、政策アウトカムに対して抱くイメージも、ここでいう「政府サービスとしての政策」である。民主主義ではこの最終的な政府サービスとしての政策の評価に基づいて、国民は次の政権担当者や政策の選択を行うのが原則。ただし、国民にはさまざまな立場があるため、統一的な政府サービスとしてのイメージがあるわけではない。政策アウトプット(直接的結果)→アウトカム(成果・効果)→インパクト(長期的影響)
 
◇この定義は森田朗「『政策』と『組織』―行政体系分析のための基本概念の考察―」、『行政体系の編成と管理に関する調査研究報告書』(平成元年度)、総務庁長官官房企画課、平成3年2月を参考にしている。
 
 2.政治学者の分類

   ◇T.ロウイの分類方法:‘Four Systems of Policy, Politics and Choice,1972
 @分配(distributive)政策民間活動に対し財やサービスを提供するせいさくであり、たとえば公的資源の分配、関税、補助金である他の利害と対立しない。経済学で言う「公共財」の供給。
  A規制(regulatory)政策。安全規制、規格外の商品の排除、不正競争や誇大公告の排除:政策によって利益をうるものと損害を被るものが明確か。これを再分類したものがリプレイとフランクリンの政策類型(1982) ・・・・ロウイを修正。一つは「競争的規制(competitive regulatory)政策」である。多くの中から選ばれたものに対する便益の供与(鉄道や航空路線の許可、トラック運送業者の認可)。規制緩和の対象である。もう一つは保護的規制(protective regulatory)政策」で、公害や独占の規制による民衆の保護。
 B再分配(re-distributive)政策資源配分をめぐる利害対立が社会的階層集団を単位とする場合、累進課税、社会保障の政策をとる。
 C構成的政策(constitutional)政策。政策決定の前提となる制度の政策。選挙区改正、新機関の設立、行政改革、地方分権。

 3.日本の法律 

 「行政機関が行なう政策の評価に関する法律」(2001年6月22日成立)
 第二条第2項  この法律において「政策」とは、行政機関が、その任務又は所掌事務の範囲内において、一定の行政目的を実現するために企画及び立案をする行政上の一連の行為についての方針、方策その他これらに類するものをいう。
 


 U 政策評価

 日本の行政は明治以来、法律の解釈と執行という立場をとり続け、自明のこととして疑わずに来た。いわゆる法治行政原理である。かつて明治の人びとがドイツ語の‘Verwaltung’や英語の‘administration’の訳語として、行政ではなく「行法」を考えたということもこうした意味で理解できる。法律や規則規程を守ったということが重視され、行政監査や会計検査、裁判などが合法性や合規性を確認する手段として発達した。近年の市民オンブズパーソンの活躍もこの延長線上にあるし、情報公開はこうした活動の有力な支援手段である。

 しかし、現代の行政に対する市民の声は合法性・合規性だけでは足りず、有効性や効率、政策の必要性の確認までも求めるようになり、しかもこれらの評価・確認作業は従来の手段では難しいことが1970年頃からわかってきた。そこで考え出されたのが「政策評価」である。行政という組織メカニズムが評価対象なのではなく、行政が担当する仕事そのもの、つまり政策とその目的達成手段の施策や事業を評価したいと考え、目的が達成され期待した成果が出ているかどうかが評価基準になる。法律や規則を守ったということだけでなく、政策の成果が出ていることを
説明できる「能力」もまた行政には必用になるのである。これが近年流行しているアカウンタビリティ概念の本質である。

 ただ、このアカウンタビリティという点で政策評価は未成熟で、三つの問題を抱えている。

 第一に、政策の成果を知るためにはツールがいろいろ必要である。経済学の費用便益分析や経済分析、政策コストを分析する会計学や経営分析・財務分析、社会学の各種調査手法、統計学とそのための数学、あるいは環境科学を構成する諸学(生物学・化学・地質・自然地理学)など、従来の文科系と理科系を総合したツールが必用だが、そうした人材はあまり育っていないし、総合的な研究・教育機関も少なかった。いま現在でも課題であり続けている。

 第二に法律学、財政学、政治学、行政学、統計学は役所にも浸透しているが、現場の政策思考に使うように再編成されていない(例外は政策法務である)。どうしても一般市民には理解困難な手続論や数字の羅列になる。あるいは市民参加の理想も形式にとどまることが少なくない。これらの学問は応用という部分で弱いからである。

 第三に、成果は本来市民の目で検証すべきだが、実際は難しい。ようやく行政サービスの顧客を重視する視点は浸透したが、政策評価の場合、さらに踏み込んで市民が自ら政策の成果、目標達成度をチェクすべきで、その際市民と行政は協働して政策プロセス(政策の形成、執行状況のモニター、評価、改善策の提案)に参画するのが理想である。しかし、そのような市民がどれだけ存在するのか、いささか疑問である。NPOを組織してみたが、結局は専門家集団として特化している。

 政策評価はひょっとしたら、永遠の課題であり続けるかも知れない。